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#046 CES2020で発表された、中小製造業向けの IoT プラットフォーム

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

先週(1月6日〜9日)、ラスベガスでCESという電子機器の見本市が開催されました。

ソニーさんの電気自動車のコンセプトカーや、トヨタさんが裾野市で行う様々な実証実験を行うための街作り、ちょっと変わったところではジャガイモと会話できる装置、などの発表がありましたが、
個人的に気になったモノとして、主に中小製造業をターゲットとした IoT プラットフォームの発表がありましたので、今回はそれについてまとめてみたいと思います。

中小企業の生産性を高めるための設備投資に対しては、現在国から様々な補助金が出されています。そうした補助金を使ったシステムの開発にも、こうした IoT プラットフォームは活用できそうです。

Arduino が発表した IoT プラットフォーム

今回のCESで発表されたのは、Arduinoという団体が発表した、IoT向けのハードウェアとその開発環境一式です。

以下の blog に書かれた内容がわかりやすいので、重要な部分を訳していきたいと思います。

Arduino Blog » Arduino goes PRO at CES 2020
https://blog.arduino.cc/2020/01/07/arduino-goes-pro-at-ces-2020/

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Millions of users and thousands of companies across the world already use Arduino as an innovation platform, which is why we have drawn on this experience to enable enterprises to quickly and securely connect remote sensors to business logic within one simple IoT application development platform: a new solution for professionals in traditional sectors aspiring for digital transformation through IoT.
世界中の数百万のユーザーと数千の企業が既に Arduino をイノベーションプラットフォームとして使用しています。この経験を活用することで、いろいろなセンサーを、素早く、セキュアに、ビジネスに組み込むことができるようになります。必要なのは一つのシンプルなIoTアプリケーション開発プラットフォーム。伝統的な分野においても、IoTによるデジタルトランスフォーメーションを実現することができます。
Combining a low-code application development platform with modular hardware makes tangible results possible in just one day. This means companies can build, measure, and iterate without expensive consultants or lengthy integration projects.
モジュール化されたハードウェアと簡単なソフトウェア開発環境を組み合わせることで、わずか一日で成果物を作ることができます。コンサルタントに高いお金を支払ったり、開発に長い時間をかける必要はありません。
At CES 2020, we are also excited to announce the powerful new Arduino Portenta family. Designed for demanding industrial applications, AI edge processing and robotics, it features a new standard for open high-density interconnect to support advanced peripherals.
CES2020では、新しい強力な Arduino Portenta ファミリーを発表できることを嬉しく思います。この新しいハードウェアは要求の厳しい産業用途でも使えるように設計されており、AIのエッジ処理やロボット制御にも使えます。最新の周辺機器に接続するための標準規格にも対応しています。
The first member of the family is the Arduino Portenta H7 module – a dual-core Arm Cortex-M7 and Cortex-M4 operating at 480MHz and 240MHz, respectively, with industrial temperature-range (-40 to 85°C) components.
このファミリーの最初の製品は、Arduino Portenta H7 モジュールという名前で、CPUは Arm Cortex-M7(480MHz) と Cortex-M4(240MHz)の2つによる dual-core 構成です。動作温度は、工業用の温度範囲(-40℃〜85℃)を保証します。
The Portenta H7 is capable of running Arduino code, Python and JavaScript, making it accessible to an even broader audience of developers.
Portenta H7 を動作させるためのソフトウェアは、旧来の Arduino code に加えて Python や JavaScript もサポートしており、これまでよりも多くの開発者が参加しやすくなっています。

以上、簡単にまとめると、
・Arduino Portenta H7 という、IoT 向けの新しいハードウェアがリリースされる。
・CPUスペック、センサーなどと接続するためのI/F、動作温度、など、主に工場などで使用する IoT デバイスとして十分なスペックを備えている。
・使いやすい・開発しやすいソフトウェアの開発環境もあわせて提供される。

ということのようです。

今回発表されたハードウェア(Portenta H7)の詳細スペックは、以下のページにまとめられていました。

Portenta H7
https://store.arduino.cc/usa/portenta-h7

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メモリ8MB、FROM16MB、USB-C、WiFi/Bluetooth、DisplayPort出力、80pinコネクタ、といった、IoT機器開発に必要な機能は全て登載されているようです。
お値段は1つ $99.90。日本円で1万円強といったところでしょうか。
これまで Arduino がリリースしてきたハードウェアに比べるとお値段高めですが、上記のスペックに照らすと妥当な金額かなと思います。

Arduino とは

ここで、そもそも Arduino とは何かについて簡単に触れておこうと思います。

Arduino - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/Arduino

もともとは、2005年にイタリアではじまったプロジェクト。
簡易な制御装置を安く簡単に作れるようにするために、基本的な制御機能をもった小さなCPUボードを、オープンハード(設計図などを公開して、誰でも同じものが作れるようにしたハードウェア)として公開しました。
その後、世界中にこの Arudino を使ったものづくりを行うコミュニティができ、研究や教育用途として広く使われるようになっています。

日本でも最近は義務教育におけるプログラミングの教材などに採用されることもあるようです。

Arduino IoT Cloud

さて、ここからは、もう少し掘り下げて、この Arduino による IoT プラットフォームの特徴的な部分をみていきたいと思います。

一つ目は "Arduino IoT Cloud"。

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Arduino Pro
https://www.arduino.cc/pro/arduino-iot-cloud

まだ詳細なドキュメントがリリースされていないので推測の部分がありますが、Arduinoが提供するサーバーにアカウントを作成し、ハードウェアを登録すると、そのハードウェアが取得したセンサーのデータを Arduinoが提供するサーバで管理し、Webブラウザやスマホアプリから閲覧・制御可能になるようです。
自分でサーバーを立てなくて良いので、サービス開発のハードルがぐっと下がります。素晴らしい!

Arduino SIM

次は "Arduino SIM" です。

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Arduino Pro
https://www.arduino.cc/pro/connectivity

SIMというのは、スマホに差し込んで、docomoとかauとかの携帯電話網に接続するために使用する小さなICチップ入りのカードのこと。一度は目にされたことがあると思います。
こちらも詳細なドキュメントがないので推測になりますが、1台あたり月$1.5で5MBまでデータ通信ができる SIM を Arduino 自ら提供するようです。
日本でも、例えばソラコムさんや KDDI さんが同じようなサービスを展開されていますが、Arduino が自らサービスを提供することで、開発環境との統合や、前述の Arduino IoT Cloud との親和性が高くなることが予想できます。

これらを使ってできること

さて、では、この IoT のプラットフォームを使うことで、中小製造業向けにどのようなサービスを開発することができるか、いくつか私のアイデアを書いてみたいと思います。
(一部、既にこれまでに実際の中小企業様に提案させて頂いた内容も含みます。)

[1] 既存の業務の効率化、という観点から

・工場の機械の稼働率を自動的に集計する。
→ 工場のラインの効率化を行いたい場合、まずやらないといけないのは、それぞれの機械がどういう時間帯にどれくらい使用されているかを調べることです。通常、この調査を行う場合、作業者自らがその機械の使用開始・使用終了時刻を記録し、記録結果を手作業で集計しないといけません。機械の電流量を測定するセンサーを Arduino Portenta に取付け、電流量をすべてクラウドに送って記録・集計することで、どの機械がどの時間に使われたかをすべて自動的に記録することができるようになります。

・社員の勤怠管理
→ 中小企業においては、まだ、勤務時間を手書きのタイムカードで記録し、手作業で集計しているところも多いです。会社の出入り口に Arduino Portenta をベースにした入退出管理機械を設置し、社員に配布した RFID タグと組み合わせることで、勤怠時刻を自動的に管理することができます。

・工場や農場の温度管理
→ 温度センサーを取りつけた Arduino Portenta を工場の必要なところに置いておけば、24時間体制で自動的に工場の温度を記録することができます。前述の Arduino SIM に加え、GPSや太陽電池を組み合わせれば、屋外の畑や牧場などの温度を同じように24時間記録することができます。

・画像処理による不良品のチェック
→ Arduino Portenta にカメラセンサーを取付け、AI による画像検出を組み合わせることで、例えば曲がったキュウリを自動的に選別するような機械を比較的簡単に作ることができます。

[2] 新しい付加価値を生む、という観点から

・小売店の受付システム
→ マイクとスピーカーを Arduino Portenta に取付け、音声認識AIと組み合わせることで、音声による自動受付システムを作ることができます。カメラと組み合わせて、そのカメラに商品を見せると「これは○○円です」と答えてくれるようなロボットも作れそうです。

・Arduino Portenta 自体を自社の商品に組み込んでしまう
→ 例えば、工場で使う工作機械を製造・販売している企業の場合、自社の工作機械に Arduino Portenta とセンサー、SIMを組み込んでしまえば、納品した工作機械が故障したらすぐにその情報が自社に届く、というシステムを作ることができます。これにより、単に機械を製造・販売するというビジネスだけでなく、その機械のメンテナンスや、故障対応にまでビジネスの範囲を広げることができるでしょう。

以上はこれまで私が見聞きした企業さんの事例をベースに考えたアイデアですが、他にも、それぞれの企業さんで抱えている課題に対して、こうした IoT 的なアプローチでの解決方法はいろいろと考えられるように思います。

で、いつから使えるようになるの?

ハードウェアは今のところ2020年2月販売開始、その他クラウドサービスなどはおいおい、という感じのようです。
ただし、日本で使えるようになるためには、輸入する会社が「技適」と言われる認証などを取得する必要があり、まだもうちょっと時間がかかりそうです。
私もハードウェアや開発環境が入手できたら、何か一つ試作してみようと思っています。

まとめ。

(1) 2020年1月6日〜9日にラスベガスで行われたCES2020において、Arduinoという団体が IoT 向けのプラットフォームを発表しました。

(2) 発表されたのは、IoT 向けの$99.90のハードウェアと、付随するソフトウェア開発環境・クラウドサービスです。これらを使用すると、比較的簡単に、センサーデータをクラウドに送るなどの IoT 機器を開発することができます。

(3) 具体的な IoT システムとしては、各種センサーを使った工場の管理システムや、AIを活用した顧客との対話システム、自社の商品に組み込む通信モジュールなどが考えられます。企業さんが抱えておられる課題は様々ですが、こうした IoT のアプローチで解決できるものも多いのではないかと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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