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#074 「ガリガリザウルス」の著作権は誰のもの?

ガリガリザウルス

先週末、7月12日(土)・13日(日)は、令和2年度の中小企業診断士 第1次試験でした。

受験された方、お疲れさまでした。

私も一通り7科目の問題をチェックしてみましたが、今年は地雷になりそうな科目(その年だけ著しく難しい科目)も無かったようで、今年のポイントだった改正民法だけきっちり抑えておけば合格ラインに乗せることができたのではと思います。

さて、受験生の方々の twitter を拝見していたら、なんだか盛り上がっていた問題があったので、今回はそれをネタに取り上げてみたいと思います。
アイスキャンディーの製造・販売を行っている、ある中小企業が考えた、「ガリガリザウルス」というキャラクターの著作権に関する問題です。

令和2年度 中小企業診断士 第1次試験「経営法務」第9問

では、まず、その問題を見てみましょう。
問題は中小企業診断協会さんのページ<https://www.j-smeca.jp/contents/010_c_/shikenmondai.html>から拝借しました。

第9問_1

第9問_2

問題をすごく簡単にまとめると、
・会社の業務として社員が描いた「ガリガリザウルス」というキャラクターの、(1)著作者 (2)著作者人格権 (3)著作権(著作財産権) は、会社・社員のどちらになるか
という問題です。

回答

では、回答です。
(1) 著作者 → 会社
(2) 著作者人格権 → 会社
(3) 著作権(著作財産権) → 会社

ということで、全て会社の権利になります。

選択肢の中だと、(ウ)が正解ですね。

多分、この問題で一番ひっかかりやすいのは「著作者人格権」の扱いではないでしょうか。
この著作者人格権が社員に属すると考えて、(ア)を選んで間違えた方が多かったのではと予想します。

「著作者人格権」とは

以前、

#065 AI がプレスリーの新曲を創る時代に著作権はどうあるべきか|多田幸生(中小企業診断士)|note
https://note.com/yukio_tada/n/nc84cfaf08fdd

というエントリにも書きましたが、

著作者の権利は、大きく
(1) 著作者人格権
(2) 著作財産権

に分けられます。

著作者人格権は、その作品を発表するかどうか、発表するとしたら本名で発表するかどうか、など決めたり、内容を勝手に変えられたりしないようにしたりする権利です。
一方、著作財産権は、その作品でお金を得るために、本にしたり上映したり放送したりできる権利です。
(詳細な内容は、上のエントリをご覧ください。)

で、おそらく、「著作者人格権」について一番最初に勉強するのは、「著作者人格権は他人に譲渡できない」というポイントではないかと思います。
(法務のテキストにも必ず書いてあるはず)
この、「譲渡できない」という部分に引っ張られると、「譲渡できないのだから著作者人格権は社員に属するはず」という間違いを選んでしまうように思います。

この、著作者人格権について例外があるのが、今回のシチュエーションで出てくる「職務著作」という考え方です。

「職務著作」とは

「職務著作」とは、職務の一環として社員が何か創作した場合、その業務を指示した雇用主が著作権を持つ、という考え方です。
この考え方があるおかげで、会社は、業務の中で作られたキャラクターやロゴ、デザイン、音楽を、自社のビジネスに自由に使うことができるようになります。
(注: ただし、職務著作においても、氏名表示権だけは社員に帰属するとする考え方が主流のようです。細かいですが念のため)

この職務著作の考え方がないと、どういう面倒なことが起きるでしょうか。
同一性保持権が社員にあるままだと、例えばガリガリザウルスのキャラクターをちょっとだけ改変して別のキャラクターを作るような場合、いちいち最初にそのデザインを考えた社員にお伺いをたてないといけなくなってしまいます。
その社員さんが会社にいればまだ良いかもしれませんが、退職してしまったりすると、確認する手間はとても大きくなってしまいます。

今回の会社さんの場合、様々なグッズ展開を考えておられるようですので、このタイミングで著作権の取扱いをきちんと確認しようとされているのはとても良いことだと思います。

「職務著作」になる条件

ただし、会社の業務時間内に社員が作った著作物はすべて職務著作になる、というわけではないので注意が必要です。

著作権法15条1項で「職務著作」になるための条件が以下のように定められています。

(職務上作成する著作物の著作者)
第十五条
法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

文章が長くてわかりにくいので、条件を箇条書きにしてみます。

(1) 法人等の発意(思いつき)に基づくこと。
(2) その法人等の業務に従事する者が職務上作成したものであること。
(3) その法人などが自己の名義で公表するものであること。
(4) 契約や勤務規則に別段の定めがないこと。

ややこしそうなのは (1)の「法人等の発意に基づく」という点でしょうか。
これは、その著作物を作成しようとする意思が会社側にあった、ということです。

今回の試験問題では、「当社の商品開発部が考えた商品コンセプトに基づいて」という文章でこの要件を抑えているように見えます。
その他、「パッケージデザインを担当する宣伝部の若手社員」という文章で「その法人等の業務に従事する」という要件を、「業務として書き下ろした」という文章で「職務上作成した」という要件を表現しているのだと思います。

実務において注意すべきこと

さて、今回はテスト問題だったのでこの回答で問題ないのですが、実務では、これらの「職務著作」の条件を満たしているかどうか必ずしもはっきりしないことがあったり、そのために会社と社員との間でもめ事が起きてしまうこともあるようです。

例えば、以下のページには、主に写真に関する職務著作の判例が載っていました。

職務著作 | 写真著作権判例集
https://hanrei.jps.gr.jp/precedents-cat/job-assignment/

こうしたトラブルにならないようにするために、職務著作であることがきちんとわかるように記録を残しておくことが重要ではないかと思います。たとえば、口頭で業務指示をせずにメール等で記録を残すように心掛けるだけでもあとでもめるリスクは減らせると思います。

さらには、今回の問題の趣旨とは離れますが、最初から契約書に「著作者人格権を行使しない」といった条項を入れておくと、職務著作かどうかに関わらずこうした問題を回避することができると思います。
(クリエータさんとの契約書にはよく出てくる条項だと思います。)

まとめ。

(1) 著作権は、大きく「著作者人格権」と「著作財産権」に分けられます。

(2) 「著作者人格権」は、基本的に他人に譲渡したり相続したりすることのできない権利で、「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」などからなります。

(3) ただし、その作品が業務指示の下で行われた場合には「職務著作」となり、著作者人格権も会社に帰属することになります。後々権利関係でもめないようにするために、「職務著作」であることが明確にわかるような記録をとっておくことが、実務上大切です。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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