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クラウドファンディングと知的財産権(3)

クラウドファンディングでの知財問題を避けるためには、やはり事前の対策が重要になってきますね。

問題が起こってからでは望ましい解決に至らない場合が多いですし、万が一知財問題に巻き込まれても事前対策の有無で結果が大きく変わってきます。


(1)第三者による摸倣リスクに対して

①何を公開して何を秘密にするのか

まずは、クラウドファンディングを成功に導くために公開すべき情報と、模倣されないように秘密にすべき情報とを意識的に区別することから始めます。

一般的にクラウドファンディングで成功するためには、いかに支援者の共感を得られるストーリーを描けるか・・・いかに直感的に役に立つ・面白い・独自性があると感じてもらえるかなどが重要だとされています。

いわゆる、「右脳」に働きかけるストーリーですね。

このようなストーリーを描くために、対象となる商品やサービスの内容を明らかにすることは必要になるでしょう。

しかし、支援者の心に響くのは、現在の何が将来「何に」変わるのかということ。「なぜ」「どのようにして」変わるのかということはあまり重要ではありません。

「なぜ」「どのようにして」という情報は、「何に」という結果に信ぴょう性を与えるものであれば十分。

例えば、対象のプログラムを既存の3Dスキャナーにインストールするとその読み取り性能が飛躍的に向上するとします。

このプログラムをPRするのであれば、既存の3Dスキャナーで読み取った3D画像と、対象のプログラムをインストールして読み取った3D画像との比較をストーリーの中で共感を得られるように示せばいいわけです。

「なぜ」「どのようにして」ということについては「世界初の〇〇技術によって」程度で十分な場合が多いと思います。

一方、「何に」変わるのかが分かっても、「なぜ」「どのようにして」が分からないと模倣できない商品は多いと思います。

言い換えると、たとえ現物を入手できたとしても「なぜ」「どのようにして」そのような結果が得られるのか分からない商品。例えば、処理内容の解析が困難なプログラムコード、製法を特定できないコカ・コーラ(登録商標)などですね。

このような場合、いうならば「左脳」に与える「なぜ」「どのようにして」という情報が無ければ模倣できないわけです。

こういうケースでは、「右脳」に働きかけるストーリーを公開しつつ、「左脳」に与える「なぜ」「どのようにして」という情報を秘密にすることで第三者の模倣を防ぐことができます。


一方、特許権取得の場面では「なぜ」「どのようにして」という情報が肝となります。課題の解決手段が発明そのものだからです。

そのため、「なぜ」「どのようにして」という情報を公開すると、原則、その後自分自身が特許権を取得できなくなってしまったり、第三者に改良特許取得の機会を与えてしまったりといったリスクが生じます。

また特許権を取得せず、「なぜ」「どのようにして」という情報を公開した後に営業秘密として保護しようと思っても、いったん公開してしまった情報を秘密状態に戻すことはできません。

このような理由から「なぜ」「どのようにして」という情報はできるだけオープンにしない方が好ましいと言えます。


②知的財産権による保護を検討すべき場合

しかし、商品を見れば「なぜ」「どのようにして」という情報が明らかになる場合もあります。

このような場合には、入手した商品そのものから模倣が可能です。前回示したLunatik社のウォッチキットはこのような例ですね。

また、商品やサービスのネーミング、デザイン、コミック、音楽、映像等のコンテンツは、公開と同時に内容が明らかになります。

このような場合には、公開前にそれらの知的財産権を抑えられないか検討すべきだと思います。

保護対象によって検討すべき法律が異なります。以下、概要をまとめてみました。

図1

≪特許法≫
特許法は発明を保護する法律。

「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。

特許権を取得することで商品やサービスの技術的な特徴の模倣を防ぐことができます。

純粋なビジネス方法で特許権を取得することはできませんが、スマホやインターネットを利用したビジネス方法であれば特許可能な場合もあります。

プログラム・アルゴリズムも保護対象です。

ただし、特許権を取得するためには特許庁に特許出願を行い、内容の審査を受ける必要があります。特許権は設定登録によって発生し、保護期間の満了は原則出願日から20年。


≪実用新案法≫
実用新案法は考案を保護する法律。

「考案」とは、いわゆる小発明。「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されています。

ただし、「物品の形状、構造又は組合せ」しか保護できません。すなわち、方法は実用新案法では保護されません。

特許権と異なり、実用新案権は実体的な審査なしで登録されます(書類等の形式的な審査はあります)。そのため、実用新案権を取得するだけなら容易です。

ただし、権利行使の際には権利の有効性について再評価を受ける必要があります。実用新案権は設定登録によって発生し、保護期間の満了は出願日から10年。

特許権を取得することが困難な場合でも実用新案権を取得しておけば、それなりの威嚇効果はあります。


≪意匠法≫
意匠法はデザインを保護する法律。

「意匠」とは、「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(形状等)、建築物の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限る)であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定義されています。

要は、工業デザイン、建築物や内装のデザイン、機器の操作用の画像デザイン、機器の機能を発揮した際の表示画面のデザインなどを保護可能です。

意匠権を取得しておけば、これらのデザインの模倣を防ぐことができます。

意匠権を取得するためにも特許庁に出願を行い、内容の審査を受ける必要があります。意匠権は設定登録によって発生し、保護期間の満了は出願日から25年。


≪商標法≫
商標法は商標を保護する法律。

商標権によって、指定した商品や役務への商標の使用およびその類似範囲への使用を禁止できます。

文字、ロゴ、立体的形状、それらが変化するもの、色彩、音などが商標として保護可能。

商標権を取得するためにも特許庁に出願を行い、内容の審査を受ける必要があります。

保護期間は登録から10年ですが、更新によって半永久的に保護することもできます。


≪著作権法≫
著作権法は著作者の権利及びこれに隣接する権利を保護する法律。

「著作物」は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。

具体的にはコンテンツやデザインなどが保護対象。工業製品や建築物から離れたデザインも保護可能ですが、表現されたデザインしか保護されません。

つまり、特許権や実用新案権と異なり、その表現の背景にあるアイデア・概念は保護されません。

また、第三者が偶然似たような著作物を創作して販売していても、それを防ぐことはできません。この点、侵害者の過失までも推定される特許権や意匠権等と異なります。

著作権は著作物の創作と同時に発生します。保護期間は70年。

特許権等と異なり、登録の手続きは不要。登録制度はありますが、著作権を取得するためのものではありません。


≪不正競争防止法≫
不正競争防止法は不正競争の防止や損害賠償に関する措置等を定めた法律。

この法律では、商品や営業に関する表示の不正使用や商品形態の模倣などを不正競争として規制しています。

具体的には、営業に使用される商号などの名称や商品パッケージの不正使用、商品の模倣などを防ぐことができます。

特許権等と異なり、登録の手続きは不要。商品の模倣に関しては、その模倣品が日本で最初に販売されてから3年以内という制約があります。


まとめると、クラウドファンディングの対象となる商品やサービスが技術に特徴を持ち、それが方法についての工夫であれば特許法、それ以外の場合には特許法や実用新案法の対象になります。

デザインに特徴があるのであれば、それが工業デザイン、工業製品の操作や機能を発揮した際の画面デザイン、建築物のデザイン、内装のデザインなら意匠法や不正競争防止法、ロゴデザインなら商標法や不正競争防止法、それ以外のデザインなら著作権法の対象になります。

ネーミングの盗用については、商標法や不正競争防止法を検討することになります。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁理士 中村幸雄

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