見出し画像

屋外アートと著作権:トラブルを避けるための法的ノウハウ

大阪府と大阪市は、統合型リゾート(IR)の宣伝素材に、美術家の作品を無許可で利用していたことを明らかにしました。問題となった素材には、青森県立美術館の室外に展示されている「あおもり犬」も含まれています。今回のテーマは、屋外アート作品を利用する際の注意点です。

今回のポイント

  • 屋外アートの著作者にはどのような権利があるのか?

  • どのような場合に屋外アートの著作権が制限されるのか?

  • 著作権が制限されても安心できないこととは?

  • 屋外アートを利用する際の注意点とは?


著作者の権利-著作権と著作者人格権

りょう:統合型リゾート(IR)の宣伝素材で美術家の作品が許可なく使われたんだって。

でも、街でよくアート作品見かけるよね。普通にスマホで写真撮ったりしてるけど、著作権とか大丈夫なんだっけ?

ゆう:実は、著作者の権利は、人格的な利益を守る著作者人格権と、財産的な利益を守る著作権の二つに分類されるんだよ。

りょう:へぇ、それって具体的にどういうこと?

ゆう:まず、著作者人格権はこんな権利。

りょう:屋外アートに関係ありそうなのはどれ?

ゆう:屋外アートは既に公表されてるから公表権は問題にならないけど、氏名表示権とか同一性保持権は問題になる可能性はあるね。

りょう:なるほどね。

ゆう:次に、著作権はこんな権利。

りょう:どれが屋外アートに関係あるの?

ゆう:アート作品を撮影したり模倣する行為は複製権や翻案権が問題になるし、アート作品を撮影した映像や模倣した作品を上映したり配信したりすれば、二次的著作物の利用が問題になるね。

りょう:じゃあ、屋外アートをスマホで撮影することも問題になるの?

ゆう:そうとは限らないよ。著作権の効力は、特定の行為について制限されているんだ。


屋外アート作品の著作権が制限される場合

りょう:どんな行為なら問題にならないの?

ゆう: まず、自分自身・家族・友達とかのごく身近な範囲で使用する目的なら、原則、屋外アートを複製してもいいよ。

①私的使用のための複製
個人的に又は家庭内等の限られた範囲内で使用する目的であれば、一定の例外を除き、著作物を許可なく複製できる。

著作権法第30条

ゆう: この範囲であれば、スマホで屋外アートの写真を撮ってもいいってことになるね。

だけど、SNSで配信してしまうのは複製の範囲を超えるから①の対象外。

りょう:インスタに乗せちゃダメってこと?

ゆう:①を理由にインスタで配信することはできないってことだね。

だけど、以下の②③に当てはまるんだったら大丈夫なこともあるよ。

まず、背景に屋外アートが映り込んだに過ぎないような場合には、この屋外アートの著作権が制限されることもある。

②付随対象著作物の利用
付随対象著作物(※1)は、著作権者の利益を不当に害する場合を除き、利益目的・分離困難性・役割等に照らして正当な範囲内であれば、許可なく利用できる。
(※1)付随対象著作物:写真の撮影・放送等で事物の影像等の複製・伝達を行う際に、対象とする事物等に付随する軽微な構成部分となる著作物

著作権法第30条の2

ゆう:また、アート作品が「屋外の場所」に恒常的に設置されている場合には、一定の例外を除き、許可なくアート作品を利用できる。

③公開の美術の著作物等の利用
原作品が屋外の場所に恒常的に設置されている美術の著作物は、一定の例外を除き、許可なく利用できる。

著作権法第46条

ゆう:ただ、「屋外の場所」かどうかが微妙なケースもあるんだよね。

りょう:どういうこと?

ゆう:著作権法では、以下のように「屋外の場所」を定義しているんだ。

屋外の場所
・街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所
・建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所

著作権法第45条第2項

りょう:美術館の中とか中庭はどうなの?

ゆう:通常、美術館の中は屋外ではないね。中庭も屋外の場所とは言えないだろね。

りょう:その場合には許可が必要ってことだね。

ゆう:そうだね。また③に該当する屋外アートであっても、それを利用した作品(二次的著作物)を新たに作るのであれば、その新たな作品には原作である屋外アートの「出所」を明示しなければならないんだ(著作権法第48条第3項第1号)。

りょう:具体的に何を表示すればいいの?

ゆう:著作権法には、「著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない」ってことしか記載されていないけど、屋外アート作品であれば、展示場所とか作者とかだね。

りょう:結局、①から③のどれかに該当すれば、屋外アート作品を無断で利用してもいいってこと?。

ゆう:いや、必ずしもそうでもないんだ。①から③で著作権が制限されても、それによって著作者人格権は制限されないんだ。

りょう:え、そうなんだ。例えば、どんな行為が問題になるの?

ゆう:屋外アート作品の場合、①から③のいずれかに該当しても、氏名表示権とか同一性保持権を侵害するような利用はできないってことだね。


「あおもり犬」の場合

りょう:ニュースにあった「あおもり犬」の場合はどうなの?

ゆう:まず、「あおもり犬」が③の制限規定に該当すれば、その著作権が制限されるけど、難しいかもね。

「あおもり犬」は、青森県立美術館の地下二階の壁で囲まれたエリアに設置されている巨大オブジェクト。エリアの真上は外に開けていてる。ちょうど、中庭に近いエリアだね。

ゆう:この「あおもり犬」の設置エリアは、③の「屋外の場所」といえない可能性がある。地下二階の壁で囲まれたエリアが、美術館の入場者以外にも開放されているエリアと言えるかどうかが分かれ目。

また仮に③に該当するとしても、宣伝素材の一部に「あおもり犬」の絵を取り込んでいるのであれば、その出所の明示が必要になる可能性もある。

りょう:著作者人格権の関係ではどうなの?

ゆう:原作品の出所を宣伝素材に明記していなかったのであれば、氏名表示権も問題になるかもね。これは出所の明示とは独立した別の問題。

加えて、同一性保持権も問題になるかもね。

りょう:「あおもり犬」の形が変えられてるとか?

ゆう:それだけではなく、「あおもり犬」とそれを囲む青森県立美術館の建築物とで1つの著作物とみることができる場合があるんだ。

このような場合、「あおもり犬」だけを抜き出して複製することは、同一性保持権を侵害する可能性もあるんだよ。こんな裁判例もある。

彫刻については,庭園全体の構成のみならず本件建物におけるノグチ・ルームの構造が庭園に設置される彫刻の位置,形状を考慮した上で,設計されているものであるから,谷口及びイサム・ノグチが設置した場所に位置している限りにおいては,庭園の構成要素の一部として上記の一個の建築の著作物を構成するものであるが,同時に,独立して鑑賞する対象ともなり得るものとして,それ自体が独立した美術の著作物でもあると認めることができる・・・そして,上記のノグチ・ルームを含む本件建物全体,庭園及び彫刻が一体となった建築の著作物はイサム・ノグチと谷口の共同著作に係る著作物であり,独立の著作物としての彫刻はイサム・ノグチの著作物であるから,イサム・ノグチは,これらの著作物について,共同著作者ないし著作者として,著作者人格権(同一性保持権)を有する。

「ノグチ・ルーム事件」 平成15年6月11日 東京地裁決定

りょう:いろいろ問題ありそうだね。


今回のまとめ

  1. 屋外アートの著作者の権利は、人格的な利益を守る「著作者人格権」と、財産的な利益を守る「著作権」の二つに分類される。

  2. 特定の場合に屋外アートの著作権は制限されるが、判断が難しいケースもある。

  3. 屋外アートの著作権が制限されたとしても、その二次的著作物に出所を明示しなければならないケースもある。

  4. 屋外アートの著作権が制限されたとしても、その著作者人格権が問題になることがある。


今回は屋外アートにスポットを当ててみました。著作権トラブルを回避するための参考になれば幸いです。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁理士 中村幸雄

https://yukio-nakamura.com/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?