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クラウドファンディングと知的財産権(1)

自分の夢に挑戦したい、人の役に立ちたい、優れた商品やサービスを広めたいなどの思いをインターネットで発信し、それに共感した人や組織から資金調達を受けるクラウドファンディング。

その目的は「便利な機能を持つ商品を販売したい」「日本未発売の商品を輸入して日本で売り出したい」「今までにないデザインの商品を販売したい」「アクセサリーブランドを立ち上げたい」など様々。

最近は世界的な新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染拡大防止のための研究開発、中止を余儀なくされた各種イベントの救済など、新型コロナウイルスに立ち向かう様々なプロジェクトも立ち上がり、多くの支援金を集めていますね。

クラウドファンディングはここ数年で広く浸透し、個人から大企業まで広く利用されるようになりました。

このようなクラウドファンディングですが、自らのアイデアをインターネット上で不特定多数の者に開示し、その賛同を得るという特質上、知的財産権上の問題も気にしておく必要があります。

今回のテーマはクラウドファンディングと知的財産権です。


1.アイデアの公開

クラウドファンディングでは、自らのアイデアをインターネット上に公開します。公開によって想定される問題は次のような点です。

①世界中の誰もが模倣可能に
インターネット上でアイデアが公開されれば、世界中の誰もがそのアイデアを模倣できるようになります。

魅力的な機能を備えた商品を公開したところ、それと似たような模倣品が先に販売されてしまった、独創的なデザインの商品を公開したところ、そのデザインにそっくりな商品が先に販売されてしまったという具合です。

その結果、本来売れるはずであった価格で売れなくなったり、自らのアイデアでありながら二番手と認識され、本来の目的を実現できなくなるといったことも起こり得ます。


②知的財産権の取得が困難に
原則、アイデアを公開することによって新規性や進歩性を失った発明に特許権は付与されません。

特許制度は国ごとに異なりますが、多くの国の特許法では世界中のどこかで公開された発明には特許権を付与しないことになっています。

そのため、クラウドファンディングでアイデアを公開してしまうと、そのアイデアについて自ら特許権を取得することが困難になります。

これはデザインを保護する意匠権についても同様です。

ただ、自らのアイデアを公開した者に対して特別な救済規定もあり(特許法30条、意匠法4条)、これを使えばアイデアが公開されていないとして審査を受けることができます。

日本の場合、この適用を受けるためには、公開から1年以内に特許出願等を行い、定められた証明書を提出しなければなりません。

ただ、このような救済規定は国ごとに相違し、権利取得しようとする国で同様な救済が受けられるとは限りません。


③いったん公開したアイデアは二度と秘密にできない
公開したアイデアを秘密状態に戻すことはできません。

商品からアイデアが漏洩することがない場合には、特許出願もせず、いわゆる「営業秘密」としてアイデアを非公開にして模倣を防ぐことも一つの有効な選択肢です。

しかし、いったんアイデアを公開してしまうと、もはや「営業秘密」として模倣を防ぐことはできません。


④ネーミングの模倣
クラウドファンディングで知名度を上げた名称の模倣も想定されます。

名称が模倣されてしまうと、世間の人はそれがオリジナルなのか模倣品なのかを区別できなくなってしまいます。

こうなってしまうと、知名度を利用されるだけではなく、粗悪な模倣品の悪評がオリジナルにも及んでしまうといったことも・・・

インパクトが大きいほど、悪い評判も広まり易いものです。


2.知的財産権の侵害

プロジェクト対象の商品、サービス、それらの名称が他者の知的財産権を侵害してしまうリスクもありますね。

①特許権や意匠権の侵害
クラウドファンディングの対象となる商品が他者の特許権や意匠権を侵害している場合、たとえ資金調達に成功しても、原則、製造・販売を行うことはできません。

そのような商品を販売目的で所持しているだけでも侵害行為とみなされてしまうくらいです。

海外で製造された商品を正規代理店として販売するプロジェクトの場合も同様ですね。

対象商品が製造元とは無関係の第三者の特許権や意匠権を侵害している場合には輸入することもできません。

また、他人の特許権や意匠権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定されてしまいます。

第三者の特許権や意匠権を知らなかったでは済まないということですね。


②商標権の侵害
名称が第三者の商標権を侵害している場合、それらの名称の変更が必要になる場合もあります。

商標権を侵害している場合、海外の製造元からの輸入もできず、販売目的での所持も侵害とみなされてしまいます。

侵害の行為について過失があったものと推定されるのも同様です。


③著作権の侵害
他者の著作物を無許可で自らのコンテンツに取り込むと著作権の問題が生じることがあります。

インターネットなどで入手した文章、画像、音楽などを利用する場合には注意が必要ですね。

また、自ら創作したオリジナルの著作物であれば、本来、第三者の著作権を侵害することにはならないのですが、自らがオリジナルであることを明確に示すことができなければ、著作権トラブルに巻き込まれてしまう可能性もあります。

以上、今回はクラウドファンディングにかかわる知的財産権問題を挙げてみました。次回以降、これらの対応策について述べてみます。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


弁理士 中村幸雄
https://yukio-nakamura.com/

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