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ハッシュタグと商標権

ハッシュタグとは、TwitterやInstagramなどのソーシャルメディアに含まれた「#」で始まる文字列。

ハッシュタグを記載しておけば、そのリンクを通じてアクセスを集められるといった便利なツールです。

もともとハッシュタグは同じ話題で盛り上がるためのツールでしたが、商品やサービスを拡散したり、キャンペーンに利用したりといった商用目的の利用も増えてきました。

最近は「#検察庁法改正案に抗議します」「#種苗法改正案に抗議します」などのハッシュタグを用いたTwitterデモも話題になりましたね。

米国では数年前からハッシュタグを商標登録するケースも増加し、日本でもキャンペーンなどで利用するハッシュタグが商標登録されています。


ハッシュタグの種別

ハッシュタグは大方以下のように分類できます。

①コンテンツ・ハッシュタグ
コンテンツ・ハッシュタグは、記事に関連する商品、サービス、イベント、地名、趣味、ライフスタイルなどの一般名称や略称を表すもの。

コンテンツ・ハッシュタグを用いることで、そのコンテンツに興味を持つ人のアクセスを促し、投稿内容を多くの人に知ってもらうことができます。

個人的な利用だけではなく、商品、サービス、イベントなどの宣伝や告知にも利用されていますね。

例えば、以下のようなコンテンツ・ハッシュタグがあります。

コーヒーに関連する投稿:#coffee

父の日に関連する投稿:#父の日

東京に関連する投稿:#東京


②トレンド・ハッシュタグ
トレンド・ハッシュタグは、現時点での話題を表し、多くの利用者に使用されているハッシュタグ。

トレンド・ハッシュタグを利用することで、人気の話題に便乗して自らの投稿を拡散させることができます。

例えば、以下のようなものがトレンド・ハッシュタグです。

TV番組名:#スクール革命

Twitterデモ:#種苗法改正案に抗議します


③ブランド・ハッシュタグ
ブランド・ハッシュタグは、各社ブランドに固有のハッシュタグ。

ブランド名そのままのみならず、ブランド名を含むキャッチフレーズ、ブランドイメージを表す文言、キャンペーンやコンテストの名称など様々。

ユニクロのハッシュタグ:#uniqlo

丸亀製麺のハッシュタグ:#おうちで丸亀製麺

P&Gのハッシュタグ:#ChangeDestiny


ハッシュタグと商標権

ハッシュタグといっても文字列であることには変わりなく、所定の登録要件を満たせば、商標登録を受けることができます。

登録要件はいろいろありますが、例えば、自己の商品・サービスと他人の商品・サービスとを区別できるハッシュタグでないと商標登録できません(商標法3条1項)。

そのため、コンテンツ・ハッシュタグをその対象となる商品・サービスについて出願しても商標登録されることは殆どないでしょう。

ただし、コンテンツ・ハッシュタグをそれと全く関係のない商品・サービスについて出願した場合には商標登録されることもあります。

トレンド・ハッシュタグについてはケースバイケース。トレンド・ハッシュタグが同時にブランド・ハッシュタグでもある場合には商標登録される場合もあります。

やはり、商標登録される可能性が一番高いのはブランド・ハッシュタグになります。

例えば米国に本拠を置くP&Gは、そのキャンペーン用のキャッチフレーズ「Change Destiny(運命を変えよう)」のハッシュタグ#ChangeDestinyを商標登録しています。

商標登録の際には商標を使用する商品またはサービスを指定しなければならないのですが(指定商品・指定役務)、P&Gはキャンペーン対象の化粧品関連の商品を指定しているようです。

【登録番号】第5755329号

【登録商標】#ChangeDestiny

【指定商品】肌の手入れ用化粧品,せっけん類,香水,エッセンシャルオイルその他の香料,シャンプー,ヘアースプレー,ヘアージェル,ヘアーコンディショナー,ヘアーローション,毛髪用着色剤,染毛剤,身体用洗浄剤,肌・頭皮・頭髪の洗浄用・手入れ用及び美容用の化粧品,防汗用化粧品,身体用防臭化粧品,化粧品

【権利者】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー


P&Gが展開するキャンペーン「運命を変える女性たち」は、自らの運命を切り開いてきた現役の女性を取り上げ、そのストーリーを動画で紹介するといったもの。

Timelines・タイムライン | ケイティ・クーリック x SK-II

そのような運命を切り開くイメージと自ら肌を変えるといったイメージを結びつけ、SK-IIブランドのブランディング活動を行っています。

ハッシュタグ#ChangeDestinyは、そのような活動を拡散し、ブランドイメージを強化するために重要な役割を果たしています。

池江璃花子選手 x SK-II - #Changedestiny


ハッシュタグの商標権の効力

ハッシュタグの商標権の効力が及ぶか否かは、その使用が指定商品・指定役務との関係で「商標的」に使用されているか否かに依存します。

例えば、一般消費者がP&Gのキャンペーンの感想とともにハッシュタグ#ChangeDestinyを個人アカウントのSNSに記載しても商標権の侵害とはなりません。

このような個人アカウントで化粧品の販売や広告を行っているとは考えにくいですし、ましてや感想に付されたハッシュタグ#ChangeDestinyがこの個人アカウントのブランド名とは扱われないでしょう。

一方、別の化粧品販売業者がオリジナルブランドの化粧品を販売する公式サイトで#ChangeDestinyを表示していた場合には、商標権を侵害するおそれがあります。

日本でハッシュタグの商標権侵害が問題となった事例はまだ見当たりませんが、ドメイン名(xxxxx.jpなど)の使用が「商標的」に使用されているとされた事例は存在します。

平成14年(ワ)第13569号 商標権侵害差止等請求事件、平成15年(ワ)第2226号 商標権侵害差止請求事件

この事例では、求人や採用希望企業の活動内容、将来像、採用傾向等を提供する業務を行っていた業者が、そのサイトで

「Careerjapan.jpは日本で働きたい外国人を応援します」

と表示する行為が、以下の登録商標(現在は存続期間満了によって消滅)を「商標的」に使用する行為であると判断されています。

【登録番号】第4409084号

【登録商標】Careea-Japan

【指定役務】電子計算機通信ネットワークによる広告の代理,広告文の作成

ドメイン名はハッシュタグと多少性質が異なりますが、ハッシュタグの使用が商標的な使用か否かを判断する上では参考になる事例といえます。


まとめ

一般消費者にとってハッシュタグは、手軽に情報を拡散したり、意見交換したりできる大変便利なツールです。

企業側にとってみれば、ハッシュタグの利用によって顧客を巻き込んだプロモーションが可能になり、顧客からの反響も瞬時に知ることができます。

このようなことから、ハッシュタグは企業のブランディングに欠くことのできないツールとなっており、今後はその知的財産の扱いにも注意が必要でしょう。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

弁理士 中村幸雄
https://yukio-nakamura.com/

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