【論文レビュー】肘内側側副靭帯(UCL)はシーズン中の投球ストレスによって変化する?

またまたご無沙汰しております。

バタバタしており、noteの存在を忘れていましたが、修士論文の執筆にもひと段落付きまして、自分が修論のために読んだ論文の整理やメモ代わりにこちらのスペースを借りるのが良いのではないかと今更ながらに思いまして、久々に記事を書くことにしました。

これからはコンスタントに書いていきたいなと思っており、お付き合いいただける方がおられましたらよろしくお願いいたします。それでは本日のお題はこちら。

The ulnar collateral ligament responds to stress in professional pitchers.


Chalmers PN, English J, Cushman DM, Zhang C, Presson AP, Yoon S, Schulz B, Li B. (2020)

https://www.jshoulderelbow.org/article/S1058-2746(20)30544-9/fulltext

MLB投手を対象に調査された、1シーズンを通したUCLの状態を経過観察した研究です。

まず背景として、MLBにおいて肘の内側側副靭帯(UCL)損傷が向こうの言葉を借りるのであれば、"epidemic":「伝染病」のように流行しています。

ダルビッシュ投手や大谷翔平投手のトミージョン手術なんかもみなさんの記憶に新しいところでしょうか。

もちろんいろんな対策が取られていますが、損傷数が大きく減っているとは言い難い状況です。

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1gQujXQQGOVNaiuwSN680Hq-FDVsCwvN-3AazykOBON0/edit#gid=0

そこでこの研究では、MLB投手のUCLをシーズン開始時(T1)、シーズン終了時(T2)、翌シーズン開始時(T3)の3回に分けて超音波検査することで、シーズン中にUCLに何が起こっているのかを明らかにしようとしました。

対象となったのは185名のMLB投手で、平均競技歴は12年、平均球速は95マイル/時でした。

結果

まずUCLの厚さなのですが、最高球速とUCL再建術の既往歴と関連していたそうです。つまり球速が速いほどUCLが厚く、再建術を受けていた人も厚かったということです。

そして、一番重要な結果が、UCLはシーズン中に厚くなり、オフシーズンに薄くなっていたというところです。

さらに、肘屈曲30度位でのUCLの緩みを見たテストでは、シーズン中にUCLの緩みが増加し、オフシーズンには減少していました。

結論

この研究の結論として、投球のストレスによりUCLはより厚く、緩くなり、オフシーズンの休息により薄く、緩みが減るとしています。

考察

この論文を読んで考えられることですが、UCLは投球時のストレスに適応しているんじゃないか?ということです。

よく筋トレなんかでも、過負荷というストレスを掛けることにより筋肥大という反応が起こることが知られています。これは近年、筋肉に対するストレス応答という現象ではないかと言われています。

https://www.dnszone.jp/magazine/2020/19061

ご存じの方も多いかと思いますが、筋肉も靭帯も大きなくくりでいえば、全てタンパク質の塊です。

ここは推測ではありますが、UCLも筋肉同様にストレスに応答して、より強くなろうとしている可能性があります。

しかし、筋トレも休むことで筋肉が元通りになるように、UCLもオフシーズンの休みの間に元に戻ってしまう可能性があるのかもしれません。

もし、オフシーズンに元に戻った状態のUCLにいきなり昨季同様か、それ以上のストレスを掛けたら…

筋トレでも自分の限界値を超えるようなトレーニングをいきなり行うと、強くなる前に怪我をしてしまいます。

UCLにも同様のことが起こっている可能性があり、UCL断裂予防のためには、いきなり大きな負荷を掛けず(≒球速を上げず)に少しずつ負荷を上げていくことが必要なのかもしれません。

実はこの話に繋がるような論文があるのですが、その論文の紹介は次回にしたいと思います。

まとめ

MLB投手を対象とした肘内側側副靭帯(UCL)の調査で、シーズン中はUCLが厚く、緩くなり、オフシーズンには薄く、緩みが減ることが明らかになった。

これはUCLが投球というストレスに反応している可能性がある。

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