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王とタコス(黄金のレガシーSS

トラル大陸、新大陸と呼ばれる地。
今、冒険者は双頭のマム―ジャが治める多民族国家の首都【トライヨラ連王国】へ身を寄せていた。

とはいっても一時期亡命していたイシュガルドのような危機的な理由ではなく、新たな冒険を求めてこの地へと足を踏み入れていた。一種の夏休み、みたいなものだ。

そんなトライヨラ連王国は現在、新たな王を選定する、王位継承戦の真っ只中であった。
私たちはその王位継承候補…ウクラマト王女の協力者として行動を共にしているのだった。

強敵トラルヴィドラール【ヴァリガルマンダ】との激闘を終えた後、私たちは一度報告も兼ねてトライヨラへと戻り、束の間の休息を楽しんでいた。

「おお、おいしいなこれ」
タコスと呼ばれるトライヨラ名物に舌鼓を打つ。
薄い小麦粉を焼いた生地に肉や野菜を詰めた食べ物で、香辛料が利いていてとても食べやすい。

「うーん、私でも作れるかなコレ…」

トライヨラにはタコスの有名店が二つある。
一つは【シャバーブチェ】もう一つは【タコスのチーちゃん】である。
今、私はチーちゃんのタコスを堪能していた。

いつぞやのコーヒークッキーみたいにエオルゼアの特徴を取り入れたタコスを作り、業務提携してもいいな…だなんて考えていると、職人街…【ワチュメキメキ万貨街】の方面に歩いていくヘイザ・アロ族の青年…【コーナ】の姿を見かけた。

コーナ…トライヨラ王位継承戦に参加する四人の内の一人であり、ウクラマト王女の兄、つまりこの国の第二王子であった。

「おーい!コーナ王子!」

せっかくだ、私はコーナ王子に声をかけることにした。
大声で呼び止められたコーナは、ぎょっとした表情を浮かべ、辺りをきょろきょろと伺いながらこちらへと歩いてくる。

「ちょっと、冒険者さん…!今、僕はお忍びで市井の視察をしているんですよ…!大声で呼ばないでください…!」
「ごめんごめん」

あははと笑いながらタコスを一つコーナへと差し出す。

「…なんですか?これ」

コーナは訝し気にタコスへと目を落とす。

「タコス、知らない?おいしいよ?」
「タコスであることくらい知ってるにきまってるじゃないですか!…ごほん、僕が聞きたいのは何故貴女が僕にタコスを差し出しているのか、ということです。」「え、せっかくだから一緒に食べようかな?と思って。」

コーナは一瞬きょとんとした顔をした後、困ったような表情を浮かべる。

「貴女と僕は王位継承をかけて争う間柄なんですよ?」「でも、敵じゃないでしょ?それに皆、どこか行っちゃったし、サンクレッド達も見当たらないし。」

ほれほれ、とタコスを差し出す。
コーナはしかめ面のまま、諦めたようにタコスを受け取った。

「おいしいね、タコス。」
「…当たり前です。僕たちの国の誇りなんですから。」

そういってコーナはタコスを一口、齧る。
中の具材が零れ落ちそうになり、慌てて手で受け止める。
その横顔を見ながら

「ねぇ、コーナ王子はこの国をどうしたいの?」

ふと気になったことを聞いてみる。
私たちはたしかに王位継承を巡って争う関係だ。
だが、それは相手を否定するということだけではない。

「それを知ってどうするんですか?」

横目でじろりとこちらを睨む。

「別に。少し気になっただけ。」

束の間の静寂の後、コーナは少しずつ話し出す。言葉を選ぶように。

「貴女も知っているように僕はエオルゼアへと留学に出ていました。そこで外の国の技術を、エオルゼアの豊かな国を見てきたんです。
この国はたしかに素晴らしい国だ。僕はこの国が…大好きです。でも、以前として人々の暮らしには困難が多い。」

改めて、今までの選王の旅路を思い返すように。

「ペルペル族は天候や、魔物、時には同じ人に襲われる危険を孕んだまま行商している。
ハヌハヌ族は凶作に見舞われた時に為す術を持たない。他にも様々な問題を抱えている。
僕は、そんな国を変えたいんです。外つ国の技術で、僕が学んだ知識で、この国をもっと幸せな国にしたいんです。」

そう言葉を紡ぐ。

「そっか。」

似たもの同士だな、と思った。
コーナはハッと我に返り、照れ隠しにタコスを頬張る。

「サンクレッドやウリエンジェの言った通りだ。貴女には不思議と余計なことまで話過ぎてしまう。」

コーナはバツが悪そうに口を尖らせる。

「ウクラマトも言ってたよ。この国を笑顔でいっぱいの国にしたいって。」
「ラマチも…」

今度は柔らかい微笑みを浮かべる。
コーナはウクラマトの話をする時、すごく優しい顔をする。しかし彼はすぐに表情を引き締めた。

「だけど、ラマチのやり方は理想論です。理想と現実は違う。彼女の王には具体性がないんです。」

ウクラマトを応援したい兄の気持ち、そしてこの国を想う王子としての気持ちが鬩ぎあっているのが感じられる口調だった。

「じゃあさ、コーナ王子が支えてあげるっていうのは?」

思わぬ言葉だったのか、コーナは一瞬呆然とした後、大声で笑いだした。

「貴女は本当に面白いことを言いますね。そしてそれはつまり、僕に負けろ、と言っているのですか?」

「いや?コーナ王子が勝ったとしても、だよ。」

でもそうだね。と一拍を置きつつ

「当然、私たちが勝つんだけどね。」

私はニヤリと笑う。
それを受けてかコーナもニヤリと笑った。

「そうですね。当然、勝つのは僕たちです。…さて、思わず長居が過ぎました。僕はもう行きますね。」

口の汚れを拭い、席を立つ。
コーナは少し歩を進めた後、くるりと身体を翻し

「タコスの御礼はまたいずれ。借りをつくったままでは落ち着きませんからね。」

と律儀にそれだけを言い残し、ワチュメキメキ万貨街へと消えていった。


トライヨラの国はトライヨラの民が決めることだ。私たち、一介の冒険者が口出しすることではないかもしれない。
だけど、私はあの二人を見て、第一世界の彼女たちの姿を重ねていた。
そして第十三世界の彼らも思い出していた。
立場の違う者同士が、敵対していた者同士が、手を取り合い、同じ未来を信じる姿を。
第一王子ゾラージャも、あの暴れん坊のバクージャジャだってきっと、同じ未来を目指せるのかな?だなんてぼんやりと思いながら。


夜が更けるにつれ、トライヨラはますます活気を増していく。
行き交う人々は笑顔で、時には酔っ払いが喧嘩をして、皆この国が大好きなんだと感じられる。
…さて、そろそろ宿に戻ろうか。
また明日から新たな冒険が始まる。ヤクデル樹海。黄金郷の謎が眠る土地。
そんなワクワクを胸に、途中のシャバーブチェで別のタコスを買って帰ってもいいな、だなんて考えながら私は席を立った。




「いい息抜きになったみたいだな、我らが王子は。」
「ええ、やはりあの方には人の心を和らげる不思議な魅力がありますね。」
「そうだな。よし、俺たちも飲みなおすか!ウリエンジェ!」
「…我らも明日は出立が早いことをお忘れなく。」

今日もまた、トライヨラの夜は更けていく

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