綺麗って、あなたが言ってくれたから

 小説を書いていると、感想をいただくことがある。学生の頃は同じ部活やサークルの友達に感想をもらっていたし、noteに小説を投稿するようになってからは、コメントで感想をいただくことがある。毎回すごくうれしいし、ひとつひとつのコメントが宝物だし、後で何度も読み返している。

 そんな中で、ひとつだけ、忘れられない言葉がある。

 高校生の頃。私は文芸部に所属していて、新入生が体験入部や見学で部室に来るような時期は、チラシのほかにB6サイズの小さなコピー本を作るのが伝統だった。部員が書いた掌編小説を持ち寄って組み本をしてコピーして製本して、それを新入生に配るのだ。

 私もそのコピー本に参加した。ほんの1ページしかない、ごく短い掌編小説を書いた。季節に合わせて、桜の花が出てくるようなストーリーにした。

 部活の時間になって、部誌の編集をしてくれていた先輩に、小説の原稿を渡した。私が書いた小説を読んで、その先輩がこう言ってくれた。

 綺麗、と。

 ほかにも色々言ってもらえたような気がするけれど、「綺麗」というたった一つの言葉が、私の中に残り続けた。

 ちなみにその先輩は、私が高校1年生のときに人生で初めて書いた小説を添削してくれた先輩でもある。小説の書き方なんて知らなかった私の作品を丁寧に読み込んでくれたし、どんな表現が良いか、どんな書き方をすればもっと良くなるか、そんなことを一緒に本気で考えてくれた恩人なのだ。

 そんな先輩にもらえた感想。それが「綺麗」だった。

 初めて小説を書いてから、気づけば10年近く経った。10年経っても上手く行かないことの方が多いし、自分で納得できる作品にはなかなかたどり着かない。

 それでも私の中には、あの日もらった「綺麗」という言葉が息づいている。「綺麗」という一言が、今でも私の支えになっている。

 綺麗って、あなたがそう言ってくれたから。私は今でも、文章を書き続けていられる。