「流星劇1986」観劇感想

 こんにちは、雪乃です。今日行ってきたのは池袋にある木星劇場。Mono-Musicaの新作「流星劇1986」を観ました。1986年のある東欧の国を舞台にした物語です。今日はその感想を書いていきます。ネタバレを含むのでお気をつけください。

 1986年。東ドイツを舞台にした漫画「東独にいた」で扱われているのとほぼ同時代(「東独にいた」は物語開始時点で1985年)であり、シモン・ストーレンハーグの画集「ザ・ループ」も1980年代を舞台としているなど、私が好きな作品に何かと縁がある時代。
 そして東欧といえば、私にとっては串刺し公ヴラド3世の生涯を描く漫画「ヴラド・ドラクラ」(こちらも大好き)。冷戦中の1980年代×東欧な時点でもう好きが確定。しかも男役×スーツ、これはもう大正解じゃないですか。芝居と音楽とダンスが紡ぐ、2人のキャストによるシンプルながらも「時代」という大きな概念を内包した重厚なドラマを堪能してきました。

 無政府主義者ダヌィーロと彼を監視する諜報員イオン。仄暗く、閉塞感の漂う時代と国で彼らが交わす会話にちりばめられた、宗教、救済、家族、時間といったテーマ。様々なキーワードが入り乱れながら、それらはすべてダヌィーロとイオン、2人の友情に収斂していく。まったく異なる要素がひとつにまとまっていく感覚は前回の本公演「デスパレート」でも経験しましたが、今回も鳥肌が立ちました。あらゆる着地点を想定させた上で、たったひとつの最適解とも思われる結論が目の前で導き出されるこの感覚は何度でも味わいたくなります。

 あらすじからしてシリアスなのかと思っていたら、コミカルなパートもあり、テンポ良く観ることができました。
 一言たりとも聞き逃せない上質な会話劇と共に、ダンスも織り込まれた本作。ダイナミックながらもどこか精緻に作り込まれた艶を帯びる振り付けがすごく好きで、ダヌィーロもイオンもカッコよかった……!!!スーツのジャケットがふわっと広がるのも好きです。

 それではキャスト/キャラクター別感想です。

 まずはしひろさん演じるダヌィーロ。諜報員であるイオンを奇妙な友情を結ぶ無政府主義者です。ここはきっと同時上演作品「流星劇1910」に繋がるんだろうな、という要素が台詞の随所に登場し、明日観る予定の「1910」がさらに楽しみになりました。
 アナーキストとしてテロも実行したことのあるダヌィーロ。国をも揺るがす「復活大祭」を画策しながらも、その根底にあるのは等身大の人間としての感情。激情の中にある、人間ならば誰もが持ちうる哀しみが感じられました。
 ダイナミックなダンスとともに印象的だったのが、ダヌィーロの目。下手側から観るとダヌィーロの瞳にちょうど照明が入っているように見えたのですが、その輝きすら危うさを持ち、なおかつずっとどこか遠くを見ているような「目」がすごく良かったです。

 そしてマナさん演じるイオン。ダヌィーロとは対照的に、終始落ち着いた抑えた芝居が印象的なお役です。最初に思ったんですけど、めっちゃいい声!!!この声で目覚まし時計とかってないんですか?!
 イオンの職業は諜報員。監視対象であるダヌィーロとの間に結んだ人間的で奇妙な友情。テロに手を染めたアナーキストと職業諜報員という真逆の2人。相容れないはずの2人の友情は、「立場の違いを乗り越えて……」のようなものではなく、同じところに落ち合うことができてしまう、そんな関係性。ダヌィーロによるテロで家族を失ったイオンと、テロを起こし家族を失わせたダヌィーロ。真逆の2人から生まれるヒリつくような人間関係と、やわらかな救いになり得る関係性が両立している。この友情を奥深く魅せるお芝居がとても素敵でした。「ダヌィーロ」と名前を呼ぶところの言い方のニュアンスとかもめっちゃ好きです。

 「流星劇1986」に織り込まれたテーマのひとつが、時代や時間といった概念。過去を内包する現在、現在を内包する未来。永遠に続くいとなみのなかのある、ダヌィーロとイオンが確かに存在するその一瞬に立ち会ったような気がします。
 帰ってからプログラムを読んだのですが、劇中で言及される復活祭・パスハはヘブライ語で「過ぎ越し」という意味なんですね。ダヌィーロとイオンにとっても新たな時代への「過ぎ越し」であり、そして1986年がもはや過去となった2022年の観客からしても「過ぎ越し」であった「流星劇1986」。年代がはっきりと明言されている作品ではありますが、どの時代であっても通じるような普遍性を感じました。

 「流星劇1986」は重みのあるテーマを扱った作品ではありますが、爽快感を覚えるようなラストシーンで終わります。深くもあり、見終わった後に残る味がとても爽やかで、良いお酒ってこんな感じなのかな?と思うなどしました。(これを書いている人間はアルコールを飲んだことが一切無いので勘で書いています。)

 あとこれはただの布教活動なんですが、「流星劇1986」が刺さった人は、冒頭でも触れた「東独にいた」が刺さると思います。ダヌィーロとイオンのような、「立場やイデオロギーでは相容れないが、同じところに落ち合ってしまいそうな危うさのあるどこか美しい関係性」が好きなら絶対にハマります。おすすめです。

 プログラムを読んでいて用語解説のページに「バーチュシュカ」と書いてあったんですが、東方正教会モチーフのメタルバンド「Batushka」の曲が好きでよく聞いているので、「このバーチュシュカがバンド名の由来か!」とテンションが上がりました。

 明日は「流星劇1910」を観る予定です。本日物販で購入させていただいたパンフレットと台本は、「1910」の部分を読まないように気をつけながら開いています。本編を観てからじっくり読むのが楽しみ。

 そして明日は私にとって今年ラストの観劇です。コンサートは1本予定を入れていますが、お芝居に関しては明日の「流星劇1910」が観劇納め。素敵な作品で今年を締めくくろうと思います。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。

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