天日干しで失恋
日本の古き良き原風景「天日干し」
長野ドライブのときに見た秋ならではの風景。
米を刈り取った後、稲架と呼ばれる横木に稲束を干す「天日干し」は、日本の古き良き原風景なだけあり、見ているだけです~っと心が落ち着いてくる。
ちなみになんで天日干しをするかというと、刈り取ったばかりの米は水分が多く、そのままにしているとカビが生えてしまうことがある。機械で一気に乾燥もできるが、お米に負荷がかかってしまうのも事実。
天日干しはお日様に直接あてて、じっくりと乾燥させるため、お米にストレスをかけることなく余分な水分を飛ばすことができる=機械乾燥よりもおいしいお米ができるというわけ。
そんな心和む風景のはずなのに、天日干しを見ると、中学時代の苦い思い出がよみがえる。今となっては恰好のネタとなり、笑いをとるのに一役買ってくれるので
「うん、いい経験させてもらった!」
と笑えるが、当時は本気で落ち込み、家の中で暴れん坊将軍と化した。
田植えと稲刈りの時期の恐怖
実家(分家)は兼業農家で本家は本物の農家。
じーちゃんも父ちゃんもサラリーマンだったため、必然的に女どもが畑や田んぼをになうのだが、始め(田植え)と終わり(稲刈り)はものすごく忙しく休日返上、しかも、分家の身分なので本家のお手伝いもしなくちゃいけないとなると家族総出で手伝いをしなければならなくなる。
そもそも、田んぼで生計を立ててるんじゃないんだから、なぜ家族総出で出動しなくちゃいけないくらいの田んぼを作るんだ!と文句たらたらだったものの、思春期でボイコットなんてことを許してくれる母親じゃなく
「あんた~何時まで寝てるの!起きなさい!!!!」
と布団をはがされ、無理やり田んぼに連れていかれることとなる。
田んぼの真ん中にある中学校
小学校低学年くらいまでは遊び感覚で楽しかったが、高学年になってくると
好きな男子もできてくるころで、田んぼを手伝うなんてくそダサいことはやりたくなくなる時期。
手伝うのもダサいのに、田植えや稲刈りをするときに恰好のダサさといったら!後ろに花柄の布をつけて日焼け防止をほどこした麦わら帽子に、ロング長靴、そして花柄のモンペをはかせられる。田舎のおばあちゃんというのは花柄がいたくお気に入りのようで、エプロンも花柄だった記憶がある。
あの頃は恥ずかしくて恥ずかしくて仕方なかった花柄モンペだったのに、恥も外聞もなくなった今は、花柄モンペのままスーパーに買い物に行けるようになった。たまたま買い物にきた同級生に見つかり
「あんた、いくら秋田だからってなめすぎ」
と爆笑された。
と話がそれたが、恰好はいいとして田んぼがある場所がまずかった。
私が通っていた中学は、今では夢のような話だが子どもが増えすぎたために新設された中学校だった。田んぼのど真ん中にドド~ンと建てられた中学校はキレイで、小学校のおんぼろトイレと別れを告げられて嬉しかったものの、ほどなくして大問題勃発。
なんと、実家が所有する田んぼが中学校に近かったのだ。
通学路はちゃんとした舗装道路沿いにあったものの、田んぼの真ん中の砂利道を歩くと家までショートカットできる生徒もいてちらほら田んぼ道を下校する生徒が見受けられた。
そして中学1年の春。
思春期真っただ中でもお手伝い回避をしてもらえず、渋々と田植えを手伝っていたとき。
遠くから、
「ハッハッハッハッハッハッ」
と青春真っただ中の運動部男子が発する声が聞こえてきた。
砂利を踏む音が近くなる。
麦わら帽子からそ~っと覗くと、な、なんと!モテ集団野球部の連中ではないか!!!
というのも、田んぼの真ん中の砂利道は堤防へと続く道。
走り込みやマラソンには最適なコースなのだ。
とはいっても、砂利道。
足首に負担かかるじゃないか!なぜわざわざここを通るんだよ!と悲しいやら恥ずかしいやらで涙目になりながら、腰をまげて、おばあちゃんのふりして田植えに没頭した。
家に帰り、目が充血している娘をみた母は
「あら、どうしたの?なんか虫でも入ったの?」
とのんきに聞いてくる。
恥ずかしさと悔しさとなんだかわからないものがこみあげてきて泣いていたのだ。とは言わずに
「あたし、もう秋の稲刈りは絶対にやらないから!」
と宣言したものの、そんな娘の遠吠えなんぞ気にせず
「ご飯食べなさい~」
と去っていった。
これはまずい。今回はやり過ごしたけど、見つかったら学校で何言われるかわからない。いや、言われるのはいい。初恋の相手にみすぼらしい姿を見られたくない。百年の恋も冷めちゃうわよ!!!
と秋の収穫は絶対に手伝わないと決めた。
空気が読めないばあちゃん
そして、秋の稲刈り。
あれだけ手伝わないと言ったのにも関わらず、やはり親に逆らえずにモンペと麦わら帽子で天日干しをする羽目になった。
マスクをして変な眼鏡もかけてこれ以上、どうダサくすればいい?というほど完全防備をして挑んだ。さらに、人が通る砂利道のほうには寄り付かず、田んぼの真ん中で一心不乱に刈り取ったばかりの稲束を稲架にかけていく。
すると、遠くから3人の男子学生が歩いてきた。
気にしない、気にしないと作業に没頭していると
男子学生A「うち、農家じゃないからわからんけど、ああいう風に手作業で稲を干すんだな」
男子学生B「そーいや、●●んちも今週稲刈りで忙しいから遊べないとかいってたな」
男子学生C「もしかして、あの中にも同級生いるんじゃ?」
という会話をしながら歩いていたらしい。(←後日母親談)
すると、ばあちゃんが何を思ったのかその男子学生たちに
「おや、おめたちは●●中学か?何年生だ?」
と声かけなくてもいいのに声をかけ
男子学生Aも答えずにスルーすればいいのに「僕たち1年生です」
と元気よく答えたら
「おや、うちの孫も1年生だど。お~いゆきんこ~」
と、やつらの前で私の名前を呼び、手招きをしてきた。
こんなこと言っちゃいけないが、マジで
「死んでくれ」と思った瞬間だった。
聞こえないふりして無視していると
「お~い、ゆきんこ~、おめ~のお友達だぞ~」と大きい声で何度も名前を呼び続ける。ばーちゃんの複数回の呼びかけにより、正体がばれたどころか
ありえないくらいのババアファッションもさらしてしまう始末。
しかも、なんと男子学生Aは初恋真っただ中の相手だったのだ。
初恋真っただ中の恋しい君を見つめつつ、呆然と立ち尽くしていると
男子学生B「へ~おめえんちって農家だったんだ。知らなかった。頑張れよ~」
とかなりニタニタしながら、手を振って去っていった。
初恋の男子学生Aは、私とクラスも違えばしゃべったこともないので
ニタニタもせず、無表情で立ち去って行った。あんな冷たい顔をされるより、ニタニタされたほうがよっぽどましだ。
「すっげーだっせ~」
とか後で笑ってたんじゃないかと思うと、大穴掘って入りたい気分になった。
呆然自失の私につかつかと歩み寄ってきたばあちゃん
「おめも友達いっぱいいるんだな~」とニコニコ。
悪気がないのはわかっているが、思いっきりにらみかえし涙を流しながら家に向かってダッシュした。
その日の夜はご飯も食べずに部屋でおんおん泣いていると、いつもはスパルタ母ちゃんもばあちゃんから事の次第を聞いたのか
「うん、まあ、友達に見られるのは恥ずかしいよね。ごめんね。無理やり連れてって。いい加減機嫌なおして、ご飯食べなさいよ」
って言ってきたが、恋破れたばかりなのにご飯食べられるかっての。
それから数週間、ばあちゃんを無視し続けたら、ばあちゃんが落ち込みまくってご飯を食べなくなったためひとまず許すことにした。ばあちゃんがほんとに死んだらさすがに困る。
結局、その後、やつらに
「ゆきんこ、だっせ~恰好して稲刈りしてたぜ!」
といったいじめもなかったけれども、恋が成就することもなかった。
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