連続小説 毒親からの解放ストーリー(2)

 1歳半を過ぎた弟の宏は、よちよち歩きだすようになった。すると、もう五歳の子供には手に負えなくなった。転んでは頭などをぶつけて、大泣きをした。そして大きなたんこぶを、帰宅した母が見つけると目を吊り上げ、私を責めて、頭を殴った。そして私に弟と同じ様なところにたんこぶを母が作るのだ。
 たまたまいつもよりも早く帰宅した父が、私のこぶを見つけて、どうしたのか尋ねた。
私が小さな声で
「ママがぶったの、いつもぶつの」
 そう答えると、いつもは母に対しておとなしい父が声を荒げて
「どうしてユリをこんなになるまで殴るのか訳を言いなさい」
 と珍しく父は母に強く尋ねた。
母はごまかすように、うす笑いをしながら、言い訳をしてこう言った。
「ユリに留守番を頼んだのに、弟の面倒を見ることもできないで、宏の頭にこぶを作ったものだから、宏の代わりにユリに仕返しをしただけよ」
 と言い放った。
それを聞いて、父ははじめて子供に留守番をさせている事実を、知ったのだった。
「何か事故でも起こったら大変だから子供達を置いて出掛けるなんて、絶対にダメだ」
 と母に強く言っていたけれど、全く聞く耳を持たなかった。母はデパートが娯楽であり、憂さ晴らしの場だったからだ。
 そのうちに弟がしっかり歩けるようになると、母は弟だけを連れて、いそいそと出掛けるようになっていった。そして昼前に家を出ると夕方まで帰って来なかった。だから私はお昼ご飯抜きで帰りを待つしかなかった。
 冬になると、日が早く傾いてしまうので、なおの事、母達の帰りを待つのは寂しかった。家族から忘れられてしまったのではないかと不安が募った。
 母の言うことに対して、いつもはおとなしく聞いている父も、時には、母と大声で口論になったこともある。私を一人で長い間留守番をさせる事や、母の浪費癖に対しての鬱憤だ。そんな時は弟の耳を塞ぎ私も目をつぶって、二人の喧嘩を見ないよう、聞かないようにしていた。
 でも耳を塞がれて静かにしているのが嫌な弟は泣きながら、ヒステリックにわめいている母の足にすがりつくのだった。それを見ると父は急に静かになって背中を丸めながら部屋から出て行ってしまうのだった。

 二人の喧嘩が終わると、母は私のほうを向いてこう言う。
「お姉ちゃんのくせに弟の面倒も見ることが出来ないなんて、あなたはなんてバカな子なの!」 
 今度はそう言って私に怒りの矛先を向けるのだった。
 その度に、小さくなって、母の許しが出るまで謝り続けながら、母の打つ手が痛くなって止むまで、母の怒りに耐えなければならなかった。そしてそのうちに、母の機嫌が収まってくると
「まあ、いいわ、今日だけは許してあげる。良いお姉ちゃんになるためには、おかあさまの言うことだけをきいていれば良いのよ」
 と決まり文句を私に言い続けた。

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