毒親からの解放ストーリー (20)

 ユリの学校長からの電話には本当に驚いたわ。私には何も話さないで、夫とユリの二人でしめし合わせてやった事なのね。何かコソコソしているなとは、思っていたけれど、まさか医学部を受験して、そこに合格したなんて、晴天の霹靂って、こういうことを言うのね。

 あの子があんなに頑張り屋だなんて、誰に似たのかしら。私が上手に育てたからよ。きっとそうだわ。
 それに比べると宏はだらしないったらないわ。大学には行きたくないって言っているし。夜遊びばかりしているみたいだし。小さい頃は本当に可愛がってあげたのに今じゃ、私にはメシ・カネ・フロしか言わないのだから。それでも中井家の長男だから大事にしないと。
ユリはどうせ家を出ていく身だ、だからあの子にお金なんかを掛けたって無駄だって事。
       
 徳島について直ぐにアパートの契約のために不動産屋に向かった。その途中に桜並木があった。桜が咲き始めていて、まるで私を歓迎しているように感じた。横浜にいる時は、母のことばかり考えていたので、桜が咲いていても心に感じる事はなかった。だから今更ながら桜がこんなにキレイだったのかと改めて思った。しかも今日は朝から雨が降っていて、空はどんよりとしているというのに。

 不動産屋では、徳島大生だと言う事で凄く親切にしてもらえた。おまけに一人で契約に来たので不動産屋のおねえさんに驚かれた。新入生は人生初の経験でもあるから、ほとんどの学生は親と一緒に来るのが一般的だからだ。
「母は身体の具合が悪くて、長旅が出来ないのです」
 咄嗟に口からでまかせが出た。でも半分は本当だ。学生生活はきっとうまくいくに違いないと思えた。何よりも、いつも私を見張っている母がいないのだから。それだけで毎日が開放的に感じるし、身体が軽く感じる。

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