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小話「出ない言葉は甘酸っぱい」

昨日はキスの日だったのに(趣味)作家にも拘わらず、はぐらかしてなんにもしなかったのは如何なものか?と思いましたまる。

……いや、まるじゃねーのよ。終わるな。
ということで、折角なので日和×正也のSSを書こうかなと思いました。
好きな人だけがお読みなさい……(⁠◡⁠ ⁠ω⁠ ⁠◡⁠)


***
文化祭を終えてから、顔が熱い。
夏はもう終わってとっくに秋なのに。
どうして?
いや、どう考えてもあの文化祭だろう。
つい先程の、全校生徒の、沢山の生徒がいる前で……。

「……っ!!」

思い出しただけで頭が破裂しそうになった。
醒めない。
どうして。
早鐘になる心臓、ぶり返す感覚、悪いことをしてしまったような背徳感。
周りの音なんて、当たり前のように耳には入らなかった。

「日和」
「――っ!!」

両手で顔を覆って呻いていたその時、突然聞こえたその声に体は大きく跳ねた。
振り向けば、相手は部屋の中を覗くように顔を出している。
正也だ。

「まっ、ままま正也……っ!?」
「何度呼んでも返事なかったから。……大丈夫?」
「そのっ……だ、大丈夫…です……」

あくまで平然を装いたい。
装いたいのだけど、きっと正也には明らかにどぎまぎしていると思われているだろう。
ああ、恥ずかしい。

「一応、今日はごめん。でも……俺もちょっと、思うことはあったから……」
「思うこと、ですか…?」

部屋に入って来た正也は真っ直ぐに私の前に来て、腰を下ろし、目線の高さを合わせる。
大きな手が伸びてきて……私の頬に触れた瞬間、触れた個所から大きく熱を感じた、気がした。

「日和は気付いていないみたいだけど、皆日和のこと見てるよ。ずっと日和のことを気にしてる。俺は……ちょっとそれが嫌、かな」
「嫌、ですか……?」
「うん。だから、日和は……俺のことを見ててほしいかなって。今だって、俺を気にして顔を赤くしてるみたいに」
「あっ……わ……!」

じっと向く視線にまた頭がいっぱいになる。
どうしていいか分からなくて、今にも逃げ出したくなるくらいに。

「……日和は、俺の事……好き?」
「えっ!?それは……その……」

未だに、好きと聞かれると返事に困る。
分からない。
好きなのか、どうかなんて。
それはきっと、私が知ってる事例は竜牙だから。
ただ、素直に「好きです」と言えない自分に少しだけ、謝罪したい気持ちが浮かんだ。

「困らせて、ごめん。でも……日和がずっと告白とか受けてるの、見たくないから。断るって分かってても、まず日和に告白なんてさせたくない」
「あああ、あの…っ!正也が、私の事を気にしてくれてるのは……分かるので……」
「……うん。今はそれだけで、十分」

納得するように正也は頷いて、頬に触れた手を引っ込める。
同時に触れていた頬は一気に冷えた様な感覚がして、心の中にぽっかりと穴が開いた。
だからだろうか。
衝動的に、咄嗟に、手は動いて正也の服を掴む。

「……っ」
「……!?」

軽く触れるくらいの、簡単な口づけ。
キスなんて、果たしてこんな感じだっただろうか?
覚えてない。
分からない。
それでも、せめて気持ちだけでも届いてくれれば……多分そんな感覚。

「すみません、こんな形でしか……。その、気持ちだけ、受け取って欲しい…です」
「……うん。ありがと」

離れた瞬間、感謝を伝えた正也に体を抱き締められた。
一瞬。
締め付けられた感覚だけがずっと続いて、正也は部屋を出て行く。

「お風呂、空いたよ」

その一言だけを伝えて。

「ああああああ……っ」

私は……――また両手で顔を覆って呻いた。

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