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宗教2世の私が、30代半ばの頃、自分の人生を取り戻す覚悟をした話 - 主に公的支援や相談先のことについて -第2回 宗教2世問題の難しさ 5つのポイント、我々にとっての「心有る議員・有識者」を見つけて応援しよう!

※この文章は、特定の宗教を誹謗中傷するために書かれたものではありません。生まれた環境、家庭の事情、親権者との関係などの理由により、信教の自由を保障されていないことで悩んでいる方や、宗教的虐待(スピリチュアル・アビュース)に苦しんでいる方に向けて、私の個人的な体験が何かのお役に立てばと思い、公開しております。

 この数日、ずっと気持ちがザワザワしている。
 多くのメディアから取材を受けて、その都度対応をしているが、宗教2世の中には取材を通して被害の追体験(フラッシュバック)に苦しんだり、記者による理解のない失礼な言葉で傷ついたりしている人も少なくない。
 あの事件から強いられてきた緊張、不安、絶望。そして「今なら話を聞いてくれるのでは」という期待。「それならば、今苦しんでいる未成年の宗教2世のために自分ができることがあるのではないか」という使命感。
 さまざまな感情が、起きている出来事とグチャグチャに混ざり合って、ずっと落ち着かない状況が続いている。

 私は宗教2世問題の難しさは、下記のような点だと考えている。

1)未成年の宗教2世と親権の問題

 未成年者の場合、親権が強すぎて、支援(家を出る手伝いや、弁護士を紹介するなど)をした方が親権者に訴えられかねない。
 また逃げた後の選択肢として考えられる一時保護所は、子どもにとって居心地の良い場所とは言い難い。避難によって学校に通えなくなったり、人間関係が途切れてしまったり、持ち物を制限されるなど自由を奪われてしまうケースもある。積極的に「児相に相談して逃げたらいいよ」とは言えない状況がある。

2)支援する側に、宗教2世の問題についての知識・理解が足りない

 児童相談所や警察、福祉事務所等、実際に支援にあたっている現場の担当者達に、宗教2世の問題についての知識や理解が足りない。医者やカウンセラーもそうかもしれない。そのため、相談をしてもまともに相手にされなかったり、相談内容を親に話されてしまったりして、家の中や宗教団体内での虐待や支配がより厳しくなる場合がある。

【2022年8月16日追記】
 宗教2世に「なぜ逃げようと思わなかったの?」「親を説得することもできたのでは?」などと言う前に、カルト宗教が行っている人権侵害について知ってほしい。
 宗教2世が受けている宗教的虐待は家庭内だけの問題ではない。宗教団体が大人の信者を支配し、家庭に侵入して、人権侵害を行っているのだ。

 「家庭が丸ごと、宗教団体の支配下にある」ことを念頭に置かずに宗教2世に対する宗教的虐待について論じていると、問題を見誤る。
 これは家庭の中、親子間だけの問題ではない。家庭に侵入して人々を支配しているカルト宗教があり、組織的な人権侵害が行われていることが問題なのだ。

 家庭が丸ごと、宗教団体の支配下にあり、親は子を子は親を人質に取られた状態にあり、外の世界とは違った常識を持たされ、親族友人知人を裏切るような行為を教義のなかでやらされ、宗教団体内での相互監視も厳しい。そんな状態でなぜ容易に逃げられると思うんだろうか。
 「子ども一人で、または個人で解決することが難しい問題だ」という前提だけでも共有してほしい。

3)宗教2世と親の関係。後ろ盾なく社会に出る困難

 宗教2世の多くは、親の無茶苦茶な伝道(勧誘)や霊感商法などによって、親族と絶縁状態になっている。
 頼れる親族がいないなか、社会に身一つで出ても、身元引き受け人も、保証人もいない状態では、進学も就職も、家を借りることも難しい。脱会後も生活困窮や、差別・偏見に苦しむことになる場合が多い。

4)宗教2世は宗教的虐待の被害者であるが、加害者の家族・親族である場合がある

 宗教2世は宗教虐待の被害者であるが、その親が誰かにとっては加害者であることがある。
 そのため被害者として名乗り出た場合に「私はお前の親に勧誘されて人生が台無しになった!」「お前の親に騙されて先祖から受け継いできた土地や財産を手放すことになった!」「被害者ヅラするな!」などとヘイトの的(まと)になってしまうことがある。

5)宗教2世を支援する団体はまだない

 今のところ、宗教2世を支援する団体は存在していない。
 「宗教2世ホットライン」など宗教2世が体験談を載せたり、悩み事を話し合ったりするネット上の居場所は出来つつあるが、脱会から社会復帰までの支援を行なっている団体は、残念だがない。

 宗教2世といっても、どのカルト宗教と関わっていたかによって事情が大きく違うし、同じ宗教の中にあっても待遇に大きな差別があるなど、一枚岩になりにくいという事情もある。

 さらに宗教2世が「家族崩壊した」責任をカルト宗教に求めても、賠償金が数十万円しか取れないことが多いと紀藤弁護士が話していたが、それでは弁護士に十分な成功報酬を支払えない。
 カルトに関わることはハイリスクなのにも関わらず、十分な報酬を得られないとなれば、積極的に助けてくれる弁護士を探すことすら難しいという現実がある。
 宗教2世を支援する団体の活動資金をどこから得るのか、非常に難しい問題として今も残ってしまっている。

 ボランティアでやるには個人の負担が大きすぎる。万が一、カルト宗教から名誉毀損で訴えられたり、自宅・学校・職場などへのストーキング行為や傷害事件が起きてしまった場合に、弁護士を雇ったり、自分や家族の身を守るために引っ越しをしたりするにはお金がかかる。継続的に活動するためには、どこかからまとまった資金を得る必要がある。

 このような問題点を解決するための場所として、私が大きな期待を持って動向を見守っていたものがある。それが「こども庁」だ。

「こども庁」と、「こども”家庭”庁」について

 下記は、最近バズった私のツイートだ。
 特に未成年の宗教2世を救出するために、「こども庁」が拠り所になってくれるのではないかと期待していただけに、「こども家庭庁」に変更されてしまったときも、下記に引用したように、特定の宗教団体の関連組織が、そのことを誇らしげに”心有る議員・有識者の尽力によって、子ども政策を一元化するために新しく作る組織の名称が「子ども家庭庁」になりました”と喧伝していたことに、激しい怒りと失望を感じた。

 他にも「こども庁」が「こども家庭庁」になった経緯について、メディアが報道していたり、独自に調査されて投稿される方もいるので、検索してみてほしい。

https://kodomo-cho.net/material

 上記は「こども庁」創設に向けて自民党の議員さん達が行っていた勉強会に呼ばれた当事者が、発表したスライドの一部。発表の際は招かれた当事者が”家庭”という名づけが持つスティグマについて、懸念があるとハッキリと申し上げた
 その場で多くの議員さん達が共感してくれ、また「子ども達にも読めるように、全部ひらがなで”こども庁”にしよう!」と声を上げてくれて、その翌日から勉強会の名称も「こども庁創設に向けて」と変更になった。
 初めて当事者の声が政治に届いた!と虐待サバイバー達が沸き立った瞬間でもあった。どれだけ嬉しかったろうか。

 飛び先のHPにも書いているが、このスライドの制作協力をしたのがPulmo、私だ。「こども庁への思い」のページには「当日使うスライドも、宗教虐待の被害にあったデザイナーの仲間と一緒に作りました」と書いてくれている。

 そういう経緯もあり、宗教2世のつらい経験についても機会があるごとにお話ししていた。こどものために省庁の垣根を取り払って動く場所の名前が「こども庁」になってどれだけ嬉しかったか……。
 しかし最後の最後にちゃぶ台返し。急な名称の再変更の理由が「伝統的家族観を重視する自民党内保守派への配慮」(12月14日、共同通信)とされていた。多くの当事者や支援者、そして自民党の若手議員を中心として積み上げてきた様々な活動が、「一部の自民党内保守派への配慮」によって、一気に崩れ去った。

 幼少期から虐待を受けてきたサバイバーからすれば「またか」という思いであった。どんなに努力しても、頑張っても、無駄。大きな力を持った大人が、全てを奪い去ってしまう。まるで虐待やDVの再演のように感じ、フラッシュバックに苦しむ当事者もいた。あまりにも酷すぎる現実だった。

自民党のなかにも良識的な人はもちろんいる。我々にとっての「心有る議員・有識者」を見つけて応援しよう

 これは重要なことだが、特定の宗教団体やその関連団体に忖度するような議員や有識者が糾弾されているが、「こども庁」という名称を守ろうとしてギリギリまで戦ってくれた議員や有識者もいた。そもそも、こどもファーストの省庁を!と勉強会に当事者や支援者を多く招いて、勉強会を積み重ねてきたのは自民党の若手議員の方々だった。

 今、選挙の投票率が低いことがとても問題になっている。この国の有権者の約半分が選挙に行かないのだ。そのため「組織票」が幅を利かせている。
 多くの人が投票に行き、組織票の効果をなくすことができれば、特定の宗教団体に忖度する議員を政治の場から退場させることができるだろう。

 子どもの虐待防止も、宗教2世の問題も、熱心に取り組んでも金や票につながらない。むしろ「余計なことをするな」と睨まれる。そんなことでは真面目に取り組んでくれる政治家が報われないし、出てきてくれない。
 我々にとっての「心有る議員・有識者」を見つけて、応援しよう!選挙に行こう!ひとりひとりの行動で、未来を変えることができる。

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