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アーリーフェーズのスタートアップがB Corp認証を取得しようとした理由

24時間のオーダーメイド介護サービス「イチロウ」を運営しているイチロウ株式会社の水野です。
今日は、先日取得した「B Corp」について、なぜアーリーフェーズのスタートアップでリソースが限られる中、日本でまだまだ認知されていないBcorpを取得しようと思ったのか、実際どれくらい大変だったのかを書いていきたいと思います。
これからBcorpを取得したいと思っているスタートアップや、社会インパクトを意識しているソーシャルベンチャーの方々の参考になればと思います。

そもそもBcorpとは

まず「BCorp」とは何かを説明していきたいと思います。
「B Corp」とは「B Corporation(Bコーポレーション)」を略したもので、米国の非営利団体のB Labが行っている社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度です。B CorpのBは「Benefit(利益)」の意味で、社会や環境、従業員、顧客といったすべてのステークホルダーに対する利益を表しています。
フェアトレード認証やLEED認証などは商品や建物を認証する制度であるのに対し、B Corpは企業のあり方を認証する制度で、具体的には環境や社会に配慮した事業をおこない、透明性や説明責任などといった、B Labが定めた厳しい基準をクリアした企業に対して与えられる認証です。

B Corpの認証を受けた企業は、世界100か国8,677社以上にのぼります(2024年5月時点)が、日本でB Corpの認証を受けている企業はまだ少なく、41社にとどまっています。
B Corp認証を受けている企業の代表例としては、日本でも有名な「パタゴニア」や「Allbirds」があったります。

アーリーフェーズである我々が「B Corp認証」を目指した理由

私たちがB Corp認証を目指すきっかけになったのは、株主であるデジタルガレージで受けたESGについての勉強会でした。そこで、今後は大企業だけではなくスタートアップもESGについて学び、事業や組織として取り組んでいく必要があるということを知りました。
それを聞いた時に、私がイチロウを始めた時からずっと気になっていたことを解消するのはB Corpなのかもしれないと思いました。それは、「イチロウが、自分たちでは社会課題に取り組んでいる、社会に必要なことをしている」と言っているが、それはあくまで自分たちが言っているだけの話であり、まだまだ小さなスタートアップである我々の言葉を誰が信じるのだろうかという疑問です。
私が介護の社会課題を解消するために作った事業、メンバーと一生懸命進めている事業の社会性を「B Corp」という形で第三者から評価をもらい、介護業界における課題解決を本気で進めていることを示したいと思いました。
そして、B Corpを取得しようと決め、行動に移し始めました。

B Corp取得までの道のり

B Corpを取得に取り掛かる上でいくつかの壁が存在ました。
1つ目が英語の壁です。ここで1つ前提の共有になるのですが、B Corpは現時点(2024年12月)でも日本語に対応していません。認証制度の基礎情報、評価項目の内容・面談時のプレゼンすべて英語で回答しないといけません。
2つ目が日本でB Corpを取得した企業が少ない壁です。取得している企業が少なく、B Corpを取得したいと思っても情報がなく、何から始めて良いかもわからない状況でした。
そこで、我々は誰かに頼るしかないと思いリサーチを始め、B corp認証取得支援コンサルトである岡望美さんを見つけ、取得支援をお願いすることにしました。

審査プロセス①:B Impact Assessment(BIA)に登録

B Corpのアセスメント情報を入力していくB Impact Assessment(BIA)に登録し申請をするための準備を行なっていきます。

審査プロセス②:B impact Assessment(BIA)に回答

B Labが設定する5カテゴリー(顧客・コミュニティ・環境・ガバナンス・従業員)145項目の質問に対して、「取り組んでいる」「取り組んでいないが今後改善」「取り組んでいない/該当なし」の3段階で回答し仮採点を行っていきます。私たちは岡さんが作成してくれたスプレットシートを使用し1項目ずつ回答とエビデンスとなる資料を準備していきました。
この時、項目毎にどんなエビデンスが適切なのかを素人の私たちでは判断ができませんでしたが、岡さんにサポートをいただくことで適切な資料の選択や準備を整えていくことができました。

岡さんが準備してくれた項目管理のシート

審査プロセス③:B impact Assessment(BIA)で80点以上を獲得できたら資料を提出

仮採点の結果、80点以上の獲得ができていることが確認できた段階でBIAからB Lab宛に回答とエビデンスとなる資料を提出します。
この時のポイントは、提出時点で完璧にできていなくても、次のプロセスであるオンライン面談までにできるようになっており、エビデンスとなる資料が準備できれば良いということです。現段階ではできていなくても「できそう」という回答をし、最終面談までにアップロードし直せば良いというプロセスになっていました。
私たちも、完璧ではない箇所もありながらも80点を超えることができ申請にこぎつけることができました。

BIA申請時の様子
BIA申請完了時の感動キャプチャ

審査プロセス④:B Labによるレビューを受ける(オンライン面談)

申請後はB Labによるレビューを受けながら、最終のオンライン面談の候補日程が届くのを待ちます。B Corpを取得しようとする企業が多く、6ヶ月以上待つこともあると聞いていましたが、実際には2023年6月に申請し、面談を実施したのが2024年9月となり、結果的に1年3ヶ月待つことになりました…笑

審査プロセス⑤:審査の結果80点以上であることが確認されたらB Corp Agreementに署名しB Corp取得が完了

レビュー・オンライン面談後、多少の資料の提出し直しなどの対応を行い、2024年10月に念願のB Corp取得の連絡が届き取得が完了しました。

B Corp取得連絡のキャプチャ

その後、B Corp Agreementに署名し認証料を支払い、B CorpのHPへ認証企業として無事掲載されました!

挑戦してみて気づいたこと

B Corp認証に挑戦して感じたのは、「本気で取り組まないと、この認証は絶対に取れない」ということ。審査項目の細かさには驚かされました。
たとえば、「電気代の明細を提出する」「会社にブラインドがあるか」といった細かい質問まであり、「そこまで見られるのか!」と最初は戸惑いました。でも、そうした細部に目を向けることで、自分たちの事業運営を徹底的に見直す良い機会にもなりました。

もっとも時間をかけた取り組み

それがマテリアリティの設定です。当社にとって重要な課題をESGの観点で再検討し、解決目標まで設定していきました。
設定プロセスとしては、ステークホルダーの定義→マテリアリティ要素の洗い出し→自社や他社にとっての重要性について社内で議論→マトリックス(Y軸がステークホルダーの利益・X軸が自社の利益)に要素を分布させて最重要課題を5つ特定しました。

ステークホルダーの特定
マテリアリティ要素の洗い出し
最重要課題の特定

重要課題を特定するにあたり、たくさんの上場企業やスタートアップなどのサスティナビリティページを細かくチェックし参考にさせていただきました。特に参考になったのは、SmartHRさんメドレーさん、先にB Corpを取得されていたKuradashiさんでした。

この過程がもっとも自分たちの事業や社会貢献性を顧みることにつながり、本当に社会のためになっているのか、どう社会に貢献するべきなのかを考える時間となりました。完成した内容については、こちらのサスティナビリティページにてご覧いただけます。

その他にも、必要な研修の作成や顧客アンケートの実施、審査項目の証拠資料の作成など多義にわたって実施しました。
B Corpは一度認証を取得してからが始まりなので、単なる書面上の対策ではなく、抜本的な見直しと実務への定着が必要でした。結果的に、2023年5月のキックオフから約1年半をかけて、認証取得にこぎ着けました。

サスティナビリティにおける重要課題と指標/KPI

やっておいた方が良いこと

B Corp取得に向けた準備の中で、役立ったイチロウの文化もありました。それが「ログを残す文化」です。顧客の声や改善プロセスの記録を残していたので、証拠資料を準備する際には大きな助けになりました。この文化がなければ、証拠資料の準備にさらに時間がかかったかもしれません。
B Corp取得の場面だけではありませんが、取得を考えている企業の方々は普段の業務プロセスの中で、きちんと議事録やメモなどのログを残しておくことをお勧めしたいと思います。

こらからのイチロウ

B Corp認証を取得したからといって、私たちの挑戦が終わるわけではありません。むしろ、ここからがスタートです。
これからは、次のような取り組みを進めていきます。

介護をする人(ケアラー)の介護負担の軽減

仕事やプライベートな生活を犠牲にして介護を担っている人たちが、介護保険サービス以外の選択を持ち選択できる環境を作っていきます。
介護士/看護師等(ワーカー)の待遇改善
現場で働く介護士の方々が、やりがいを持って活き活きと働ける環境を整えていきます。
倫理や法令を守った介護保険外サービスのルール作り
新しいサービスを提供するだけでなく、それが業界全体の信頼向上につながるような模範を目指します。

これからB Corpを取得することを検討している企業の方、B Corpを取得している企業がどんな取り組みをしているか気になってnoteをのぞいてくれた方、参考になりましたでしょうか。

細かな質問に対する回答や、曖昧になりやすい社会貢献への方向性や数値管理など、これまでの自分たちの取り組みを振り返り未来を想像する過程は、時には自分たちを否定したり、存在意義を問い合わす痛みを伴う取り組みでもあります。(私はそうでした…辛かった)
そんな中で考えに考え抜いた重要課題やそこに対する取り組みなどを踏まえて、イチロウはビジョンの実現に向けて一歩一歩進んでいきます。

最後に、そんなビジョン達成に向けて邁進していくイチロウでは、志を共にする仲間を募集しています。
少しでも興味を持っていただけた方は、以下のイチロウ採用ページをご覧ください。

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