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画狂老人卍崩し

中国六朝りくちょう時代、なかでも6世紀の北魏から東・西魏の建築様式を特色とする世界最古の木造建築、法隆寺。二層造の金堂は、その上下のバランスが見事に調和がとれ、また重厚で安定感のある五重塔とも左右申し分なく並んでいる。1ミリの狂いもなくこれ以上端正で清冽なものもあるまいと(直観的に/素人目にも)思えるが、勾欄は有名ないわゆる「卍崩しの勾欄」、しかし見るにつけ卍がどのように崩れたのかよく分からない。どこか規則的にも不規則的にも見え、なんとも不思議な組み方である。

ところで卍といえば、その晩年「画狂老人卍がきょうろうじんまんじ」と画号を用いた北斎。75歳から「冨嶽三十六景」の集大成として「富嶽百景」の絵本を描いた。そのひとつ「海上の不二」を見ていると、千鳥と一体化するようなダイナミックな波の飛沫しぶきが、崩れた卍のように見えてくる。自然法則に従うも不定形な水飛沫、その一瞬を画にとどめた画狂老人卍、この崩れた卍には、動のなかに静が息づき、また静止のなかに躍動があるかに思え、それは不思議と不安定なようで実に安定している法隆寺の卍崩しの勾欄と重なってくる。


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