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ふたりでいると、呼吸ができるようになる(映画『最強のふたり』感想)
『最強のふたり』を見た。
いい映画って、はじめのシーンから、これはいい映画だと感じさせると思う。
川沿いの道を車でとばす、若い黒人の男性。
助手席には、ひげもじゃのは初老の白人男性。
いかにも訳ありだ。
猛スピードで、ほかの車の間をすり抜けるその車は、警察に追われる。
助手席の男性は、運転する男性に脅されているのか、もしくは常識人として彼をたしなめるのかと思いきや、なんだか楽しそうにしている。
車が警察に止められ、もうダメかと思ったところで、ふたりはある作戦を実行する。
助手席の男性が発作の振りをする。
「彼は障がいがあって、一刻も早く救急に行かないといけないんだ!」
苦しそうに呼吸をして泡をふく男性と、切迫感ある黒人男性の言葉に焦る警察官。
車のなかにあった車椅子も説得材料となり、ふたりは事なきを得る。
警察をうまく騙して、嬉しそうに笑う2人。
タバコまで吸っている。
発作の男性が身体を動かせない障がいがあるのは、本当らしい。
ふいた泡を拭くのも、タバコを吸わせるのも、黒人男性が手慣れた様子でやっている。
不思議な組み合わせのこのコンビが、なぜ車をとばしているのか、状況は全然わからないけど、このふたりが心から楽しそうにしていること、特別な関係であることは、わかる。
そこからはじまる本編は、このシーンの前に起こったこと、ふたりの関係性が育まれる様子が描かれている。
初老の男性は、首から下が動かず車椅子生活の富豪フィリップ。
黒人の男性は、彼に介護者として雇われることになった貧しく前科持ちのドリス。
はじめは、障がいのある人にそんなこと言っていいの!?」というドリスのユーモアや、慣れない介護にひやひや。
でもフィリップは、それに動じず、自ら彼を雇うことを選んだ。
ドリスが前科持ちであることを心配する古い友人に、彼はこう言う。
「彼は私に同情していない。そこがいい。彼の素性や過去など、今の私にはどうでもいい事だ」
フィリップのその言葉が、この映画を象徴しているように思う。
そして、そのあと、お互いの距離がぐっと近づくあるシーンでこぼれる、ふたりの笑顔が、なんともいい。
特に、しかめっ面だったフィリップから何度もこぼれる笑顔ら、見ていてとても幸せな気持ちになる(関係ないけど、しかめっ面からの笑顔が、oasisのノエル ・ギャラガーに似ている)。
素性や過去。障がい、人種、階級。
そういう属性のバイアスを超えて、誰かとつながることができたら。
フィリップのいつもと違うことやスリルを面白がる姿勢。
ドリスの自分の感覚をそのまま口にする率直さ(ドリスの恐れを見せない明るさには、明るい人ってすごいよね、とつくづく思わされる)。
それぞれの魅力が絶妙に合わさって、ふたりが属性の壁を越えていくさまに、とても希望を感じる映画だった。
そして、最後には、冒頭でとばした高級車も、川沿いの道も、フィリップがひげもじゃであることも、発作のフリも、タバコ(映画の途中でタバコではないことがわかる)も、すべてふたりの関係性を形づくったピースであることがわかる。
いい映画だったなぁ。
そうそう、この映画、元は実話で、ふたりは実在する人物。
実在するフィリップがふたりの関係を描いた『第二の呼吸』という本もあるらしい。
本の方は読んでいないから、タイトルの意図はわからないけど、いいタイトルだなと思う。
一緒にいると、呼吸をできるようになる。
そんな相手がいるって、すばらしいことだと思う。
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