ききたい

森紀明に〇〇について聞いてみた(3)

PPP Project 「ちょっときいてみたい 音楽の話」第五弾は、作曲家でサックス奏者の森紀明さん。森さんは、日本でサックスを学んだ後、アメリカ、ボストンのバークリー音楽大学でジャズを、ドイツ、ケルン音楽大学大学院で作曲、電子音楽を学び、現在は拠点を日本に移し、幅広く活動されています。創作における「欲」「作曲のレッスン」そして話は「オーケストラを作曲すること」に繋がっていきます。

オーケストラを書くことについて

――(わたなべ)森くんは、オーケストラに興味ってありますか?

(森)学生時代はあるにはあったんですが、今はどうでしょうね。

――無欲!

ははは。オーケストラを書いて、コンクールに出したいっていうのも、元々あまりなかったんで・・・。

――そう考えると、オーケストラってある意味権威的なメディアなのかも。コンクールに受かりたい、とか、そういうモチベーションがないと、書き始めることが難しいですよね。最初から委嘱があることなんて稀だし。

わたなべさんはどうですか?

――私の場合は少し例外的で、一曲目は何の予定もなくて…コンクールに出したいとか、演奏の予定がある、とかでもなく。その時妊娠していて、子どもがお腹にいる間に、何か大きなものを作りたいと思って。つわりの時期って、あんまり出来ることないから、編み物するみたいな感覚で、毎日少しずつ。

へぇ。じゃあ自発的な理由で書き始めたんですね。

――でも妊娠してなかったらどうかな。それだけの時間を取れていたかどうか。

なるほど。僕はコンクールは縁遠かったけど、大学在学中やり残したことの一つに「オーケストラを書く」っていうのはあるんです。だから、とにかく石にかじりついてでも、いつか挑戦してみたい編成ではありますね。

――欲のない森くんんが、どうオーケストラを向き合うか、個人的にはとても興味あります。

ただオーケストラとかオペラとかって、ちょっと遠い存在ではあるんですよね。自分の育ってきた道筋になかったものだから、「アウェー」感というか。ちょっと違う世界。

――確かに身近なものではないのかもしれないですね、これだけエンターテイメントの幅が広がっている中で。でも、だからこそ自分なりに「オーケストラ」を考えることもできるとも言える。

そうそう、大学で勉強していく中で「こんなこともして良いんだ」って面白さを感じて、だからオケっていうメディアを使って自分が出来ることを探してみたいな、という気持ちはあります。

――何でもそうだけど、外部参入があってこその活性化だと思うんです。伝統を守りながらも、フィールドが違う人が客観的に見ることで、広がっていく可能性もあるんじゃないかって。だって、コンテクストを理解している人しかわからないものだったら、それこそ敷居が高すぎるでしょ。

わたなべさんはそういう現状意識があると。それはドイツでも同じですか?

――例えばヨハネス・クライドラー(Johannes Kreidler)って、とてもコンセプチュアルなものを書いてるんです。自分がもらった委嘱を、別の作曲家にあげてしまって、それを自分の作品として出す、とか。

でも、それって委嘱文化があるからこそ、理解できるものだと思うんです。そもそも、そういう習慣がなければコンセプトが成り立たなくなっちゃう、凄くコンテクストスペシフィック。

外注して委嘱料との差額を得る、権利関係も全てクライドラーが持つ、という構造が資本主義のメタファーで、その構造を批判してる、なんて、確かに説明聞かないと、全然わかんないですよね。

――そう、それで全然わかんなかったら、横に、一旦横に置かれてしまう。

確かにコンテクストの共有ってすごく難しい問題です。僕は非音楽的家庭環境で育ったから、オケも「アウェー」だし、そもそもクラシックだって「心の底から面白い」って思うようになるまで、結構時間がかかりました。だから敷居という意味で言えば、現代音楽の前にクラシック音楽だって相当高いと思うんですよ。

ただ逆説的だけど、僕みたいな環境であっても、最初の「きっかけ」や「興味」さえあれば、前情報や知識がなくても、どんな山だって少しずつでも登ってくる人はいる、とも言えます。それに、登り方も色々ありますよね。例えばクライドラーって、音楽というよりはむしろ現代アートに近いと思うんです。なのでもしかしたら、アートに親しんでいる人の方が、音楽的にアカデミックでクラシックな人よりも、彼の作品を理解できるのかもしれない。

――確かに、音だけを見て、クライドラー作品を語ろうとすると、それって何かズレちゃう気もするんですよ。

そうですね。音楽家って、マルチメディア的だったりインターディシプリナリーな作品であっても、「鳴っている音」が面白いかどうか、ばかり気にしがちですよね。もっと政治性も含めた作品のトータルな部分を見るべきだとは思うんです。とは言え、僕もクライドラーの作品を聴いて(観て)良いなって思ったことは正直ないんですけど。だけど、ああ言う感じの、、、異物感がある、と言うか、向いてる方向が全然違う人、がもっと増えれば面白いんじゃないか、とは思います。

――音楽ってもっともっと色んな方向性があって良いと思うんです。調性も無調も、複雑なものもシンプルなもの。聞きたい人が聞きたいように聞いて、それを尊重すれば。それに、小さい頃から、オーケストラ聞いて育ちましたっていう作曲家もいるだろうけど、そうじゃなくて「オケってアウェー」って思ってる作曲家だって、かなり多くいると思うわけで、特に最近は。森くんみたいにジャズから入る人もいるし、ポップスやノイズ、パンク、テクノ、もしくは演劇から入ってくる人もいる。

美術から入ってくる人もいますよね。

――ビジュアル的観点が作品に生かされているオケ曲も、たくさんある。Simon Steen-Andersen のピアノ協奏曲なんかもビジュアルがとても大事な作品ですよね。

確かに、Andersenのピアコンは音だけ聴いても面白いけど、そもそもグランドピアノを落とすというイメージから全てが始まってる印象です。

――こうやってね、色んなアスペクト作品生まれたり、少し外側にいる人も介入したり、チャレンジしていくことで、ダイバーシティが広がっていくんじゃないかなって思うんです。

でも、ダイバーシティっていう面で言うと、オーケストラって、凄く遠くないですか?だって、あれ自体強固なシステムだと思うんですよ、会社的というか。リハーサルの回数非常に限られている。まぁ、そういうシステムがあるからこそ、社会的にも守られて継続していっているわけですけれど。

――ソフトは変わってもハードは簡単には変わらない。

そうそう、音楽祭が委嘱を出して、編成が決まってて、もう箱がある状態で作曲をする。もしくは、主催者や指揮者がプログラムを決めたり。そういうのは変わらないと思うし、だから、敢えてオーケストラで新しいことをやろうとしなくてもいいのかなって。もちろん、そこで新しいことにトライする人がいるのは素晴らしいことだと思いますが。

――うーん、最初の話題に戻っちゃうけど、だから、森くんとしては、やっぱりオーケストラには興味を持てない?

いやいや、自分はそういった権威的な環境には縁がなかったけど、純粋にオーケストラを一回書いてみたいとは思うんです。とても魅力的な編成だし。それが委嘱とか、どこで演奏されるとか、評価とか関係なしに。

――オケって一旦書きあげてみると楽しくて、どんどん書きたくなる不思議な編成なんです。やっぱりあれだけの人数の演奏家が音を出すっていう、その行為が尊い。ただ体力は必要。特に一作目は、書いても書いても終わらない(笑)

よく聞きます。みんなそう言うよね。そのまとまった時間がとれるかっていうのも、実際あります。自分の精神状態が耐え得るのか、音楽的な持久力があるのか、とか…。

――森くんの音楽って凄くあると思うんです、音楽的持久力。スケールが大きい。この作品とか。

確かに曲は長めではありますね。

――分数としては15分で長すぎるわけじゃない。だけど、スケールの大きさが15分に収まってない。だから実はオーケストラとか大きな編成は、森くんが持ち合わせている音楽には合ってるんじゃないかなって。

へー、そう思います?

――音楽的な質の話。

わたなべさんが言う音楽的な質とは?

――また難しい質問(笑)うーん、何ていうか、どの地点にゴールを決めているか。いつも「この作曲家(もしくは作品)は、ここを目指してるんじゃないか」って考えながら音楽を聞くことが多いんだけど…。

ゴールって狙いっていう意味?コンセプトとか?

――狙いやコンセプトとはまた別。世界観とか、その人そのもの。

なるほど。

――この作品もピアノっていう編成だったり、その枠におさまってない感じがして。

それは、編成に即してないっていう意味で?

――求めている世界観のスケールが、15分じゃない。音楽が編成から飛び出ちゃってるって、全然悪い意味じゃなくて。例えば、ピアノ曲でも、作曲家によってそれがオーケストラに聞こえてくることがあって。スケールって、その人が持ち合わせているカラーみたいなものだと思うんです。

なるほど。確かに、他の人の意見はとても参考になりますね。世界観のスケールとか、自分では考えたこともなかったから。

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森紀明に〇〇について聞いてみた(4)につづきます。

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東俊介×森紀明(作曲家×作曲家)共同プロジェクト「Crossings」
2019年6月21日に行われる関連イベント。

同プロジェクトのコラボレーターで、ダンサーの青木尚哉が主催するEBILAB/エビラボ。「音楽とダンス」と題して行われるこのイベントは、前半・後半の二本立て。前半は、ゲストディスカッション、後半は「持ち込み音楽」とダンスのマッチングパフォーマンス。詳しくはこちら

EBILAB/エビラボ vol.3ダンサー、青木尚哉によるリサーチプロジェクト
@海老原商店 EBIHARA-Shouten


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