今日のこぼれ話のコピー

2019-10-13「今日のこぼれ話」

「今日のこぼれ話」作曲の纏わるこぼれ話を不定期(有料・無料)でお届けします。本日お届けするのはさっきょく塾今期のゲスト講師で、作曲家の坂田直樹さんの一言。以前のインタビュー記事はこちらから


坂田直樹の三つのキーワード

(わたなべ)これ、さっきょく塾やアカデミーなどで毎回、作曲家の方に投げかけている質問なんですね、「自分の音楽を表す三つのキーワード」。二つ目くらいまではスッと出て、三つ目が結構悩む(笑)そして、時期によってもワードが変わっていくのが面白いんです。

――(坂田)僕の場合は、まずは「うつろい」ですね。

うつろい。日本的なワードですね。 

――「常に変化する、その過程にあるもの」って言い換えることも出来るかな。壊れやすいもの、儚いものに惹かれるんです。自分の肉体って、日々変化をしながら死に向かっている。そういった自身の死生観と音楽を重ねているのかもしれません。日本的なワードですよね。海外に身を置くことで、ここら辺の感覚に対して自覚的になったのかもしれませんね。仏教に対する関心も強くなりましたし、あとは生物学からインスピレーションを受けることも多いです。そして、そこから来る結果として、「音の内部の性質」や、「音による構築物の性質を変化させていくこと」に強い興味を持っています。

二つ目のキーワードは?

――音的素材として「異質なものを、どう共存させるか」と言うことをよく考えるので、「共生」かな。二つの違うものを混ぜることだったり、ハイブリッドな音響に注目して、そこから作品の構造を決めることも多いです。最近は特に、菌類や植物、あるいは人間が作る相利共生(そうりきょうせい)に興味があって。菌類が植物単体では吸収できないエネルギーを供給していたり、複数の植物を繋げている説があったり、、面白いでしょ?

植物や菌類って、物質的なイメージがあるけど、そう考えると生き物、というか、人格が見えますね。

――植物や菌類は身近な存在であるにも関わらず、あまりにも沢山のことがわかっていない。ただ、非常に高度な生存戦略を持っている。そんなところに惹かれます。研究が遅れているのは、自分たちが彼らを下等なものとして接してきたことも関係あるのかもしれません。西洋音楽が、ノイズをどちらかというと瑣末なものとして扱ってきた態度にも重なるようで、面白いんですよね。

例えば、管楽器の音は息のノイズや楽音といった複合的な成り立ちをしています。こういった楽器の音が持つ性質に対する興味と、生物学的な興味が共鳴しているのかもしれません。このような関心が楽器間の関係性や、特殊奏法などを用いるときの「見立て」として、音楽に反映されることがあるんですよね。たとえば、この 「Spores」って曲はまさにカビから着想を得ました。

なるほど。坂田さんの音楽とそれらを結び付けて聞いてみると、違う側面が見えてくるかもしれませんね。

――それで、最後の三つ目のキーワードは・・・「日仏」かな。

日本とフランス。

――留学を機に2007年からずっとフランスに住んでいるんだけど、それって実際的にどこに住んでいるかっていう地理上のことだけじゃなくて、自分自身の内面を語る上でも、重要なキーワードになってきていると思うんです。フランスで学んだ楽器法やテクノロジーに関する経験に基づく思想がある一方で、日本文化からも多大な影響を受けていて。さっきの「うつろい」の点に通じることでもありますし、他に「ノイズと楽音をどうやって混ぜるか?」って考えるわけです。それにはね、日本の伝統音楽が大きなヒントになる。

例えば、去年に三味線のための曲を書いたんですが、三味線って本当にたった一音で人を魅了してしまう力があると感じました。「三味線の『サワリ』の効果(弦の振動と共に発生するノイズ)の面白さってなんなんだろう?」「どうやったら『サワリ』を西洋楽器で再現させられるだろう?」という具合に、ここ一年は「サワリ」に取り憑かれていた気がします。

「サワリ」って、もうその名前・概念からして魅力的ですよね。それを実際どういう手法で、作曲に取り入れたのか、その辺り是非深くお聞きしたいです。

最後に、さっきょく塾について少しお伺いしたいと思います。坂田さんには2020年3月に一か月、さっきょく塾にゲスト講師として入って頂くことになっています。そこでどんなことを教えて頂けるのか、、テーマや何か少しヒントを頂けますか?


――上記の挙げた三つのキーワードに関連している作品として、2016年に書いた「組み合わされた風景」というオーケストラの分析的なプレゼンテーションを行う予定なんです。

わー!何度も再演されている、あのオーケストラ曲!既に、色々聞きたいことでいっぱいです、着想から技術的なことまで・・・。作曲家から直接言葉を聞ける機会って、なかなかないですもんね。楽しみにしています!


さっきょく塾(月額500円)では、2020年3月にゲストとして、坂田直樹さんをお迎えし、坂田さんの思考論をお届けします。平行して行われているさっきょく塾オンラインサロン(月額1000円)では、実際に坂田さんに曲を聞いてもらったり、質問をすることが出来ます。月額さっきょく塾購読はこちらから。
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