ききたい

パク・ウンギョンに〇〇について聞いてみた(2)

「ちょっときいてみたい 音楽の話」第八弾は、韓国人作曲家のパク・ウンギョン(Eunkyung Park - 박은경)さん。留学時代の話に始まって、韓国の国内音楽事情、作曲に纏わる経済活動についてお聞きしました。ちょっときいてシリーズ、バックナンバーはこちらから。(インタビュアー:わたなべゆきこ)

(わたなべ)現在はどのくらいのペースで教えてらっしゃるんですか?

週4日、全て違う大学で教えています。

――全て違う大学で週4日!

はい、場所によっては通勤に3時間以上かかるところもあります。

――え!通うだけで3時間。往復6時間を毎週ですか。それぞれの大学ではどんなことを教えてらっしゃるんですか?

主に作曲の個人レッスン、和声、対位法、あと新しく音楽治療も教えています。

――幅広いですね。それを毎週、違う大学で。準備を考えると週4日でも、ほぼ休みなしですね。対位法や和声は大体どの辺りの時代を扱ってるんですか?

私がやっている授業は、一年二学期制なんですけど、主にルネッサンスを一学期に、二学期目にバッハスタイルを教えています。和声はベートーヴェンから後期ロマン派、ワーグナーくらいまでかな。

――学校内で現代音楽を扱う授業はありますか?

ありますね。私は担当していなけれど、作曲セミナーというのもあって、そこでは、今生きている作曲家の作品をアナリーゼをしたりすることもあります。その他に現代音楽史の授業もあります。作曲科は、学内作品発表の機会もあります。ただ外部の演奏家やアンサンブルとの共同プロジェクトとか、そういうのはあんまりないですね。

――欧州では、各学校毎プロジェクトがあって、学生がプロフェッショナルな演奏家と出会う機会がありますよね。素晴らしい作曲家は在学中もチャンスが来るし、卒業後もそこから広がっていくようなイメージはあります。

そうですね。残念ながら韓国では、そういった機会はないので、外部で何かする時は、全て自分でオーガナイズする必要があります。

――韓国では、学校内での活動はキャリアとして換算されない、ということは、学生になっても学内の活動だけじゃなく、積極的に外部活動をしていかないと就職できないっていうことなんですよね。韓国人が作曲コンクールに積極的なのは、そういった経緯もあるのかもしれませんね。韓国って、お受験に物凄くエネルギーかかるじゃないですか。でも、そこで終わりじゃない。入学後も学外活動をしながら、博士号も取得しなければいけない。

日本の場合はどうですか。

――どうなんでしょう。私は日本の事情に詳しくないので、また友人にも聞いてみたいです。公募の条件として、博士課程修了程度もしくはそれと同等の、と書かれているものもありますね。

そうなんですね。韓国では、講師の公募でも博士課程修了していないと応募すらできない、という方向になりつつあります。作品がどうか、作曲家としてどうかっていう議論は、学校側が提示した条件をクリアした後の話なんですよね。

――作曲家って必ずしも博士号が必要ではないと思うんです。研究したい人はあっても良いと思うけれど。

そうなんですよね。欧州でも作曲で博士号が取れるようになったのは最近の話ですよね。それまでは、そういった場所もなかったですしね。

――そうですよね。数年で博士課程が増えてきた印象です。韓国では大学で教えるにも、ただ作曲ができれば良い訳じゃない、経歴のためにコンサートをして、博士号をとって、と凄く時間がかかる…。

悲しいかな、そうなってくると、一番大事な創作に時間を割けなくなってくるわけです。

――なるほど。作曲ってそもそも凄く時間がかかるものなのにね。

ただ曲を書き続けたい、でもそのためにはまずクリアしなきゃいけないこと山ほどある。そうこうしている内に時間がなくなり、じっくりとは作曲が出来なくなる。

――本末転倒ですね。でも本当はね、大学としたって現役で活動している作曲家が増えたほうが良いと思うんですよ。外部との関係性も出来る、より実践的なことが学べる。日本も韓国も、少子化で子どもが足りないわけじゃないですか、定員割れをしたりね。そしたら自ずと海外からの留学生に頼ることになるわけで、そうなるとインターナショナルに活躍している作曲家が教えている大学に行きたい、と思うんじゃないかな。もし私が生徒だったら、例えばチン・ウンスクが教えてるって言えば、とても魅力に感じます。

そうですね。そういう意味では、海外で活躍した後、韓国に戻って活動している作曲家も多くいるんですね。その影響で、シーン自体は多様化していると言えるとは思います。ただみんなどこかしらで教えながら、活動を継続しているので、時間がない中でなんとかやっと活動している、という感じなんです。そういう人たちは、教えている期間はどうしても時間がないので、長期休み中にまとめて作曲するしかない。

――長期休みシーズンに、欧米のアカデミーを受講している韓国人作曲家もよく見かけますね。留学生ではなく、既に国にポジションを持ちつつも、なお学ぼうとしている。

でもね、学期中は死ぬほど忙しいのに、休み中もそうやってアクティブに創作活動するのって、かなりオーバーワークではありますよ。凄く疲れる。

――確かに、週4日別の大学で教えつつ、一年に二回演奏会をやって、休み中も休むことなく、創作活動、となると、相当きついでしょうね。出来る人は出来るんでしょうけど、人による。

私は作曲をせかせかするのが苦手で、創作のために、少しぼーっとする時間が必要なんです。なので、凄く難しく感じますね。留学生は自分のために時間を使えるので、羨ましいです。

――人のキャパシティと作品の良しあしは、必ずしも比例するものではないと思うです。なので、その作曲家なりのペースが掴めれば良いけれど、それもなかなか難しいんでしょうね。

先程言ったように一世代前に留学していた人たちが帰ってきていて、今の韓国作曲シーン自体はね、結構面白いんですよ。アメリカで勉強した人や、ドイツ、オーストリア、フランスや北欧。異なった音楽が聞けるし、それぞれが認めあっている。小さいけれど、コミュニティが出来つつあります。欧米って、それぞれ国ごと割と主流がはっきりしてるじゃないですか。そういうメインストリームがなく、ごちゃまぜになって、今の韓国音楽シーンが作られてるんですね。

――へぇ! もっと聞いてみたいですね。今日はインタビューにお付き合い頂き、ありがとうございました。また日韓の音楽家同士協力して、芸術における社会的な制度を見直しつつ、アジア全体のシーンを共に盛り上げていきましょう。

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