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作曲家は社会の無駄か?

Cabinet of Curiositiesは、2021年に森紀明を中心に結成された作曲家コレクティブです。リサーチ型キュレーションを通して現代音楽公演を運営するほか、分野横断的なイベントや教育プログラム、日本を拠点にする作曲家アーカイブ活動などにより、シーン活性化を目指しています。(現メンバー:小出稚子森紀明渡辺裕紀子

作曲家でサックス奏者の森紀明さんから、こうお声がけ頂いたのは半年くらい前でした。

「新しく作曲家コレクティブを立ち上げたいんだけど、一緒にどう?」

ーアート・コレクティブが時代を拓くー
日本の現代美術の歴史を振り返ると、集団の力はつねに、体制を変革する機動力としてきた。そして近年、アーティストたちは既存の制度への違和感から、自ら美術の価値観を更新すべく、再びコレクティブの力を駆動させ、
地殻変動を起こそうとしている。(美術手帖 18年4月号 ART COLLECTIVEより)https://bijutsu.press/books/1001/

作曲家コレクティブという名前、耳慣れない方もいらっしゃると思います。
それぞれ異なった個人が共同体となり、一人では出来ない到達点に向かって一緒に活動する。美術手帖でアート・コレクティブの特集があったのが2018年。日本現代音楽界では1950年代に既に「実験工房」を始め、音楽家によるコレクティブ活動が以前より盛んではありましたが、2000年以降に立ち上がったコレクティブはそれとは少し趣向である気がしています。

以前作曲の師匠である間宮芳生先生にこんなお話を伺いました。「戦時中、物資が少なかったから一つの楽譜を疎開先まで持っていって穴が開くほど読んだんだ」。作曲家の一柳先生のインタビューにも似たようなお話が出てきます。

つまりメシアンの楽譜というのは、うちの母親が若い頃オハイオのオーバリン大学に行ってて、そういうことからアメリカ人との交流が戦後多少あった。アメリカ人というのはわりあいとそういうことが寛大で、「楽譜がないんだったら何か新しいものを送ってやろうか」ってなことで送ってくれたなかにメシアンがあった。メシアンは最も新しかったですけどね。それをピアノの上に置いていたら、武満さんが来て。まあほんとにモノがない時代ですから、彼も新しい楽譜に飢えてたと思いますね。

柿沼:で、返ってこなかったんですか。

一柳:さいごまで返ってこなかった。(笑)
http://www.kcua.ac.jp/arc/ar/ichiyanagi_jp/
(京都市立芸術大学 芸術資源研究センター 一柳慧オーラル・ヒストリーより)

実験工房が活動していた1950年代は、まだ西洋現代音楽の情報に乏しく、それを共有するモチベーションが高かったはずです。その時の情報への熱というのは、情報化社会の今とは比べ物になりません。異なる音楽性を持った個人が集まり、まだ見ぬ西洋現代音楽に向かっていく。そのムーブメントが、実質たった7年しか活動していない「実験工房」という名前を現在まで色濃く残す理由であったとも思います。

そして2021年現在。わたしたち作曲家は全く反対の局面にぶち当たっています。どこでも同じ情報を享受することができ、多種多様な価値観が受容される世の中で、一見恵まれた環境にありながらどうも満たされない。選択肢が沢山見えているのに、実際に自分が手に取れる自由がない。資本主義という大きな仕組みの中では、限られたものしか手に入れることができない。

言うまでもなく、私たちが生きる世界は資本主義的価値がベースになっています。「経済価値がないもの」=「無価値である」というのは、きれいごと抜きで、そうなのだと思います。

作品を書きあげる時間もコンビニでアルバイトする時間と比較すると、その時給にもなりえません。演奏するための練習時間も資本主義社会のルールの中で決められています。どんなに難しい作品も数回のリハーサルで仕上げることが、この社会のルールです。

そのルールに乗っ取って、それでも想像することを止めずに走り続けてきたけれども、そもそも決められたルールって誰が決めたものだったのか?暗黙の了解的に、従ってきたこれら約束事に私たちはいつ「Yes」と言ったんだろう? 本来のクリエイティビティを取り戻すのに、いつ私たちは行動に移すのか?

わたしは、個人的に創造者が創造する権利があると思っています。そしてこれは決して守られた権利ではなく、きちんと主張し、死守するべきものだと思っています。

この作曲家コレクティブ、名前は「Cabinet of curiosities(キャビネット・オブ・キュリオシティーズ)」と言います。意味は、様々な珍品を集めた博物陳列室。ここでは既存の価値だけでなく、わたしたちが本能的に良い、と思う一風変わった音楽もご紹介していきたいと思います。みなさま、ご期待ください。

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