ききたい

森紀明に〇〇について聞いてみた(4)

PPP Project 「ちょっときいてみたい 音楽の話」第五弾は、作曲家でサックス奏者の森紀明さん。森さんは、日本でサックスを学んだ後、アメリカ、ボストンのバークリー音楽大学でジャズを、ドイツ、ケルン音楽大学大学院で作曲、電子音楽を学び、現在は拠点を日本に移し、幅広く活動されています。続いて、敷居について。

音楽の敷居の話

――最近、4歳の娘が毎日幼稚園で絵を描いて持ってきて、でも時々それが何だか、わからない(笑)それで「これ何?」って聞くと、「お母さん、そこじゃないよ。今日は色を10色使って書いたの。そこを見て」って言われるんです。だから、どこを見るかって凄く多面的で、その作品それぞれの糸口があるなって。

娘さんすごいなあ。深い。こう言う話を聞いていると、子供の方が抽象表現を楽しむ素養があるんじゃないかって思うよね。対象が子供となると、アニメの曲を入れないと、とか、合わせにいったりするじゃないですか。僕は、あれ良くないと感じていて。なんか子供の感性を舐めてるんじゃないかと。

――実際アニメの曲は食いつき良いんですよね、教育番組関連のものとか、みんなのうた、とか、やっぱり子供が好きそうな要素目白押し!でも、案外コアなものも、わかるんですよね。うちの子が小さいときに、ジョン・ゾーン(John Zorn)コブラ(Cobra)アンサンブル・モデルンアカデミー生として、コンサートで上演することになって、わたしが指示出す指揮者だったんだけど、リハに付き合わせたら、凄く気に入っちゃって。その時の事、数年経っても言ってきたりするんです、「あれ、いつまたやるの?」って。子どもって垣根ないんだなって、無調だから難しいっていうこともないし、敷居なんて言葉自体頭にない。

コブラ!英才教育だ(笑)同じような事は今回のTravel Musicaの教育プログラム(子供のための作曲ワークショップ)でも感じました。

全然垣根がないんですよね。抽象的な内容でもこれは好きとかイマイチとかはっきり言うし、すごく面白かった。

――そういえば、最近ネット上で話題だった「無調音楽・調性音楽」の話題。

――個人的には、今の現代音楽=無調ではない、と思っていて、だから論点がずれてると思うんだけど、、、一般的にやっぱり、現代音楽の敷居って、相当高いんでしょうか?

アメリカのバークリーにいた時に、ヴィクター・ウッテン(Victor Wooten)
っていうベーシストがマスタークラスをしに来て、「経験が浅い人と演奏するときに、自分が降りていってはいけない、むしろ引っ張り上げるんだ」って言っていたんですね。それってすごく示唆に富んでいるなって思うんです。

マニアックなことでも、やっている人たちが楽しそうだったり、熱を帯びているように見えたら「何が行われてるんだろう?」って思うじゃないですか。ニッチな内容でも、フレンドリーに迎えられれば、そこからはもう自由に入っていくことができる。

僕が、現代音楽の世界に飛び込んでみようって思う非常に大きなきっかけになったのは、2010年のアカント音楽祭への参加なんだけど、その時、他の作曲家の人たちが凄く自由に見えたんですよね。

――ほかの作曲家?

ほら、今やもう大御所と言えるかもしれない、モギュランスキー(Eduardo Moguillansky)、ヤゴダ( Jagoda Szmytka)、2017年にはジーメンス賞も取ったペルツェル( Michael Pelzel)、緻密な楽譜を書くヴィト・ジュライ( Vito Zuraj)とか。日本人だと大原裕子さん、宮川渉さん、横井佑未子さんや渡辺愛さんもいたなぁ。

――それは面白そう!

そう。「こんな面白そうで自由な世界があるんだ!」って衝撃を受けたんです。もちろん、その後色々と知っていくうちに、自由じゃない部分もたくさんあるんだなってのはわかってきたんだけど(笑)

その後留学から帰ってきて、今東京でジャズのラージ・アンサンブル(Noriaki Mori Large Ensemble)を立ち上げて、不定期でコンサートをやっているんですが、そこでも、入り口はなるべくオープンに、でも音楽的にやりたいことをやるようにしてるんです。

そもそも敷居を下げたところで、多くの人にとってはそれでも高いわけだし。やりたいことを曲げてまでして、内容を変えて、敷居を下げなくても良いのかなって。だってそれで、やってる方が楽しくなかったら本末転倒じゃないかと。

だから、現代音楽の敷居はやっぱり高い。高いけど、でもやる方は、もっと先を見ていても良いんじゃないかなと思います。本気で面白いと思うものをそれぞれが追求していけば、自然と興味を持つ人って増えていくと思うんです。

森紀明に〇〇について聞いてみた(5)につづきます。

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東俊介×森紀明(作曲家×作曲家)共同プロジェクト「Crossings」
2019年6月21日に行われる関連イベント。

同プロジェクトのコラボレーターで、ダンサーの青木尚哉が主催するEBILAB/エビラボ。「音楽とダンス」と題して行われるこのイベントは、前半・後半の二本立て。前半は、ゲストディスカッション、後半は「持ち込み音楽」とダンスのマッチングパフォーマンス。詳しくはこちら

EBILAB/エビラボ vol.3ダンサー、青木尚哉によるリサーチプロジェクト
@海老原商店 EBIHARA-Shouten

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