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太田真紀&山田岳 × Cabinet of Curiosities より曲目紹介ーホウライシダ(II)ー

2022年6月29日(水)にとしま区民センターにて行われる「太田真紀&山田岳 × Cabinet of Curiosities」で演奏される曲目についての紹介記事です。本稿では、ハヤ・チェルノヴィン作曲の「ホウライシダ(II)」について書いていきます。公演詳細は、前の記事よりご覧ください。

ハヤ・チェルノヴィン

作品について語る前に、簡単にこの作曲家についてご紹介しておきましょう。ハヤ・チェルノヴィンは、1957年イスラエル生まれの作曲家です。ドイツ、アメリカで作曲を学び、作品は世界各国で演奏されています。教育者としての顔も持ち、カリフォルニア大学サンディエゴ校の教授、オーストリア・ウィーン音楽・舞台芸術大学の作曲教授に女性として初めて任命されたほか、現在はハーバード大学で教授として後進の指導にあたっています。

ホウライシダ(II)

ハヤ・チェルノヴィンの「Adiantum capillus-veneris」は、日本語で「ホウライシダ」を意味し、声のための三部作品として作曲されました。今回は、声楽家である太田真紀さんによって、その中から二番を演奏します。

ハヤ・チェルノヴィンは、削ぎ落とされた美しさを持ち、世界のあらゆる場所で(日陰でも)生息するこの植物に魅了され、この植物のラテン語名を借り、素朴かつ繊細に構成された「増幅された声のための習作」として、この作品を作曲しました。``Etude in fragility''という副題を持ち、あらゆる音域の声楽家のために書かれた短い作品でありますが、フランスのチェリストSéverine Ballonに捧げられています(以下作曲家本人からシェアされたAlinéa Ensembleのウェブサイトより引用、意訳あり)。

https://www.alineaensemble.org/czernowin?fbclid=IwAR1wyeR480DbvO_Vueqqmw1qkhtbPDL_fGAsCwOVTME2QSlGhWII-B1GZt8

ハヤ・チェルノヴィンの作品には、自然と深く結びついているものが多くあります。例えば、2011年に書かれた「The Quiet」はオーケストラのための作品でありますが、雪の日に見た吹雪からインスピレーションを得て書かれていますし、

https://www.youtube.com/watch?v=OoKUPlCkqBk

同様にオーケストラ作品「Maim (2001-07)」では、水の動きに関連しています(マイムはヘブライ語で水を意味する)。ただし、これらの自然は単に音に置き換えられるのではなく、一つのきっかけであり、そこにある美しさは作曲家によって分析され、音楽としてあるべき形を作り出しています。

余談となりますが、献呈されているSéverine Ballonは、非常に多くの作曲家と共同で創作をしている才能溢れる音楽家です。上記リンクは、Séverineによってアレンジされたハヤ・チェルノヴィンの同作品(I)なのですが、声のための作品が、単なる編曲ではなく創作物として演奏家自身によってアレンジされている、ということが稀であり、この演奏家の類い稀な才能を垣間見れる動画の一つとなっています。実際にSéverineの演奏を聞くと、彼女の作品に対する理解度は凄まじく、その音は一度聞くとなかなか忘れられません。音楽の核の部分に触れることが出来る数少ない音楽家であると感じます。最後に作品解説からチェルノヴィンの言葉を引用して終わりたいと思います。

"この作品では、声と息が音楽上同等の役割を果たしており、ある時は息は声から独立し、またある時は声と対等の対位法的な関係上にあります。この曲は、歌手が感情やその他の「自己」を表すために自らの個性を使って表現するような、標準的な方法をもって演奏される作品ではありません。むしろ、声と息を使って小筆で線を描くようなスケッチに近いのです。水(息)に色(声)をつけただけの線なのですが、この線は、実は風景全体を伝えているのです。"

https://www.alineaensemble.org/czernowin?fbclid=IwAR1wyeR480DbvO_Vueqqmw1qkhtbPDL_fGAsCwOVTME2QSlGhWII-B1GZt8


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