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夫は絵本で父になる準備をした

我が子への初めての読み聞かせは、まだお腹の中にいる時からだ。

私が幼稚園の時に母が購入してくれた福音館書店の『こどものとも』『かがくのとも』の配本が、処分されずに実家に残っていた。それを結婚の時に全部持ってきていたので、出産前から絵本はたくさん持っていた。

いつもその中から選んで読んだ。自分が子どもの頃に好きだった絵本は、読み聞かせていてもやはり好きだった。久しぶりに手にとってみてしみじみと気に入った本もあった。

夫も私のお腹に見せるようにして読んでくれた。

夫は幼い頃に絵本の読み聞かせをしてもらった記憶がないらしい。幼い子どもを相手に読み聞かせをしてあげたという経験もなかった。だから、はじめの頃はものすごく下手だった。

お腹の中の我が子をイメージしながら読むとはいえ、結局は私に向かって読んでいるようなものだ。照れくさそうにブツブツと棒読みになったり、短い話なのに「はい、続きはまた明日~!」と途中で止めてしまったりした。

夫のプライドを傷つけないために、笑わずに聞き、ダメ出しをしない。と、気をつけていたつもりだが、あまり自信はない。いや、大爆笑してしまったこともあったような…。それでも夫は休みの日には必ず、お腹の前にそれらしく座って読み聞かせしてくれた。

夫はまだ見ぬ赤ん坊の耳に声が届くことを想像しながら読むことで、父親になる準備をしていたのだろう。体の変化もなければ胎動も感じない男性は、実際に目にするまでは我が子が生まれるという実感が湧いてこないものだと聞く。夫がそんな風に迎える心構えをしてくれることが嬉しくないはずがない。

双子育児が実際に始まってみるとなかなかに過酷で、ほのぼのとしたイメージとはずいぶんかけ離れたものだった。満足に眠れず、抱っこする両手は腱鞘炎で痛み、いつも泣き声に追われ、苦しいばかりの毎日。仕事から疲れて帰った夫にイライラをぶつけてしまい、激しい口論になったこともある。

けれど、妊娠中に夫が絵本を読んでくれた風景は温かくて幸せそのもので、辛い時の希望の光だった。夫と仲良く一緒に子育てを楽しみたい、そんな望みを支えてくれたのである。


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