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ばあちゃんのこと

ばあちゃんは、

一年中ぴっちりと引っつめた低い位置のおだんごヘア。

かっぽう着のポケットにはクリップ、輪ゴム、小さなネジなど謎の小物がいっぱい。

痒いところも痛いところもオロナインを塗る。

お腹の調子はすべて正露丸で整え、風邪症状は養命酒でやっつける。


母が亡くなり、家事は父方の祖母がしてくれた。成長期の子どもが4人もいると、食事の支度だけでも大仕事だ。隠居生活から引きずり出されたことを恨む気持ちもあったんだろう。私たち姉妹に対し、いつも厳しく批判的で、決して温かい人ではなかった。それでも、進学などでそれぞれが家を去り、私と祖母の二人暮しになった頃には、言葉も見た目もずいぶん丸くなった。

穏やかになってしばらく経った頃、心臓の手術のため入院した。見舞いに行くと、いつもおだんごにしていた髪を下ろしていた。長い長い髪だった。

私はその長い髪を櫛ですいた。すると祖母は私に髪を触らせながら、「ゆきこの今着てる服みたいな色のワンピースを持ってたんだよ。娘時代にね。

すごく気に入っててねぇ。おばあちゃんにも若い頃があったんだよ。」と言って、恥ずかしさをごまかすように笑った。

大正末期生まれの祖母。戦時中に青春時代を送り、戦後の混乱の中で子育てした年代だ。頑固で気の強い人であった。

明るい黄色のワンピースに身を包んではにかむ、色白な女性を想像する。物のない時代に6人の子どもを育て、隠居もままならずに4人の孫を育てた祖母も、きっと始めからたくましかったわけではなかったんだろう。

厳しく冷たかった祖母に対しては、手放しで感謝できない複雑な心持ちがある。でも、何かのきっかけでふとばあちゃんを思い出す時、ばあちゃんはあの恥ずかしそうな笑顔で笑うのだった。すぐ、側にいるみたいに。

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