手編みのカーディガンは父の宝物だった
「ゆきこ、これ覚えてる?」父がそう言って見せてくれたカーディガンは、私が中学1年の時に編んだものだった。かれこれ30年以上も前だ。大切にしまわれていたらしいそのカーディガンは、かすかに防虫剤の匂いがした。
父は、夏に母が亡くなると、付き添いに病院へ行く必要がなくなり、家に帰ってくるようになった。それまであまり行けなかった仕事上の接待や職場の飲み会などにも行けるようになった。
初めは仕事で忙しくしているのが嬉しそうだった。今まではできるだけたくさん母のそばにいる時間を作るた