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台湾的音楽 ポップミュージックに社会的テーマが入ることを考えてみた

台湾の楽曲をアレコレと調べたり聴いたりしていると、ちょっとびっくりすることがあります。それが、台湾の楽曲は社会的なテーマで歌う作品が結構あるんだなということ。

最初に知ったのはABAO(阿爆)と 李英宏 aka Dj Didilong がコラボしているこの曲。

「無奈 tjakudain」
2019年リリース『kinakaian 母親的舌頭』収録。

台湾は、多民族国家であることを感じる曲です。
R&Bにラップが乗って、すごくグルーヴ感もあってカッコいい音だなと思っていましたが、歌詞を見てちょっとびっくり。直接的というよりかは、2人の会話の中から、抱えている問題が透けてみえるような。

ABAO(阿爆)は、台湾原住民のパイワン族の血を引くアーティスト。パイワン族の言葉で歌うアルバムをリリースし、2020年の第31回 金曲奨 (Golden Melody Award)では、彼女の『kinakaian 母親的舌頭』が、アルバム賞と原住民語アルバム賞を。収録曲「Thank You 感謝」が楽曲賞と三冠を達成しています。
ラップをしている 李英宏 aka Dj Didilong は、台北生まれのシンガーであり俳優でもある人物。いまは、台湾のヒップホップのインディーの注目レーベル、顔社(KAO!INC)に所属しています。

タイトルの「無奈」は、日本語の無力という意味。
2人の会話から、彼は楽観的だけれど…という感じがすごく見えてきて、このタイトルがしっくりきます。

YouTubeの説明には…。(英文をざっくり訳しています)

時折、どうすることもできないと感じることもある:Yesと言うことができないことが。この楽曲は、ABAO(阿爆)の新しいアルバム『kinakaian 母親的舌頭』に収録されている悲しいラブストーリーです。このカップルは、お互いの民族的な背景が異なるために一緒になることはできないと。
ABAO(阿爆)は、Taiwanese Hokkien(台湾語:明・清時代に福建省南部から移住したホーロー人と言われる、台湾の74%くらいを占めるひとたちの言語)を話す Dj Didilong を誘って、昔から歌われているパイワン族の歌をフィーチャリングした楽曲を発表しました。2人にケミストリーがあっても成就しないことからパイワン語の "tjakudain"(無力)という意味をより知って、このラブストーリーの無情さを感じることができます。

台湾の高校の歴史の教科書が日本語でも翻訳されていて、それを読んだことがあるのですが、教科書の中にも、台湾原住民について学ぶページがキチンとあり、お互いの文化を知り、違いによる誤解を生まないようにするメッセージを感じる内容でした。これは、なかなか興味深いものだなと思っています。

社会的なテーマと言うと、Fire EX. も欠かせないバンドです。

「島嶼天光 Island's Sunrise」
2015年の金曲獎(Golden Melody Award)の最佳年度歌曲を獲得した曲ですが、これは2014年に台湾で起こった、ひまわり学生運動で学生からの依頼で作成された作品です。運動のアンセムになったそうです。歌詞からは、台湾への想いや、アイデンティティが感じられます。この曲をBGMにして、実際の運動の様子を撮影した映像がYouTubeにたくさんあります。
Fire EX.は、1945年に起こった、高雄大空襲の悲劇を描いた楽曲も発表しています。また、東日本大震災から10年の節目の2021年に、日本の被災地や日本への想いを描いた曲を発表しています。彼らは、震災後にも東北を訪れ、仮設住宅なども訪問しライブをしてくれています。

「希望の明日」
この曲のMVは、2021年3月11日 14:46に公開しています。

日本でもメジャーレーベルだったり、インディーズでもたくさんのお客さんを集める人気アーティストも、社会的テーマを描くことはあると思いますが、台湾はもっと直接的というかメッセージ性が強いような印象を受けました。
台湾音楽を聴き、調べ始めて日が浅くても、いくつかの楽曲に出会っているので、そういう楽曲はもっとあるのではないかと。

こういった傾向は、台湾の歴史を見ていくとヒントがあるんじゃないかと、個人的には思っています。
台湾の戒厳令解除前の1987年頃には、"台湾である"というアイデンティティを持って、台湾語で歌を歌う人たちが増えてきました。また80年代にインディロックのレーベル、ロックレコード(滾石唱片)やクリスタルレコード(水晶唱片)が出来ます。
特に、クリスタルレコード(水晶唱片)は、大学のキャンパスなどでのライブを企画していたので、"台湾である"というアイデンティティを持った学生たちには、大きな影響を与えたのではないかと思います。

1987年の戒厳令解除後には、言論の自由も保障されて、台湾人であるアイデンティティを持つことや、郷土意識がより高まりました。
音楽や文学でもたくさんの作品が生まれました。今でも歌い継がれている楽曲のひとつが、林強「向前走 Marching forward」です。

「向前走 Marching forward」林強 Lin Chung(Lim Giong)
MVに時代を感じます。それもまた味があって良い。

戒厳令の期間など、自分たちの想っていることを自由に発言できない時代を経て、自分たちのアイデンティティを表現するようになったことが、いまでも社会的テーマが入った歌を作る背景にあるのかなと思っています。

そんなことを思いながら、まだまだ台湾の音楽と出会って、いろいろと調べてみたいなと思っています。

今回、紹介したアーティストの記事は、こちらにも書いています。


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