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銀花の蔵(遠田潤子/新潮社/直木賞ノミネート候補作品)

<著者について>

遠田潤子さん

大学を卒業後、専業主婦を続ける傍ら執筆した『月桃夜』で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位に輝く。苛烈なまでに人間の業を描きながらも、生の力強さ、美しさを感じさせる独自の世界観で読者を魅了。他の著書に『雪の鉄樹』『冬雷』『ドライブインまほろば』『廃墟の白墨』などがあります。


<直木賞とは?>

正式には「直木三十五賞」。単行本、各新聞・雑誌として出版された大衆小説の中で最も優秀な作品に贈る賞として、1935年に芥川賞とともに創設されました。


直木三十五氏は大正後半から昭和初期に活躍した大衆作家・評論家。新聞紙上、諸雑誌上で活躍し、大衆文芸の地位確立と発展に貢献されました。


週刊誌に連載した時代小説「由比根元大殺記」がヒット。さらに2年後にお由羅騒動を描いた「南国太平記」を発表。これが代表作となりました。大衆文芸作品を数多く手がけ、直木作品を原作とした映画も50本近く上映されるほど大人気だったそうです。そのような業績を称えて、文藝春秋の創業者である菊池寛氏が直木賞を創設しました。

<あらすじ>

大阪万博に沸く日本。絵描きの父と料理上手の母と暮らしていた銀花は、父親の実家に一家で移り住むことになる。そこは、座敷童が出るという言い伝えの残る由緒ある醬油蔵の家だった。家族を襲う数々の苦難と一族の秘められた過去に対峙しながら、少女は大人になっていく――。圧倒的筆力で描き出す、感動の大河小説。

<感想>

※少しネタバレです

丁寧に書かれた女の一代記、王道の家族小説です。

大阪万博に沸く時代。
座敷童子が出るという老舗の醤油蔵で育っていく少女銀花は、家族の抱えてきた悲痛な過去を受け止め、秘密と嘘に呑み込まれそうな夜を越え、それでも蔵で生きていきます。

婿養子、腹違い、不倫、継子、旧家の隠微な人間模様が、ぎっしりと詰め込まれたストーリーです。

精密な設計図をひいているのだろうことは、読後には想像されました。

でも読んでいる間は、各登場人物の言葉と生きる熱量から、作者の計算を計ることもできず、最後クライマックスに向けては、怒涛の真相発覚の渦に呑み込まれるように、読み終えました。

主人公は銀花ですが、中心人物は他に母親の美乃里です。彼女の料理の何とも美味しそうに描かれていること。しかし、その美味しさの裏には美乃里の生の悲しさが秘められています。

「夾竹桃(きょうちくとう)」「紅茶に浸したパンの耳」といった印象に残る比喩などでも、場面をきっちり絵にして見せてくれました。

始めに座敷童子が出てきた時は、ぎょっとして不気味さに引き込まれたけれど、ホラーではなく、物語の象徴のように感じました。


文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです