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首里の馬(高山羽根子/新潮社/芥川賞ノミネート候補作品)

<著者について>

高山羽根子さん

多摩美術大学美術学部絵画学科卒。日本画を専攻されていたようです。卒業後、就職しても絵は描き続けていたのですが、30代半ばから小説を書き始め「うどん キツネつきの」でデビュー。「居た場所」「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」で2回芥川賞候補になっています。ということは、3回目の候補作品なのですね。

<芥川賞とは?>

芥川龍之介賞、通称芥川賞は、純文学の新人に与えられる文学賞である。文藝春秋社内の日本文学振興会によって選考が行われ、賞が授与される。友人であった菊池寛が1935年に直木三十五賞(直木賞)とともに創設し以降年2回発表されてきました。


新人作家による発表済みの短編・中編作品が対象となり、選考委員の合議によって受賞作が決定されます。


<あらすじ>

沖縄の古びた郷土資料館に眠る数多の記録。中学生の頃から資料の整理を手伝っている未名子は、世界の果ての遠く隔たった場所にいるひとたちにオンライン通話でクイズを出題するオペレーターの仕事をしていた。ある台風の夜、幻の宮古馬が庭に迷いこんできて……。世界が変貌し続ける今、しずかな祈りが切実に胸にせまる感動作。


<感想>

高山さんの想像力と構想力は凄い!

特にこのコロナの時期、孤独な場所とは一体どんな場所なのか?を突き詰めて書かれてるように感じる本作に、引き込まれずにはいられませんでした。

もう家族のいない、あまり人と接することを好まない20代の女性が主人公です。

彼女の仕事は、世界各地の孤独な人々に、クイズゲームを出題するという不思議なものです。
日常には、しょぼくれたミュージアムの沖縄の資料データベース作成作業があります。

その両方が不思議に結びついて、そのはざまに、「ヒコーキ」という名の馬が走らされて。この馬は、「首にウェブカメラをくくってぶらさげ」ています。

何とも不思議な、非日常のSF的世界と、沖縄のフォークロア空間と、マイクロSDカードを骨と結びつけるなど、奇抜でユーモアに満ちた設定で、どのように孤独が描かれていくのかを、是非お楽しみください。

ご自身が、孤独、孤立を愛してらっしゃるように感じられるから、暗くはありません。

私達の身の回りの、どんな些細に思われる事柄でも、結果何らかの痕跡を残す…
孤立したもへの愛と、それがなくてはならないものとの思いが感じられました。

高山さんの受賞のお言葉に
「この大変な、たいていの場合においてひどく厳しい世界は、それでも、生き続けるに値する程度には、ささやかな驚異に溢れていると思うのです。ときにはびっくりするくらい美しかったり、胸が締め付けられるくらい愛おしかったり、思い出していつまでも笑ってしまうくらい滑稽だったりもします。この、どれだけ書いても書き足りないくらいの、それらのことについてを、私はずっと書き続けていきたいのです。」

孤独とは、静かな絶望につながる事もあるものを、そうさせないという、強い力を感じました。




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