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黒猫のスクリプト

完璧に、美しい
造形的(見た目)はもちろん、何をやってもうまくいく

両親はこの完璧な僕にすごく優しい

スポーツだろうが、勉強だろうが、芸術的センス(絵もうまく描けるし、音楽の才能)もすごいみたい

会社に入れば、役に立つと重宝され、要領も器量も悪い同僚より、愛され引き立てられて、あからさまに贔屓され、実際お給料もどうやらたくさんもらえているみたいだ

そんなある日

小さなみすぼらしい黒猫を、道端で見つけた

不器量で汚い、その猫が
びっくりするくらいの声で鳴いていて、僕はびっくりしたんだ

なんで、そんなにみすぼらしいのに

なんで、そんなに生命の声を

奏でることができるのか

僕はその猫を抱いて家に帰る

両親は今すぐ捨ててこいというから、僕は家を出て猫と暮らすことにした

あの不器用で上司からバカにされていた同僚が、親身になってくれ、猫の飼いかたを教えてくれる

猫との暮らしは想定外のことばかりで、僕は振り回されてばかりで、そして猫に愛しさが募っていく

両親は僕に興味を失ったみたいだ

この輝かしい生命を大事にできない両親にも
僕はすでに興味がない

彼らは、本当の美しさ、力強く輝く光を、見ることができないのかもしれない

それが彼らの役割ならば
それは、しかたないというものだ

僕は美しい黒猫と、あの不器用な同僚と今暮らしている

いびつで不完全と世間からは見えるらしく、会社はクビになったけど

元同僚は素晴らしい音楽の才能があり、僕はそれを世界に発信できる才能があった

僕は
愛しい人と愛しい猫と
ただ歌うように、息をするように
いまここに存在していて

ただ、安らかな気持ちでいる

黒猫が手に頭をこすりつけてくる柔らかさと
彼が優しく頭を撫でてくれる歓びを

全身の細胞で感じながら
眠りにつく

ただ受容される歓びを

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