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20181108優しい写真

幡野広志さんの作品展に行った。

幡野さんのことをSNSで知ったのは、今年はじめだったと思う。きっかけは何だったか思い出せない。

幡野さんは、写真家であり、狩猟免許を持っている。そして2歳の優くんという子どもの父親だ。2017年に余命3年の宣告を受けた。

はじめて読んだブログは、「最後の狩猟」というタイトルだった。(獲物の写真が掲載されています。苦手な方は見ないでください)

幡野さんのTwitterには、悩みの相談が届くようになる。それに息子に答えるつもりで正直に向き合った幡野さんは、こんな考えに辿り着く。

「人には言葉というのが必要で、僕は今懸命に、それを残そうとしている」

9月に幡野さんは、本を出版した。「ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。」言葉がすんなり入ってくるのは、これが「手紙」だからだ。息子である優くんに宛てた「手紙」。

幡野さんは、優くんに言葉を残したいと考えた。自分で道をつくり、自分で歩いていく優くんが、これからふっと立ち止まったとき、遠くからぼんやり見える灯台のような役割を願って。

本には、優くんに伝えたいこと、話したいことがつまっている。

「優しさについて」「孤独と友だちについて」「夢と仕事とお金について」「生と死について」

私は、「自分はどう考えている、考えるだろう」そういう問いを読後に感じられる本が好きだ。話していて、そういうことを思わせてくれる人が好きだ。私の好きな音楽は、いつだってそんな存在だった。

銀座のギャラリーで作品展が行われているので、行ってきた。ちょうど見終わってメッセージが書けるコーナーで、書いているところに幡野さんがいらっしゃった。

持って来た本にサインをお願いすると快く書いてくれた。「どちらからいらっしゃったんですか?」と気さくに声をかけてくれるので、少しだけお話しをすることができた。

SNSで見ていたけれど、プリントされるとまた違って見えますね、と伝えると「SNSは(デバイスの画面)それ自体が光っているから。プリントは光が当たって見えるから、見え方も違うんですよね」と答えてくれた。

写真に詳しくないことを前置きして、幡野さんの写真は、青みがかって見えますね、と伝えると「好きなので、そういうふうにしてるんです。インスタントラーメンを作って、その後に自分なりの味つけをして仕上げるんです」わかるように話そうとしてくれているのが、表情をみてわかった。

「そのままで終わり、ではなく、仕上げをする」わかった気がします、と言う代わりにそのまま幡野さんの言葉を繰り返した。「ええ、仕上げることに技術(違った言い方だったかもしれません)が必要なんです」幡野さんは答えてくれた。

ありがとうございます、見に来れてよかったです、とお伝えして、手を差し出すと、笑顔で握手をしてくれた。「手、あったかいですねぇ!」と幡野さんは驚くように笑った。「ああ、着込んで来たからですかねぇ?」と私も笑う。

サインを後で見返すと、幡野さんが優くんに書いてあげている猫が3匹。優くんと幡野さんに挟まれて、私の名前が書いてあった。

優しい写真があって、優しい人がいた。とても優しい場所だった。

ひとつ、お伝えすることを忘れてしまったなぁ、と後で思った。

「またお会いしましょう」と。

私には、子どもがいないし、子どもがいる人生になるのかならないのかもわからないけれど、かつて子どもだったひとりとして。

行けてよかったし、このことについて何かを想えてよかったと思う。

幡野広志作品展「優しい写真」 11月15日(木)まで 11:00〜19:00

Sony Imaging Gallery



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