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飾られた
絵の中に
僕の心が
描いてあった

目が離せず
思わず人差し指で
眼鏡のブリッジを
持ち上げる

画廊のウインドウに
近づくと
春の嵐
そんなタイトルが
小さく読めた

淡いグレイの世界に
没頭する

唐突に
嵐の中僕は
切り立った崖の側を
歩いていた

足が
自分のものじゃない
感覚

ふと頭をよぎる
誰かの記憶

母に薬を買いに行くのだ
ここが一番の近道だから

ああ、ようやく街が見えてきた
あの小さな灯りは
希望に満ちている

そこで僕は
ハッとした
ガラスに映る
自分の青白い顔

画廊のドアが開き
店主が出てきた

永いこと見ていらっしゃいましたね
その絵が気に入りましたか?

はい、と頷くと
絵の中に入っていらしたんでしょう
そう云われてぎくっとする

またはい、と頷く

きっとこれからは
良いことが
たくさん起きますよ
この絵は人の倖せを
願って描かれたのでね

店主に云われて
僕は思わず
涙ぐみそうになった

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