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【ショートショート】新しい噂 #シロクマ文芸部

お題:「新しい」から始まる物語
657文字

新しい敵がやってきた。
父さんと母さんがいなくなった。なんで僕たちを置いて出て行ってしまったのだろう。
寂しいのもあったが、このままでは兄弟で施設に入れられるのではないかと怖かった。
そしてこの家が人手に渡るのは許せない。
父さんと母さんがいなくなっても、ここは僕たち兄弟の家だ。この家のことなら隅から隅まで知っている。何度も何度もかくれんぼをして遊んだから。
だから僕たちはこの家に隠れることにした。
そして嫌がらせをして新しい住人を追い出すのだ。
最初に住みはじめたのは若い夫婦だった。
夜中に白い布を被って廊下を走り抜けた時の、女の驚きようと言ったらなかった。
それからは屋根裏で足音を鳴らすだけで怖がるようになって出て行った。
それから僕たちは何度も新しい住人を追い払い、1ヶ月前に住み出した夫婦も、ついに昨日出て行った。
しかし安心したのも束の間、外には新しい住人らしい夫婦が立っていて、玄関を開けるところだ。
屋根裏の窓から玄関を見下ろして身構えていると、弟が言った。
「兄ちゃん、あれはお父さんとお母さんだよ!」
確かにあの男の帽子には見覚えがあった。父さんに違いない!帰ってきたんだ!
僕たちは階段を駆け降り、父さんと母さんに飛びついた。
懐かしい匂いが僕たちを包んだ。
「2人ともごめんよ。もう父さんも母さんもどこにも行かない」
「もう隠れる必要ないんだね」
「そうよ、また4人で暮らしましょう」

それから、一家4人惨殺事件があったこの家は、子供の幽霊が出るという噂から、家族の幽霊が出るという新しい噂に変わり、今でも買い手はつかない。

シロクマ文芸部に参加させていただきました。

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