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オフラインの必要性【Ⅱ】「目は口ほどにものを言う」

オフラインの必要性【Ⅱ】

組織において「トランザクティブ・メモリー」の高いチームでは、「フェイス・トゥ・フェイスの直接対話によるコミュニケーション」がメンバー間で頻繁に行われていた。そして、クライアント企業からの評価もきわめて高い。

これは、米テキサス大学オースティン校のカイル・ルイスが2004年に「マネジメント・サイエンス」に発表した研究論文に記されている、MBA(経営学修士)の学生261人からなる61チームが、地元企業に行ったコンサルティング・プロジェクトを分析した結果だという。

前回、オフラインの必要性について、人間の五感は「オンライン」だけで相手を信頼しないようにできているという、霊長類研究の第一人者・山極壽一京大総長の指摘を引用しながら記した。

本日はその続編。
組織運営、経営において、組織の学習能力というテーマが大きな関心を集めている。組織も個人も過去の経験から学習し、その学習によって組織全体の効率や生産性が高まるわけだが、そうした学習を促すにはどうすればいいのか。

冒頭に記した「トランザクティブ・メモリー(Transactive memory)」とは、経験によって学習した情報の蓄積において重要なのは、組織全体が「同じ知識を記憶すること(What)」ではない。むしろ「組織内で『誰が何を知っているか(Who knows What)』を把握すること」であるという考え方だ。

組織における情報の共有化というと、一般的には「組織の全員が同じ情報を知っていること」を指しがちだが、そもそも個人が一人で把握できる情報量なんてたかがしれている。それなのに、例えば100人いる組織で100人全員が同じ情報を知ろうとするのは、まったく非効率。メンバー全員がそれぞれの担当分野や専門分野に特化して知識を蓄え、その専門性を効果的に組み合わせて活用することが、組織として学習することのメリットだ。

繰り返しになるが、組織全体で同じ情報を共有することよりも、「誰が何を知っているか」の情報を、誰もがアクセスしやすい状態で共有することが重要。いわば“知のインデックスカード”のしくみを組織内に整え、それをメンバー全員が正確に把握している必要がある、というのがトランザクティブ・メモリーの考え方。

この考え方は1980年代半ばにハーバード大学の社会心理学者、ダニエル・ウェグナ―が唱え、「交換記憶」あるいは「対人交流的記憶」「越境する記憶」などと訳されている。

最初に引用したカイル・ルイスの研究は、これからの私たちの働き方にも大変示唆に富んでいる。

「各チームがコンサルティング・プロジェクト遂行中に、どのくらいの頻度でメンバー間のコミュニケーションをとったか」を指数化し、メンバーがとったコミュニケーション手段を、(1)メール・電話によるもの、(2)フェイス・トゥ・フェイスでの直接対話によるものに分けてそれぞれの頻度を指数化ている。

結果は、最初の引用のように直接対話がトランザクティブ・メモリーを高める。そして、「トランザクティブ・メモリーの高いチームほどプロジェクトのパフォーマンスが高い」という結果が得られた。他の多くの研究者の研究においても同じ結果が出ているそうだ。

「メール・電話によるコミュニケーションが多いことは、むしろ事後的なトランザクティブ・メモリーの発達を妨げる」可能性も示されているという。

また、1998年に米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のアンドレア・ホリングスヘッドが「ジャーナル・オブ・パーソナリティー・アンド・ソーシャル・サイコロジー」に発表した実験研究でも、目と目を合わせる「アイコンタクト」や顔の表情を通じてのコミュニケーションが、トランザクティブ・メモリーを高める効果があるという興味深い結果が出ているそうだ。

まさに、目は、本当に「口ほどにものを言う」。

さて、三密を避け、zoomなどのビデオチャットでのリモートミーティングやリモート授業に多く依存している現在、モニター越しの、互いに顔を突き合わせての、アイコンタクトや表情、あるいは身振り手振りも含めた、「言語を超えたコミュニケーション」を増やせているか。
どこまでトランザクティブ・メモリーを高めることができるか。

「実際のフェイス・トゥ・フェイス」と「モニター越しのリモートでのフェイス・トゥ・フェイス」でどのような違いが出てくるのか、興味深いテーマだ。

(※参考:入山章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか』)

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