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和装の話題

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仁平幸春の和装や布に関する考えを綴ります。
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記事一覧

振袖にまつわる悪い思い出は、実は振袖自体ではなく人間関係によるものが多い気がします

成人式で振袖を着る事になって、その着用にあたっての煩雑さ苦しさなどで嫌な思いをし、それから着物を忌避するようになってしまった人は多いものです。 しかし話を聴くと、その嫌な思い出の半分からそれ以上は、人間関係での嫌な思い出であって、それが振袖というアイコンに集約されて語られているように思います。振袖自体が悪さをするわけではありませんからね。 例えば… 祖母が孫娘の振袖を買ってくれるという事になった。しかしそれは孫娘の望んだ事ではなかった、というケースは良くあります。 ・

男着物は気概で着る

男着物は腹が出ている方が似合う、体型が緩んでいるぐらいの方が板につく、などと言って男着物を勧める人がありますが、私は個人的にその勧め方が嫌いです。 私は古の価値観に生きる男ですので 「男着物は気概で着る」 じゃなくてどうすると思うからです。 ちなみに、今話題にしているのは「男着物」限定の話であります。 実際、外国人の男性格闘家が男着物を着ると格好良いですよね。勝負で鍛え上げられた心身だからです。顔は日本人よりも濃く手足が長くても、普通の日本人よりも似合う。この事実

分野分け出来ない着物をつくる理由

当工房は、衣桁に(着物を広げて飾るための枠)かけた際に見栄えのする「着物の形をした染絵」のような着物を作りません。あくまで「実際に着た時に最大の力を発揮する着物」を作ります。着物に限らず、当工房で制作する和装全般、そのような考え方で制作します。 昔は着るためだけでなく財を誇るためやインテリアとして衣桁にかけて映える着物の需要がありましたし、現代も美術団体展出品用の総柄の絵羽の着物がありますが、当工房ではそのようなものは滅多に制作しません。 当工房ではそのような着物ではなく

私は和装自体は充分に進化した状態にあると考えております

現代の和装は一般的にイメージされている「高価でメンテナンスが大変で決まり事だらけで面倒な“着物”」だけではなく「もう少し気楽な太物系(綿やウールなどの着物)」「着付けもメンテも楽な労働用和装」「くつろぎ用の和装」「コスプレ用和装」・・・その他が存在しています。 そして、それらはそれぞれに意外に進化しており現代の日常生活に溶け込んでいます。 和装と普段関わりの無い、あるいは興味を持たない人の目には入らないので意識に登らないかと思いますが、現状で既に社会からの要望に対して充分

和装は懐が深く広い面もあります

和装は、決まった形しか無いように思われ勝ちですし、ルールも厳しいように思われておりますが、実はいろいろなカテゴリーがあって、それぞれに楽しめる世界です。 しかし、和装は既に日本人が日常に着用する衣類ではなく、趣味で着るものになっていますから、どうしても「あんなのはおかしい」と、それぞれのクラスター同士での戦いが勃発し勝ちです。 普通に考えて、いろいろなものが存在しない世の中は変ですし、選択肢が少なかったら人は飽きるわけですが、どうしても趣味性の高い分野は「我こそ正義」とな

フォリア工房の和装についての考え

フォリア工房、そして代表の仁平幸春の、和装への姿勢です。 文化面「いわゆる呉服」は、古臭く、水商売臭い、美術団体や呉服業界などの閉鎖的価値観で作られ着用される日本の衣類=「日本の伝統の本筋から切り離され、日本の伝統の亜種となってしまったもの」と考えています。 「和装」は、染色・染織以外の日本の伝統とも連動し、機能する立体的な存在であり、同時に現代日本の様々な文化、並びに日本以外の文化とも共鳴する「伝統と新しさが交差し、かつ同時に存在するもの=本来の伝統的衣類」としています

レース“文様”の和装についてあれこれ

当工房では、アンティークレースをモチーフにした和装の「文様染め」をしており、それは当工房のスタンダードラインのひとつです。 25年ぐらい前・・・1998年ぐらいから作り始めて、今に至ります。 技法は、全く和装染色の伝統技法で、糸目友禅(ゴム糊)とロウの文様染で染め上げます。 そのレース文様の作品を制作していると面白い体験をするのですが、 「お客さまが、レース使いの洋服はあまりお似合ではないのに、着物や帯のレース文様はとてもお似合いになる」 なんて事が起こるんですね。

私は伝統的とされる日本的な色味も、時代によって変わると考えております

このnoteに何度か書いております通り、私は日本的な色味というのは「わずかな濁りや茶色成分を含む、湿度のある色」と考えております。 これは、私の実際の創作上の経験や、伝統のものや現代日本にある“モノや現象”への観察によるもので、どこかの誰かの意見ではありません。ですので、他の人はそう考えないかも知れませんが・・・ そもそも、色は絶対のものではなく、眼や脳が違えば、見えている色は人によってかなり違うものですし、何かの色を見た残像で、今見ている色は変わってしまうものです。味や

渋い・地味・派手について

・・・・「渋さ」と「地味」という話がありますが、両者は全く違います。 「渋い」というのは電球で例えるなら、白熱灯のようなジワリとした光の波長を持つもので「派手」の方はLEDの光のような・・・刺さるというか強いニュアンスがあります。 どちらも「光を発するもの」なのです。 しかし「地味」というのは、光を発しない、むしろ光を吸収してしまうものです。ですので、地味であるのは、何事においてもダメです。 「枯淡」は、押し付けて来る事は無く、過剰ではないもので、冴えて冷たい鋭さを持

フォリア工房のムラ染系の仕事について・5

今回は、生地に染料や糊やロウを蒔いて、蒔絵などで言う「砂子」のような効果を出す仕事を紹介させていただきます。 いろいろな手法がありますが、当工房の「蒔きもの」の仕事は 事で、制作します。 *飛沫染(しぶき染)* ここでは「染料、あるいは顔料で行う場合」を説明いたします。 染料や顔料の場合は、下画像のような「扇筆」を使います。特に、毛がピンピンして弾力のあるものが良いです。そこに染料や顔料を含ませ、棒に打ち付ける事で飛沫を作ります。 染料や顔料へ混ぜる糊料の濃度、筆

フォリア工房のムラ染系の仕事について・4

*墨洗い流し加工* こちらは、墨や顔料で生地を染めた後、布を水に充分に浸け、それからブラシで擦り落とす加工です。簡単に言えば、デニムのストーンウォッシュのようなニュアンスを手作業で出す加工です。 和装では、金加工や上絵加工の場合は、経年変化で剥げ落ちたニュアンスを狙ったものがありますが、労働着以外では「布自体が経年変化した美しさ」を最初から狙ったものは、殆どありません。 当工房では、布自体が経年変化したかのような加工をどうにか出来ないかと試行錯誤し「染めたものをワザワザ

フォリア工房のムラ染系の仕事について・3

*ムラ雲絞り* 当工房では、工房内の通称でそう呼んでおりますが、絞り染業界で言われている「群雲絞り」は違う手法と、仕上がりです。 この記事で「ムラ雲絞り」というのはあくまで、当工房の手法と仕上がりである事を前提に話を進めさせていただきます。 晴れではあるけども、雲がモヤモヤと出ている空の感じに似ているので「ムラ雲絞り」と呼ぶようになりました。 ヘッダー写真のものは、強めにニュアンスを出した、白大島の着物生地に染めた当工房の「ムラ雲絞り」です。(草木染) * * * 

フォリア工房のムラ染系の仕事について・2

*トラ目染* こちらも「全面ロウムラ加工」と同じように、工房内での通称がそのまま業界の通り名になってしまいました。 「トラ目」とか「虎杢」というのは、木材に表れる縞文様のようなものです。エレキギターでは、ギブソン・レスポールで有名です。 上画像のエレキギターのボディトップの材木のニュアンスを、染で出したものです。 元々は、フラットな生地への「全面ロウムラ加工」のご依頼をいただいた際、やってみたものの、良い感じに仕上がらず、他の方法を模索していて開発した技法です。怪我の

フォリア工房のムラ染系の仕事について・1

*全面ロウムラ加工について* 「全面ロウムラ加工」というのは主に「白ロウ」という、防染力が弱めのロウを生地全面にベッタリと置いて、その上から染料を擦り込み、ムラ加工をする事です。 着物の表地ならだいたい38cm幅×13.5mぐらい、名古屋帯なら36cm×5.5mぐらいの長さ全部に、白ロウをベッタリと置きます。 その際、着物なら白ロウは2kg程度、ロウを取るためのわら半紙は500枚程度使います。 一度目の仕上がりが今ひとつの場合は、再度、同じ加工を繰り返します・・・実に