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小説「ムメイの花」 #42期待の花

朝の日課。
家の前に立つ。
右手に花はない。

今朝もデルタのカメラを首からかけ、
花の灰について考えを巡らせていた。

「おーい、アルファ。おはよう」

不思議なことが起こったあの本を抱え
ブラボーが走って来る。

そしていつものように
石につまずき本を落とす。

毎日躓く石も、あの本に劣らず不思議だ。
ブラボーが不思議の源なのか……

石やブラボーの謎については
花の灰の件が片付いてからにしよう。

波のように押し寄せる
こころの中の言葉を落ち着かせる。

本を拾い、僕の元へやってくるブラボーに
あいさつをした。

「おはよう、ブラボー。
 本が元気そうに飛んでいったね」

「あれから本をずっと観察していたけど、
 その後はぴたり。動くことはなかったよ。 

 そうだ、チャーリーに灰のことを聞いてみるんだったね。
 チャーリーの姿は?」

僕の家の向かい側に建つ
チャーリーの家を見た。
今朝はまだ家から出てきていないよう。

「うん、迎えに行ってみようか」


チャーリーの家に向かうのはいつかの朝以来。

あの日は学校の先生であるチャーリーのパパと
花の灰を使った実験をした日であり……
僕が初めて「見惚れる」という感覚を知った日。


玄関の前に立ち、ブラボーはベルを鳴らす。

僕は家の横にある物置付近をうろうろ。
物置の影には黒いものが入った小瓶が
何個か落ちていた。


ガチャ。
玄関の扉を開ける音が聞こえた。

「お、おはようっ、ブラボー!
 今朝はウチに来るなんて何事だ!」

「おはよう、チャーリー。
 アルファも一緒だよ」

チャーリーが物置の近くにいる僕を見る。

「わわっ!なんでそこに!」
「チャーリー、おはよう。何か落ちているよ」

「なぜそれを!しかもNo.18!
 探していたやつ……!」

「ほら、他にも何個か」

僕が落ちた小瓶を拾うと
チャーリーは慌てて飛んできた。

「何でもないよ!」

ブラボーは聞いた。
「それは?」

「だから何でもないっ!」

急いで全部の小瓶を拾い、
ポケットにしまうチャーリー。

僕が手に持っていた
No.18と呼ばれる瓶も回収された。

「まあ、チャーリーにだって
 知られたくないことはあるよね。
 他に行こうか、ブラボー」

僕たちが去ろうと背中を向けたとき、
チャーリーは言った。

「待って!そうだよ、大切だよ」

僕とブラボーは振り返ると
チャーリーは下を向いていた。

「黙ってボクについてきて」


案内されたのはチャーリーの部屋。

空になった本棚の前で
本が積み上がっていたり、
ブロックが散らかっていたり。

ひとつだけ、
きちんと整理されたガラス扉の棚があった。

棚には番号が振られ、番号の上に
黒い粉が入った小瓶が並べられていた。
独特の香りもこの棚から漂う。

チャーリーは棚の扉を開け、
ポケットから1つ小瓶を取り出し
空いていたNo.18の位置に置いた。

扉が開いた瞬間、
さらに独特の香りが増す。

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「これ、全部花の灰さ。
 実は灰の香りがボクは大好き。
 大好きなものが手元にあれば
 満足できると思っていたんだ」

僕とブラボーは驚きを隠せずにいた。
あんなに無いと思っていたものが
今目の前に現れたんだ。

チャーリーは続ける。

「でもこころから求めている人が
 ボクの目の前にいると知って
 手放したくないと思っている自分が心地悪い。
 気持ち悪いなって思った。
 だから……だから譲る」

「本当にここまで集めたのに良いの?
 僕もブラボーもどっちだろうと
 責めたりしないよ?」

チャーリーは黙って頷いた。

みんなが何かと僕に協力してくれている今。

結果が出ないかもしれないという不安。
それでも僕の考えに期待し、
信じてくれている。


チャーリーは棚から小瓶を回収し
僕とブラボーに渡していく。

それぞれ小瓶を持ち、
僕たちは外の物置へ向かった。
僕が今朝、小瓶を拾った場所だ。

「ここら辺でどうかな?」

僕は物置の近くに
四隅を紐で囲ったスペースを作った。

「もう一度、アルファの仮説を教えてよ」

ブラボーがそういうと、
チャーリーもまっすぐな視線で
僕の顔を見上げた。

「僕の仮説は花の灰が花の種ということ。

 なぜなら、生きた証として
 わざわざ灰を残していると考えるから。

 ブラボーの本が動いたとき
 本には灰しかなかった。

 芽のようなものが成長し、
 また灰に戻ったんだ。

 きっと種としての秘密がある」

僕たちは小瓶の蓋を開け、
紐で囲ったスペースに灰を撒く。

灰がついた手でいろんなところを触り、
3人とも顔や体が真っ黒になっていた。

「ブラボー、チャーリー。
 明日朝5時。ここに集合しよう」


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