見出し画像

【塚口/パル】ナチス兵士が平和の架け橋に『キーパー/ある兵士の奇跡』

去年の末ごろから始めたnoteで映画の感想を投稿し始めた。今年は上半期と年末に新作と旧作を分けたランキングを出そうと考えている。上半期も残り僅かとなった現時点で、上位候補なのが今作、『キーパー/ある兵士の奇跡』である。

■『キーパー/ある兵士の奇跡』と私


西宮北口から普通に乗り換え、塚口駅下車後すぐにあるのが「塚口サンサン劇場」。ロードショーが終わった映画を中心に上映している劇場だ。その映画館で初めて観たのが今作『キーパー/ある兵士の奇跡』だ。

画像1

タイトルが面白そうというのと、行ったことのない映画館で映画を観たかったというだけの理由で鑑賞。そこまで期待していなかったが、後半は号泣してしまった。

画像2

そんな今作をパルシネマしんこうえんさんでも上映するということで、今年2回目の劇場鑑賞!2回観たからこその発見や思うことがあるので、今回はそれらを綴っていく。

■元敵兵という偏見

戦後のイギリスが舞台ということで、元ナチス兵である主人公バートは差別を受ける。教科書にも「差別を受けた」としか記載されておらず、授業でもそこに関しては詳しく勉強しない。戦後に元敵兵がたった一人で収容所から小売店に労働力として派遣された。そこではたくさんのイギリス人たちから差別的な言葉を浴びせられる。ナチス軍が彼らに対して行ったことは間違っていたかもしれない。友人家族を殺された人たちも大勢いる。しかしその罪を目の前にいるバート一人に背負わすのはおかしい。戦後間もないころだと仕方がないのかもしれないが、観ていてつらかった。


■心を動かすほどのバートの人間性

▷「君と踊りたかったが、選択できなかった」
志願してナチスに入った彼だが、事前に聞いていたことと現実はかけ離れていた。が、気づいた頃にはもう遅かった。差別的なことをマーガレットに言われた時、バートは「君とは戦いではなくダンスがしたかった。でも僕は選べなかった」と言う。当時の青春を、人生を奪われた兵士たちの現状が悲しすぎる。

▷マーガレットを喜ばすためだけのダンス
彼はサッカーの試合中、マーガレットを喜ばせるためだけにダンスをする。もちろん監督にもチームメイトにもキレられる訳だが、マーガレットは客席で笑っていた。

▷マーガレットをひとりの女性として
マーガレットの彼氏のビルはバートをよく思っていなかった。元敵兵が自分の恋人の店で一緒に働いていたからだ。二人で店内で過ごす時間もあり、嫉妬もあったかもしれない。バートのフェアウェルパーティでビルが他の女性と楽しく話していたときに、バートはこっそりマーガレットをダンスに誘う。2人は楽しく踊っていたが、それを見たビルはブチギれる。バートを連れ出し「俺がシュートできたら彼女は俺のもの、お前がキープできたらお前のものだ」と言う。バートはゴールの前に立つが、ボールを止めることはせずに突っ立っていた。そして「彼女はモノじゃない。そんなふうにしか思えない人のものに彼女はならない」とバートはビルに怒鳴りつける。

■マーガレットの存在


▷人間性に惹かれていく
マーガレットは戦争で友人を亡くしたことでナチスに対して恨みを持っており、始めはバートに敵意むき出しだった。サッカーチーム監督の父親がバートを店で雇うと決めた時も、汚い言葉でブちぎれていた。最初こそ気嫌いしていたが、一緒に働くようになってから少しずつ彼女の考え方が変わってくる。それはどんなことを言われても、どんなことをされても、不満ひとつ言わずに、真摯に行動していたバートの人間性だからだと思う。いつも誰にでも自分からフレンドリーに話しかける姿が印象的だった。マーガレットの妹にハンドメイドの竹馬をプレゼントすることもあった。バートがマーガレットの家に滞在することになった時は家族全員から歓迎されていたし、帰国が決まった時は皆が別れを惜しんでいた。

▷妻として
一緒に働くうちにバート・トラウトマンという人間にひかれていったマーガレット。それはバートも同じ。バートは何度もアプローチを試みるが、マーガレットの父親に止められる。「戦争が終わった今でもナチス兵に偏見を持っている人もいる。その重荷を娘にも背負わせたいか」と父親から諭される。諦めかけていたバートが部屋に戻るとマーガレットが待っていて、「父の言ったことは無視して」と言う。二人の想いは、もう偏見や周りの目を恐れるほど小さなものではなくなっていた。

▷胸打たれる素敵なスピーチ
バートがプロサッカー選手としてデビューした時、観客からのブーイングが凄かった。バートにたいして散々なことを言う大人たちに対して、マーガレットは「ドイツ兵のしたことは消えない。でも許すことはできる。バート1人にドイツの責任を押し付けるのは間違ってる。みんなで寄ってたかって…。彼も戦争で苦しんで傷ついた1人なのよ」と語りかける。これは実際には無かったらしい。でも勇敢で自由に戦い続けた女性である事実を際立たせるために創造された。この映画の名シーンの一つであることは間違いない。ここで私は泣いてしまった…。

▷息子の死
バートの入院中、アイスクリームを買いに行った息子が車に轢かれて亡くなってしまう。バートにとっては、結婚して、子宝に恵まれ、選手として認められ、やっと手にした幸せの後に起こった悲劇だった。しかしそれは、戦地で助けられるはずの子供を見殺しにした自分への罰だとバートは話す。そんな彼に「そのままでは朽ち果てるだけ。前へ進まなきゃ」と言う。自分も辛いはずなのに、こんな言葉を夫にかけてあげられるマーガレットは素敵。

■パンフレットがオススメ!

画像6

今作のパンフレットは表紙のデザインが100点満点。バート・トラウトマンのことや、史実と脚色のお話など読み応えあり。映画鑑賞後、これを読みながら余韻に浸って欲しい。

塚口サンサン劇場でも、パルシネマでも見逃してしまった人、2021年7月頃DVDのレンタルが始まりますので是非!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?