『風の万里 黎明の空』を読んで

十二国記シリーズの「風の万里 黎明の空」を読んだ感想を残す。この本は昨年のこの時期に購入して、今回読むのは3度目。何度読んでも飽きないから、私はこの作品が好きだ。ここから先は話のネタばれとともに感想を記していく。

幼い頃「十二国記」をアニメで見た時と、大人になって原作本を読んだ今(アニメも再見している)とでは同じ物語を見て読んでも感じ方が違う。

A.祥瓊について

祥瓊(芳国の公主)が供王(恭国)に冷たい態度で接されているのをアニメで見た時は、祥瓊が気の毒で供王は何て性格の悪い意地悪な王だと思った。今は何故供王が祥瓊に冷たい態度を取った理由が理解できる。祥瓊が公主として知っておくべきことややるべきことを果たさずに、そしてそれすらも自覚せずに、ただただ自分の見たいものだけしか見ずに自分は気の毒だと思っていたからだ。アニメを見ていた時は供王がどのように恭国の王になったのかを知らなかったので、祥瓊に心底同情していた。ただ、珠晶(供王の名前)が王のいない国を憂いているだけではなく、自分自身が出来ることをやってみようと言って蓬山に登って登極する姿は本当にかっこいい。珠晶は、文句や不満を言うのは楽だが、やってもいないのにそれを言う資格があるのかと(ニュアンス)言うのだ。珠晶のこの姿勢を読めば、祥瓊は何もしてこなかったのに自分自身だけ憂いている独りよがりな人物に映るのだ。供王の話し方は少しきついなと今でも思うことはあるけれど、彼女の背景を理解すると、彼女の振舞いが決して傲慢でも冷徹でもないことが理解できる。

※珠晶が供王になるまでの話は「図南の翼」で読めます!

また、祥瓊がひどい扱いを里家の長老や供王から受けていた時に、適当に頭を下げていればいいと思って心から人に謝ったりお礼を言ったりすることがなかったが、楽俊と出会って楽俊の優しさや自身のふがいなさを知って、ちゃんと心から人に感謝を感じることが出来たことはすごく嬉しかった。


B.鈴について

鈴は蓬莱(日本)から十二国に蝕により流されてきた海客で、十二国のような言葉の通じない世界に一人突然投げ込まれ、朱旌と旅をしながらも辛い思いをしていた。そんな生活を送っている中で言葉の通じる飛仙・李耀(洞主様)に出会い、何でもすると言って、仙に召し上げてもらい、言葉を理解できるようになった。ただ李耀は鈴ら下仙に冷たくあたり、鈴は仙籍を剥奪されるとまた言葉の分からない状態に戻ることを恐れて、逃げ出せずにいた。機会があって逃げたしたものの、采王からはせっかく言葉が通じるようになったのだから一度町に下り世の中のことを知りなさいと言われ、李耀だけでなく采王も海客である自分のことを理解してはくれないのだと独りよがりに考えて、同じ蓬莱生まれである慶王に会いに行くと言い物語が動き始める。鈴は慶王に会いに行く道中で、一人の少年に出会い、自分自身が恵まれていることに気付き、自分自身で行動していくことで、成長していく。鈴は途中まで「私はもう故郷に戻れない、不幸なのよ」と言っていたので、アニメを見ていた時は苦手なキャラクターだなくらいにしか思わなかったが、祥瓊や陽子と「自分を不幸だと思うことは自分が一番幸せだと思うことと同義だと思う」(ニュアンス、祥瓊の台詞)だと認識するようになるほど、独りよがりではなくなっていた。鈴の成長も見られる物語だ。鈴が最後に采王にちゃんとお礼を言いに行きたいと言っていたことから、最終的に采王が伝えたかったことをきっと理解できたのではと思うと胸が熱くなる。

C.陽子について

この物語でしびれるシーンは何と言っても最後の陽子の初勅について語る場面だ。陽子が「人には礼を以て接することは当たり前のことだが、それをするかどうかはその人のひととなりであり、強要するものではない、そして、真実人に対して感謝を感じれば自然と頭を垂れるものだ」(ニュアンス)と言う。自分自身がちゃんと自分自身として毅然とあれるように、人に対して礼儀を以って接しつつ、お互いを尊重し合える社会を作っていく、そんな気概を感じる。このシーンは祥瓊の境遇や鈴の境遇、そして、慶国の内乱状況から陽子が感じた正直な考えで構成されたものである。

この物語は、現実を生きていく中で、悩んだり辛かったりすることがあっても、その悩みや辛さに対してどう行動していけるのか、どのように捉えていけるのかを登場人物を通して訴えているように感じる。ただ辛い悲しいと言うのは簡単だけれど、その現状を本当に突破したいと思っているのか、それともただその「かわいそうな自分」に浸りたいだけなのか。私は今の現状を突破したいと思っている。だから、少しずつでも出来ることを毎日一つずつやっていくことから始めようと思う。

十二国記はただのファンタジーではない。今をどう生きて行くのかのヒントが随所随所にあるのだ。この物語は今の私には結構大事なことを教えてくれているように思う。

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