覇権帝王学の基礎知識:分割統治
「親が二人の小学校の子供にケーキをおやつに与えようとしています。子供達がけんかしないようにケーキを分けるためのルールを考えてください。」
ヒントは、求められているのは「ルールを考える」ことです。いかに正確に半分に切るかではありませんので、ご注意下さい。(もちろん、人間関係の強弱で決めるでもありません)
正解は、一人の子供にケーキを切る権利を、もう一人の子供に最初にケーキを選ぶ権利を与える、です。こうすると、子供がケーキを6:4で切ってしまっても、誰が6を取るかを予め定めていますから、恨みっこなしですね。
ポイントは、「ケーキを切る」行為と「ケーキを最初に選ぶ」行為とに分解することなのですが、この知恵の素晴らしいところは、
1.当事者間で完結する(ルールを決めた人は何もてを下さない)
2.よって、当事者間で恨みは生じてもルールを決めた人に来ない(ルールを決めた人の威厳は当事者内で維持される)
点です。
というわけで、今回のテーマは「分ける」です。孫子は「漁夫の利」、三国志の諸葛亮孔明は「三国鼎立の計」といいましたが、欧米のテイストでは「Divide and Rule(分割統治)」となります。直訳すればその通りなのですが、意味合いとしては「敵を分けて漁夫の利を得る状況を作る」ということになります。(以下分割統治で統一します)
分割統治の概念はケーキの分け方以外にも様々な分野で見受けられます。
国内でいえば、民主主義制度や奨学金制度も該当します。民主主義とは王様の権利を内容で3分割し、任期という時間軸で制約することにより、一個人や一家族に権力が集中しないようにする手法です。また、奨学金も貧しい優秀な青少年に与え、彼らの周辺の貧しい人々から隔離することにより、彼らが貧しい人々のリーダーとなり集団強訴や暴力を用いて既存社会へ混乱を招くことを防ぐ手法とも見ることができます。(例えば、オバマ元大統領のような優秀なアフリカ系アメリカ人をスラム街に放置していたら、第二のマーチン・ルター・キング牧師になって第二の公民権運動が生まれていたかもしれません。)
国際政治はさらに露骨です。1885年ベルリン会議で列強諸国がアフリカでの植民地の縄張りを決めました。その上で各国が民族や宗教等が違う人たちを少しだけ入れるように工夫して線を引きます。しかも、その反対側(隣の国)はその比率が逆になるように。
例えば、1994年大虐殺が問題になった、旧ベルギー植民地ルワンダ。ここでは、8割強がフツ族、残りがツチ族である一方、同じくベルギー植民地だった隣国ウガンダでは、ツチ族とフツ族の比率が逆転します。こういう比率(少数派が2割いれば無視できない大きさの集団となります)になるように線引きをした上で、少数派のツチ族は鼻が高くてヨーロッパに近いが、フツ族は鼻が低いから劣っている、という意味不明の理由によりベルギー人が差別しました。これが、ルワンダ大虐殺の遠因となってしまいました。
被害者のツチ族は同胞がいる周辺のウガンダ等に逃げ、現地のツチ族と共に武器を調達し、ルワンダへ取って返し、フランスや周辺のコンゴ(ツチ・フツ族比率がルワンダと同程度)等を味方につけていたフツ族と戦い(ルワンダ内戦)、さらにコンゴ等周辺諸国でもツチ・フツ内戦が発生しました。
このように、アフリカ人が仲間割れしている間旧宗主国は安泰です。搾取したのは、ヨーロッパ人なのに、フツ族の怒りはベルギー人に行きませんでした。漁夫の利は誰が漁夫か当事者も分かる話ですが、分割統治では当事者が漁夫を認識できないという点で一段恐しいです。
植民地からの独立時にも宗主国は分割統治の知恵を働かせました。英領インドが独立した際、強大なインドが反英感情で固まってはたまらないイギリスは、各地方の宗教に合わせて独立国とするというルールを持ち出しました。もちろん、英領インドではヒンズー教及びイスラム教があることを考慮の上です。結果、英領インドは、インド、東西パキスタン(東パキスタンは後にバングラデシュとして独立)に分割されました。
このルールに基づき各地方のマハラジャ(藩主)がインド、東西パキスタンのいずれかに帰属するかを決めていきましたが、問題はカシミール地方です。マハラジャがヒンズー教徒、住民の8割程度がイスラム教徒でした。当然マハラジャはインド帰属といいますが、多数派の住民やパキスタンはパキスタン帰属だろうといいます。結果、印パ戦争が散発的に1970年代まで続き、今日でもインドとパキスタンは不仲です。当然イギリスは高みの見物ですね。
この分割統治は植民地と共に消滅したわけではありません。その変形が東チモールや南スーダンと言えるでしょう。独立した元の国家政府による現地人の虐待に対抗し独立と報じられ、民族自決といった美辞麗句が添えられがちですが、問題の本質はその地下にある天然資源です。その石油や天然ガスを大手欧米エネルギー企業ができるだけ安く入手するためには、相手の交渉力が弱いほど有利となります。
例えば国際エネルギー価格を熟知し、幾度も石油メジャーと交渉経験を持つインドネシア政府よりも、誕生したばかりで政府の形も整っておらず、資金が即刻欲しい東チモール政府と交渉した方がはるかに安い値段で交渉成立できる可能性が高くなります。(尤もそれ以前に支援した武器代でかなり消えてしまうのかもしれませんが)また、スーダン内の戦国大名たちも石油を財源に武器を購入し、対抗するスーダン政府も同様にならざるを得ず、スーダ
ン側の国際交渉力は低くならざるを得ないでしょう。
国際エネルギー企業は安く原料を入手し大笑いする一方、インドネシアやスーダンでは命のやりとりがなされている、という現地の人々には不幸な状況が生まれます。
しかし、世界中の人々は過去、現在こうした分割統治に勝てないのかといえば、国民の結束を強くすることで外圧による国内分裂を起こさず悲劇を回避できた国々もあります。
例えば、幕末の日本もその一つです。薩長側にはイギリス、幕府側にはフランスがついていましたが、勝海舟は薩長と戦っても勝つ可能性をあえて無視し、フランスとの国交を断絶し、イギリスと手を結び、薩長の資金・武器供給源のイギリスから薩長へ平和裏の政権移行を説得させ、江戸城無血開城を実現しました。(この間、勝海舟は薩摩や長州から伸びきった兵站線を途中で絶つべく神戸湾に幕府海軍を配置し、江戸で戦う際には江戸庶民を避難の上江戸を燃やして薩長軍と戦う準備をしていました。さらにいえば坂本龍馬を使い仲の悪かった薩長を結びつけ、幕府の対抗勢力に育て上げていたわけですから、日本の1/4(天領)しか統治していない徳川家による幕府自壊から新政府の樹立まで、勝海舟の頭の中で筋書きが書かれていました。よって、勝海舟が分割統治から日本を救ったといえるでしょう。)
他にも、以下が挙げられます。
ü 何かと対立しがちな4地方をまとめ続けたチトー大統領下のチェコスロバキア
ü 非産油地域の部族にも資金援助することで団結を維持しているアブダビ中心のアラブ首長国連邦(UAE)
ü ザ・植民地主義者、セシル・ローズの魔の手が伸びる前にイギリス本国政府にリーダーを送り本国政府の保護下に入り、独立後も団結を維持できたボツワナ
ü 少数の巨大プランテーションオーナーと貧しい小作民群という構図(これなら簡単に分割されやすい)ではなく、中小農家が多く協同組合を多く結成することにより団結した社会を作り上げ、1948年に「兵士よりも多くの教師を」というスローガンの下に軍を解体し、以後非武装中立政策を貫いているコスタリカ
分割統治を知っているのと知らないとでは大違いです。ですが、明治以降の日本は大丈夫でしょうか。昭和初期当時中国への搾取が最も大きかったイギリスが自らの行為を棚に上げ、日本の中国での悪行を殊更に中国で宣伝しました。これを、近代中国建国の父、孫文は日中を仲違いさせる分割統治と非難しました。
太平洋戦争開始時、日本は敵を分割するどころかまとめあげてしまった、大きな過ち2つを犯しました。一つ目は石油を求めるならインドネシアを持つオランダにのみ宣戦布告すればよいものをアメリカ、イギリスにも広げてしまい、アメリカ参戦の口実を作ってしまいました。これでは相手を分割するどころかまとめてしまいました。
二つ目は対米宣戦布告が真珠湾攻撃より数時間遅れたという致命傷によりアメリカ国内を一致団結させてしまったことです。アメリカはフェア(公平)であることに大きな価値観を持っていますので、不意打ちはフェアではないと捉えられてしまいました。さらに、攻撃先がハワイ州であったことから前代未聞の国土襲撃と認識され、アメリカ国民内の団結を促してしまいました。(ハワイが太平洋領域最大の兵站基地であったため日本は攻撃したとい
いますが、攻撃日が現地時間日曜日で兵士も全員詰めているわけでもなく(日本は月曜日でしたが、時差を考慮しなかった点で致命傷です)、攻撃したのは戦艦等であり、兵站基地機能を完全に破壊しませんでしたので、最初の攻撃目標がハワイで良かったのか、議論の余地があります)
アメリカ人の教授が言っていましたが、これがフィリピン(当時アメリカ領)であったなら、植民地主義に対して抵抗感のあるアメリカ国内は日本憎しで一致団結できなかったはず、とのことでした。逆に、ベトナム戦争時アメリカは植民地主義の尻拭い的にフランスの代わりにずるずると泥沼にはまり、戦争の意義を国民に納得させられず、アメリカ政府はベトナムとアメリカ与論の双方と二方面戦争を余儀なくされ、敗北しました。ある意味アメリカは「分割」されました。
日本が積極的に分割統治を駆使すべきとは言いませんが、その罠にはまらないこと、敵をまめてしまうことの恐ろしさ、日本人はこれらをよくよく知っておくべきでしょう。
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