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1. スケートボードに関わるきっかけ

私はスケートボードをやったことはないし、身近にスケーターはいなかった。そんな私が各地のスケートボードパークを見に行ったり、スケートボードに関わる情報を熱心に調べたり、考えたりするようになったのは、勤務している秋田市文化創造館がきっかけとなっている。

秋田市文化創造館とスケートボード

秋田市文化創造館は2021年3月の開館直後から、夜間に敷地内を滑走するスケーターの姿を見ることがあり、そういう使い方をしてくれる人が現れるのは嬉しいね、とスタッフと言葉を交わしていた。また、当時開催中の展覧会「200年をたがやす」に参加いただいていた建築家の海法圭さんの提案により、館内外のさまざまな場所に名称をつけてサインを掲示するプロジェクトの一環として、屋外の一箇所に《キックスケーターの小道》というサインをしばらく出しており、それを見たスケーターから「やってもいいんですか」と声を掛けられることもあった。

2021年の11月頃までは夜間に滑る人が多く、徐々に屋外のデッキ部分に滑走した痕跡が見られるようにもなり、それを見たスケボー経験者からは「ルール整備をした方が良い」というような助言をいただくようになった。どうしようかと思案していたところ、雪が積もり始め、スケーターの姿は見なくなった。

スケボー禁止のサイン

雪が解け始めた3月末頃から、再びスケーターの姿が見られるようになった。昨年末と大きく変わったのは、滑りにくるスケーターの年齢層が高校生や大学生くらいと若いということと、日中にも滑るスケーターがいることだった。

朝7:45に出勤したら、既に滑っていたスケーターたち

日を重ねるうちに、施設の外構部にも傷が目立つようにもなっていき、ついには利用者や地域の方から「スケートボードをやらせていいのか」といったご意見をいただくようになった。時にはゴミやタバコの吸い殻の放置も見られたことから、スタッフの一部から禁止にした方が良いのではという声があがり、スケボー禁止を伝えるサインの準備が進められた。

施設の端々にみえる走行痕
放置されたタバコの吸い殻やゴミ

私は文化創造館に出勤するのは概ね週のうちの2日間程度。禁止のサインを出すか否かという議論がスタッフの間で何日も重ねられていたことを知らず、数日ぶりに出勤した館の事務室で《スケートボード禁止》というサイン的なものを見つけ、準備をしていたスタッフに対し、思わず「え、これ貼るの?」と嫌悪感たっぷりの声を発してしまった。

文化創造館は、多様な表現や活動(やそのタネ)を応援し、その中から新しい表現や活動、さらには新しい価値を生みだしていくことを目指す施設である。それゆえに、公共施設にありがちな「○○禁止」等というサインを安易に掲示することで、何かを排除したり、利用者や来館者の思考停止を誘発したりする振舞いは避けたいというのが、立上げから関わってきた市役所担当者や私(たち)の共通する想いである。それを職場内できちんと共有できていなかったという反省はあるものの、サインを掲示する前にできることがあるのではと、何人かのスタッフと言葉を交わした。

その後サインの準備に携わっていたスタッフともう1人が、敷地内で滑っていたスケーター何人かと話し合う時間を設け、結果「サイン掲示は取りやめる」ということで決着した。
なんでも、雪解けと同時に熱心に通っていた高校生スケーターは、禁止にしようと考えていることを伝えたところ、その場に崩れ落ちてしまったとのこと。いろんなところで排除された経験を重ね、ようやく見つけた自分たちの居場所が文化創造館だったそうだ。
一緒に滑っていた年長者のスケーターと、今後どうしていったらいいかを話し合おうと連絡先を交換し、その日は終わった。

用意されていたスケートボード禁止のサイン

SNSの反響と町内会長からの激励

文化創造館の立上げ前から紡いできた想いをつなぐことができたことが嬉しくて、Facebookに一連の出来事について投稿したところ、沢山の好意的なリアクションをいただいた。
それまで、文化創造館の姿勢について迷いや自信のなさがあっただけに、たとえ自分の知り合いばかりがつながっているSNS上とはいえ、好意的なリアクションをもらえたことは大きな励みと自信につながった。

その後、別のスタッフが地元で小さなスケートパークを運営する方から安全管理の方法についてヒアリングをしたり、今後の対応について内部で協議を重ねながら5月の連休を迎えた。

連休中、早めに仕事を切り上げて、館で開催していた”ゆるやかに語り合うだけの場”「カタルバー」をちょっと覗いて帰ろうと立ち寄ったところ、先日のサイン掲示問題からスタッフが連絡をとっている年長者のスケーターを紹介され、スポーツとしてのスケートボードやスケーターの想いについて、みっちりとお話を伺うことになった。早目に帰ろうと思っていたのに、結局カタルバーが終わるまで話し込んでしまった。

その時にスケーターの方からは、「近所からクレームが来ているのであれば、自分も直接話しに行きたい」との要望があったため、後日近隣の町内会長を紹介することになった。

町内会長とは、文化創造館の立ち上げに関わり始めた時からのご縁で、私たちの考え方や進め方には常に批判的なご意見をいただいていた。開館してからも時々館の様子を覗きにきてくださったり、周辺地域を案内いただたりと、何かと私たちのことを気にかけてくださり、「もっとこうした方がよい」と助言をいただくことも多かった。
それもあって、スケーターの方と一緒にお宅を訪問して「スケートボードの件で」と切り出した際には、またご批判をいただくかなと内心ドキドキしていたのだが、心配は全くの杞憂に終わり、「夜間には気にならないこともないが、閉め出すものでもない。ちゃんとした活動場所を用意すればいいのではないか」と逆に激励をいただいたのだった。

秋田市文化創造館で働く私たちとスケーター、町内会長とSNSでつながる人たち。この要素が揃ったからには何か動かせるんじゃないか。そんな安易な直観から、私はスケートボードへの関わりを深めることになっていく。

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