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おやっさんフォーエバー

 よくわからないけど、また会うのでしょう。

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 急きょ来週に日本に帰ることになったおやっさんと昼めしを食べた。場所はちょっとおしゃれなピザ屋なのだが、おやっさんのさえない雰囲気を加味すると「めし」と無骨に表現したくなる。
 そう、このおやっさんはなかなかにさえない。具体的な表現はしないが、「50歳のさえないおやっさん」と聞いて想像した容貌で相違はほとんどないと思う。
 ピザを食べながら、おやさっさんのこれまでの話やこれからの話を聞く。話すことが好きなのだろう、長い。ただ、経験値は豊富だから聞いていても楽しい。最初の1時間ぐらいは。
 そこからはゆっくりと意識が遠のいていく。なぜなら、話の中身がずっとおやっさんのことだから。おいしいピザの味もぼやけてくる。

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 流れで2軒目に来てしまった。西洋人のパックパッカーがつどうというパブだった。まだ時刻は昼すぎということで客足はまばらだったが、夜になるとにぎわうらしい。
 おやっさんがマカオのカジノに行ったときの話をしていると、お客さんでいたダンディーな初老の西洋人が突如店内にすえつけられていたベルを鳴らした。大きな声で聞き取れない英語もつづけて言うものだから、急に怒り出したのかと思ったら、「今日が50歳の誕生日だからみなに酒をおごってやる」とのことだった。品のいい奥様がいっしょにいた。
 あっちの50歳と僕の目の前にいる50歳はまったくちがうなあと考えてしまう。
 結局、そのダンディーな初老はふたたびベルを鳴らして計2回も居合わせた客と店員に酒をふるまった。

◆ ◆ ◆
 おやっさんが「オホーツク海で、漁船に乗って鮭をとっていたときに海に落ちた」話をしていると日本人大学生の旅行者が同じ席に座った。大学4年生の男の子。そのあと、友達だという同級生の女の子も来た。
 おやっさんは嬉々として、ここハノイの観光地、ひいてはベトナム内の観光地を語り始めて女の子がその圧に引いていた。しかし、おやっさんは気がつかない。
 大学生ふたりは去っていき、僕もころあいを見計らって帰りの車を呼ぶ。
 じゃあ、次に会うときは日本ですかねと話し、別れた。僕は考える。なんやかんやで、このおやっさんとは日本でも会うのだろうなと。
 会う頻度は低くていいけれど。

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 これが昨日の話。今日、おやっさんから「今夜ハノイのカジノに行こう」と誘われた。
 このおやっさんは、きっとカジノでプレイ中も話し続けるのだろうとうんざりしながら、「わかりました」と返信をする。
 会う頻度は低くていいんだけどなあ。

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