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ヘッドショットが届かない

 テレビゲームでは、感情的にならないことが肝要だ。

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 子どものころ、テレビゲームが大好きだった。メガネをかけるほどに視力をさげた原因は、まちがないく、ゲームのやりすぎだった。
 おとうさんも若いころから好きだったらしい。その影響で、僕が幼稚園生のときにはプレステが、小学生のころにはプレステ2とゲームキューブが、中学生にあがるとプレステ3とWiiがわが家にはあった。自分のこづかいでは、DSとPSPを買った。いろんなソフトを自分で買ったり、親に買ってもらったりして、ひとりで、ときには友達と、あるいは兄たちとずっとゲームをしていた。
 高校生になると、興味がだんだんと小説に向いていき、テレビゲームをやる機会は減っていった。大学生から今現在にいたるまで、ゲーム機を起動することはなくなった。

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 つい先週、大学の先輩から、中古のプレステ4を買った。「The Last of Us」というソフトがおすすめということでさっそく購入した。今は、オンラインでソフトを買えるのかと驚いてしまう。
 コントローラーをにぎる。スティックを動かすと、主人公の中年男性が動く。そうか、ゲームとは、僕が画面のなかのキャラクターを動かすことだったなと当然のことを思い出す。
 スティックの方向に連動して、主人公が動く。それだけで感動してしまう。

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 中学3年生のころ、バイオハザード5が発売された。今までのバイオハザードのシステムにはなかった、2Pの協力プレイが可能となったソフトだ。
 学校から帰ってくると、おとうさんがうれしそうな顔でバイオハザード5を起動していたことがあった。どうやら僕といっしょにゲームをしたくて待っていたらしい。おとうさんは、バイオハザード4をのぞくすべての作品をプレイしていた。
 いざ協力プレイを始める。ただ、おとうさんが操作するキャラクターの動きはにぶかった。ゲームをするのはおそらく数年ぶりであった。目的地の方向がわからず右往左往する。敵があらわれても銃の弾を当てられない。気がついたら瀕死になっている。落ちているアイテムも拾わない。
 僕はするどいことばでおとうさんをののしり続けていた。しばらく進めて、その日はセーブをして終わらせた。
 後日、またやろうよと誘うとおとうさんはさびしそうな顔で「怒られるからやらない」と言った。
 ふたりのデータは、その後プレイ時間が変わることはなかった。

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「The Last of Us」では、操作が慣れず、敵の動きも把握できないまま、何度もゲームオーバーになる。昔はアクションゲームなら、少しプレイしただけでコツをつかんでいたような気がするのに。
 バイオハザード5をプレイしていたときのおとうさんをよく思い出すようになった。あのときのおとうさんは40代後半で、僕は今年で30歳だ。年齢はちがうけれど、状況は同じだ。
 コントローラーを強くにぎりしめる。この銃弾が敵の頭に当たったならば、「ごめんなさい」が過去に届かないだろうかと荒唐無稽な願いが胸をよぎる。

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