Diet or Alive (Part.7)

「ついに・・・気が付いてしまったのねえ。」
それまでの佳枝のフランクな態度がぬぐい去ったように消えた。
「知らなければ普通の人生を送れたのに・・・。」
佳枝の目が青白く光ったかと思うと、大気に磁場のようなエネルギーが満ちてきた。
「な・・・なんなの?!」
驚く雪乃の目の前で、見る見るうちに佳枝の外観が変貌していく。
ぽってりした身体が盛り上がり、髪が逆立ち、柔和な顔が邪悪なものに変わってゆく。まるでハリウッド映画のCGのようだ。
「これで貴様を殺さなきゃならなくなったな。」
そう凄む声は雷鳴のような迫力で雪乃を圧倒する。
「高根さん! どうしたんですかあっ!」
「もはやこの女の意識は消えた。何も覚えていないだろうな。」
「何? なんなのこれ!?」
もはや目の前にいるのは中年の女性ではない。
禍々しい姿をした怪物だった。
「我々の秘密をどこで嗅ぎつけたか知らんが、これで終わりだ。」
怪物はそう吼えると、いきなり丸太のような腕を振るって雪乃に殴りかかった。まともに受けたら首が吹っ飛ぶか、全身の骨がぐしゃぐしゃになって即死だ。
「きゃああああ!!」
雪乃は死を覚悟した。
突然なにもかもがスローモーションになって、時間の流れが緩慢になる。
(雪乃・・・聞いていますか?)
「お、お姉さまっ?!」
その場に存在しないはずのお姉さまの声が明瞭に頭に響いてくる。
(雪乃、今すぐ「おからこんにゃくダイエッター」と叫びなさい!)
「はあっ?!」
(死にたくなければ叫ぶのっ!!)
「お、おからこんにゃくだいえったぁぁあああ!!」

その瞬間体内から何か急激に溢れだしてくるのが感じられた。
「げぶっ!!」
その瞬間、怪物の上腕がヒットし雪乃は部屋の壁に叩きつけられた。コンパネの砕ける音が響き渡り、雪乃は死を覚悟する。
「あ・・・なんなの?」
壁に激突したはずの雪乃の身体だったが、当然予測された痛みは感じられなかった。それどころか自分の身体が何かで覆われていることに雪乃は気付いた。
「これは・・・?!」

驚いたのは佳枝だった怪物も同じだった。
殴りつけた物体がぐんにゃりした死体にも肉塊にもならず、打撃に耐えたばかりか起きあがってくるではないか。
「なんだ貴様は・・・。」
よろよろと立ち上がる雪乃を見て、怪物は驚愕した。
いつのまにか雪乃の身体は何かの物質でプロテクトされていた。
いつの間に?!
その物質が何か判って、怪物は生まれて初めて恐怖を感じた。
そのプロテクターははおからとこんにゃくで出来ていた。

(大丈夫? 雪乃)
「お姉さま、わたしどうして?!」
(戦うのです。雪乃。)
「戦う?! どうやって?! ワタシただの高校生ですっ!」
(相手を倒さなければ、あなたは死ぬのよ!)
「死ぬ?! アタシが?!」
雪乃の生存を認めた怪物は次の攻撃態勢に入っていた。
巨大なダイニングテーブルを軽々と持ち上げると
雪乃めがけて投げつけてきた。

「きゃああっ!! お姉さま助けてえっ!!」


(つづく)

2006年06月09日

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