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勝てる選曲のすゝめ 〜選曲から見るショパンコンクール2021分析

2021年のショパンコンクールは異様な盛り上がりを見せ、熱狂の中で幕を閉じた。確かに既にファンを獲得している日本人若手演奏家がこぞって出場、さらに快挙の入賞も果たしたということもあり、さもありなんである。

そんなショパコンを見ていて、みんな思ったことがあるのではないだろうか。

「次は出てみようかなぁ。でもどの曲から練習しよう?」

ショパンコンクールとは

ワルシャワで開催されるショパンコンクールは数ある国際的ピアノコンクールの中でも課題曲が完全にショパンに閉じている、ユニークなコンクールだ。一次予選から本選まで4回にわたる激闘が繰り広げられるわけだが、どのラウンドでも弾いて良いのはショパンの曲のみ。さらに各予選の中で課題曲として特定の楽曲群から選ばなければならないので他の演奏者と同じ曲を弾く確率も格段に高い。

・・・もしかしてある程度選ぶ楽曲によって次の予選にコマを進めやすい課題曲なんかもあるのではないだろうか?

そんな仮説が頭をよぎったので、今回各予選ごとに参加者の誰がどの曲を弾き次の予選にコマを進めたかのデータを使って、「どの課題曲を選べば通過しやすいか」をシンプルにロジスティック回帰を使って分析してみようと思い至る。

※ぶらあぼさんは結構データがまとまっていて非常に取得がしやすかったので参考にどうぞ。

※なおロジスティック回帰分析を細かく説明するにはあまりに余白が狭すぎるのでここでは割愛する。(死亡フラグ)

一次予選

このステージでは4つの楽曲群から一曲ずつ選び弾かなければならない。簡単に言えばショパンのエチュード(練習曲)から2曲、ノクターンから1曲、バラード/スケルツォといった中規模楽曲から1曲といった構成である。



そしてその振り分けが下表である。

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例えばA群のエチュードハ短調op.10-12、いわゆる「革命」であるがこれを選択した参加者は87人中13人、そのうち5人が二次予選にコマを進めたということになる。ざっと見る限り確かに楽曲によって通過率にばらつきがあり、本当に有利不利があるのでは?と思いたくもなる。

それでは早速ロジスティック回帰分析を行う。

素データはこんな感じ。

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データ構造はピアニスト名、予選通過フラグ、どの課題曲を選択したか。
「どの課題曲を選択したか」は各課題曲ブロックごとにダミー変数化し、このデータで
目的変数:Pass(予選通過フラグ)
説明変数:選択課題曲
で分析をかけてみる。
変数選択は楽をするためステップワイズ法を採用。

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B群のop.25-4はオッズ比(OR)3.88と群を抜いて高くこの曲を選択すると通過しやすいと言いたいところだが、P値(Pr(>|z|))が0.18なため5%有意水準で考えると影響具合は甚だ疑問。
有意水準から考えるなら「op.10-12(革命)」「op.10-8」「op.10-3(別れ)」「ノクターンop.62-1」「ノクターンop.27-1」の5曲は選ばない方が通過しやすい、といったところだろうか。

素の通過率を見ると数値的にバラバラでも統計的な有意差が出るのは案外少ないものである。


二次予選

このステージでは3群の中から一曲と、規定時間を満たすためのショパン作曲の中から任意の一曲を自由曲として構成を組む。

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A群はほぼ一次予選のD群と同じ中規模楽曲群で、これに加えワルツ一曲とポロネーズ一曲を選ぶ、といった具合である。

一次予選と同様にステップワイズ法で変数選択をしロジスティック回帰にかけてみる。なお本ブロックから自由曲が含まれるのだが、あまりかぶりがなくこれらを説明変数に入れた場合、良い結果が出なかったので課題曲だけで分析する。
自由曲はこういうのに頼らず自分で選ぼう。

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さて課題曲だがステップワイズによってB群の項目は変数から全部外れたのでワルツはどれでも良いだろう。
A群ではバラード第2番を弾けば通過やすく、C郡のポロネーズでは「アンダンテ・スピアナート〜」は弾かない方が良いという結果だと思われる。

三次予選

ここでは「第2番ソナタ」「第3番ソナタ」「24の前奏曲」の大曲群の中から一曲と、マズルカ集を選択する。

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課題曲の候補数も少なくなってきたのでそろそろ交互作用も見てみたくなったのだが、流石にサンプル数が少ないのか残念ながら有意な項目は見当たらなかった。

ちなみにショパンの第1番ソナタ推しの僕としてはこの課題曲は解せぬ。

本選

本選ではショパンの二つの協奏曲のいずれかを選択し、その一曲で勝負する。今回は1〜6位の入賞をPassと定義し分析してみる。

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やはりどちらの協奏曲を選んでも有意な差は出ない。サンプル数が少ないのでしょうがないと言えばしょうがない。

余談だが過去のショパコンで第2番協奏曲を選んで1位になったのは1980年のダン・タイ・ソンだけらしくこれは流石に偏りがあるのではないだろうか・・・。

結論

「どの曲でもいいからちゃんと練習していこう」

シンプルなロジスティック回帰では、サンプル数がある程度多い一次、二次予選で何曲か有意な傾向は見えたが黄金ルールが見えるほどではなかった。当然と言えば当然、選曲で有利不利などあってはならないのである。(今更)

しかもこれはあくまでも2021年度の傾向でしかないし、過去大会のデータも潤沢に含めなければあまり次の大会に行かせるデータにはならないだろう。公表されているのだからスコア表も含めて分析するのも面白いかもしれない。
※案外審査員というのも大きな予選通過の説明変数になるかも・・・?

結びに、雑記(というか言い訳)

とは言え黄金ルールなんてなかったという結論に至るなら至るで分析の甲斐はある。今やスポーツも細かにデータ分析や科学的根拠で選手の力をつけていく時代。コンクール対策は本質でないにしろやれるに越したことはない。今回はお遊び程度の分析だが、選曲というところから勝負は始まるのでその根拠を過去のデータからしっかり研究してみるのは意味のないことではないと思う。

もしそこで意外な結果が見えたり、面白い仮説が生まれたら生まれたで統計的結果と割り切って解釈すれば良いだろう。結局人間の技を人間が審査するのだからもしかしたら傾向みたいなのはある”かも”しれない。「この曲はしっかり引き込むわりには実力をアピールしづらい」とか「審査員の受けが悪い曲がある」とか全くありえないと断じきれるだろうか。もしそんなことがちょっとしたデータ分析で見えたのならば戦略に活かさない理由はない。

ロジスティック回帰自体も奥が深く、変数選択をもっと突っ込んでみたり標準化してみたり本当ならいろいろ工夫しなければならないし、なんならロジスティック回帰にこだわる必要もない。大事なのは目的は何か、それに適したやり方を模索することである。

分析とは確度をあげること。
次の2025年大会で僕が一位なるため、より良い分析手法・分析結果があったら教えてね。




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