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残り物には福があるんだよ

退勤後最近彼がハマっていると言っていた曲を流し、少し覚えてきたその曲の鼻歌を歌いながら車を走らせる。
(…今日はカレーパンかベーコンチーズのやつあるかな)

休日前夜にパン屋さんに行き、次の日の朝パン屋さんで買ったパンを食べるのが私の休日の楽しみになっている。
休日前夜に寄るパン屋さんは地元のスーパーの中に入っている小さなパン屋さんで、パン屋のおじちゃんはかわいいお腹が少し丸っと出ていて身体の重心が後ろにあるかのようにテクテクと歩く可愛いおじちゃんだ。私が幼少期の頃、母と一緒によくこのスーパーに行っていた為おじちゃんとは昔からの知り合い。

GW前夜、私の定番となっているカレーパンを買いに行った。おじちゃんに手を振って”こんばんは”といつも通り挨拶をし、カレーパンの定位置に向かった。
「...あれ、今日はカレーパン無いの?」
いつもは4〜5個くらい残っているはずのカレーパンが無かった。
「そうなんだよ、なんか売り切れちゃったんだよ。」
ん〜カレーパンが無いとなれば第二候補のベーコンチーズのやつだ。
ベーコンチーズの方に目を向けると
「へ?!ベーコンチーズも売り切れてる!?」
「そうなんだよ、今日は売り切れたんだよ〜。」
おじちゃんは自分でも不思議がっているかのようにそう言った。
良くも悪くもこのパン屋さんは”普通”なのだ。
いつものが無いのなら、食べたことのないパンを買って帰ろうかと思ったがどうも気が乗らず、ん〜と悩んでいたところ、おじちゃんは他の買っていきなよという押し売りをすることもなく「またカレーパンある時においで、食べたいもの買うのが一番だから。」と言ってくれた。
その言葉に甘えて、また来るねと言ってその日は後にした。
おじちゃんのそういうところが私は好きだ。

そして今日、カレーパンかベーコンチーズがあることを願いながらパン屋さんに着いた。いつものようにおじちゃんに手を振って挨拶をする。
お店に着いた瞬間からとらえていた
「今日はカレーパンもベーコンチーズもある!」
私が喜びをおじちゃんに伝えると
「いつ来るかいつ来るかってずっと待ってたよ」
まるで私の為に用意してくれていたかのような言葉に心がぽわっと温かくなったのと同時に、もっと早く来ればよかったと少し後悔した。
最近はカレーパンブームが続いていた為、久しぶりにベーコンチーズに決めた。
お会計に向かおうとした時、いつもは目につかないミニクロワッサンに目がいった。大きなプレートにポツンと一つだけ取り残されたミニクロワッサンがなぜか寂しそうに見えたからだ。
...今日は特別だよ?とクロワッサンに目で語りかけて自分の持っているプレートに置きお会計に向かった。

おじちゃんが「いつもありがとうね」と言いながら袋に詰めているのを待っていると、おじちゃんが不意に手を止めレジの後ろの方に向かった。
棚の上に置いてあった籠からカレーパンを持ってきてレジに戻り先ほどまで詰めていた袋に入れ「残り物には福があるからね!」と渡してくれた。
私が驚きながら本当にいいのかと尋ねると
「クロワッサン買ってくれたからね、残り物には福があるんだよ。」と笑顔でそう話した。

”残り物には福があるんだよ” か、宇宙兄弟のヤン爺の言葉を借りよう。
このとてつもなく素敵な出来事と一緒に心のノートにメモをした。

2024.05.09の出来事




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