企業説明会かと思ったら激ヤバ自己啓発セミナー?だった件

転職活動をしている。

どうして現職から1年も経たずに転職することになったのか、
話せば長くなるのでここには書かない。ともかく、期限までに転職先を探さなければならないというひっ迫した状況になってしまったため、やむを得ずやっているといった感じだ。

コロナ禍で転職活動がしづらいことや、東京で一人暮らしを始めたばかりで貯金があまりないことに加え、1年も在籍せずに転職なので厳しい戦いになるだろうということは想像に難くなかった。そのため、編集・ライターなどで仕事内容などはあまり精査せず闇雲に応募していたら30社も面接を受けることになってしまった。

その中で1社、異彩を放つ会社があった。

たいていの企業は会社営業日の平日に面接を受けに行くというのが普通なのだが、今回紹介したい会社(仮にA社としておく)は、土日が選考日だった。平日も仕事がなくほとんど休みと変わらない私にとってはあまりメリットはなかったが、転職サイト上で「ぜひ、一度説明会に来てほしい」というメッセージをもらった私は、1月のある土曜、東京駅にほど近い会場に向かった。

私は約束の時間ぎりぎりまで家から出られないという病気にかかっているので、その日も遅刻寸前だった。しかも、グーグルマップで調べた会場が名称は同じだが、住所が間違っており、正しい会場に到着したときには約束の1時を3分ほど過ぎていた。

息を切らしながら、メールで指定されていた会議室の扉を開ける。確かにそこは企業セミナーをやっている様子だった。しかしすぐ、ここじゃないと思った。なぜなら私が応募したのはデザイン事務所のライター職であり、会議室のホワイトボードのラベルに貼られていた、弁護士事務所の説明会ではなかったからだ。なにかがおかしい。

「すみません、まちがえたかもしれません」

そういって扉を閉めようとすると、40代くらいで長髪眼鏡の、かなり胡散臭い風貌のおじさんが名前を聞いてきた。答えると、会場に間違いないといわれ前の席に座るよう勧められた。

訳も分からず着席する。自分はバリバリの私服でピンクと茶色の髪の毛で来てしまったが、周りは全員リクルートスーツ&黒髪の就活生風で血の気が引いた。しかもなぜか全員女性だった。帰りたい気持ちしかなかった。

私の着席を待って、中断されていた講義が再開する。スピーカーは先ほどのロンゲ眼鏡だ。ロンゲ眼鏡の講演の中で、この人が弁護士事務所の社長であることはわかった。しかし、30分経っても1時間たっても企業説明が始まることはなかった。

ロンゲは、自分の父親も祖父も経営者の家系にあり、中卒で勉強はできなかったが、年商いくらという話を何度も繰り返し、現在の日本の教育は洗脳だという話を何度もこすった。こすりにこすりまくった。

そのほか、
・保険会社は人を騙す教育を受けたエリートである
・うちの社員には全員帝王学を学ばせている
・成金で財を成した金持ちはみんな心が汚い

など謎の話が2時間延々と続いた。また、途中でロンゲがスーツの懐から白い塊をごそっと取り出して机の上に置いた。目を凝らしてみると、大量の綿棒だった。

「昨日ホテルに泊まった時もらってきたんだけど、邪魔だからいったんここに置きますね~」

年収何千万の社長なのに!?大量の綿棒を!?ホテルからパクってくるの!?

正気かコイツ…

怖かった。

自己啓発セミナーというには誤解があるとは思うが、このセミナー、なんと形容したらいいかわからない。企業説明会でないことは明らかだった。

セミナーが2時間経過し、いったん5分の休憩が入った。私はこの激ヤバセミナーからの脱出を試みた。社長の退室後、素早く荷物をまとめた私は、ちょうど降りてきたエレベーターに滑り込んだ。ため息をついたのもつかの間、1階で出くわしたのは、社長。「あれ、君…」と声をかけられたが、「ほんまにすんません」と唱えながらダッシュで逃げ帰ってきてしまった。

そんな謎の講義からエスケープしてしまった社会不適業者の自分だが、何より謎だったのは、セミナーに参加していた自分以外の女子大生たちが、真剣に、頷いてメモを取りながらセミナーを聞いていたことだ。

自分だけが頭がおかしいという可能性ももちろんあるのだが、この時期まで就職活動を続けているということは、よっぽど切羽詰まった状況なのだろうか。どちらにせよ、宗教の誕生の瞬間はこんな感じなのではないか、という体験だった。 

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