実家の形が変わった日(2) カチカチ言う奥歯を噛み締める。
母が妹と一緒に大きな病院に検査をしに行った日の夜。
わざと明るめの声で、
「今日の検査、どうだった?」
と聞いてみた。
母は、わたしの電話の前にも何人かと電話で話していたらしい。
初めて話すにしては、かなり落ち着いていた。
「お姉ちゃん、びっくりしないでね」
何かあったな、と思った。
何か、とんでもないことが。
「私、すい臓がんだって。
病巣が7つあって、胃にも肝臓にも転移してるって。
もう手術もできないんだって。」
すい臓がん。
それは母の症状を聞いてわたしがネット検索したときに、一番最初にヒットした病名だった。
信じたくなかった。
でも、母からその病名を聞いたとき、「やっぱりそうだったか」と思わざるを得なかった。
「さすがに、『先生、私、あとどのくらいですか』とは聞けなかったわ。」
それはそうだろう。
わたしも母にステージは何かと聞けずにいた。
きっとステージ4なのだろうと思いつつ。
母は翌週の火曜日にもう一度診察を受け、その後の治療方針を決めることになった。
医師は積極的に何かをすることを進めなかったようで、
「今は自宅で過ごして、痛みが我慢できなくなったら入院するのでもいいのでは」
というような話になったらしい。
でも、母は
「できるだけ、家族ともう少し一緒に過ごしたいので、何かできることがあるのであればやってみたい」
と希望。
その結果、一番弱い抗がん剤投与を試すことになった。
当初の計画としては、まず2週間入院し、抗がん剤投与のためのポート設置手術を行い、1度目の抗がん剤投与を行い、体調が安定したところで退院。
その後は週1回病院に通院して抗がん剤を投与するのだ。
母の病気のことを聞いてから、世界は色を失った。
外を歩いていても、光が差す公園の中を歩いているはずなのに、寒気がして、カチカチと歯が鳴った。
奥歯を噛み締めながら、全てが変わってしまったことを思い知った。