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【LIVE FOCUS】藤川千愛 BIRTHDAY LIVE 2024「音楽それは最も甘美な浮かれポンチ」

とことんアツく、とことんゆるく――妥協を許さない藤川千愛、バースデーライブに見たロックの精神性

(写真提供:コレットプロモーション)

(撮影:松本いづみ)


まえがき

 1か月以上の時間が経ってしまったけれど、あの日の一体感と初披露された新曲の興奮を忘れられずに、何か記録を残しておきたいと思い立ってPCに向かってます。岡山出身のぼくにとって藤川千愛のライブに行くことは、岡山に帰省するのと同じような感覚で、ましてや今回は毎年恒例のバースデーライブ。ゴールデンウイークのひとときを最大限に楽しむための絶好の機会ということで渋谷に足を運びました。参戦された方は当日の記憶をたどりながら、そうでない方もライブの熱気を想像しながら、ぜひ読んでみてください。


本文

 シンガーソングライター・藤川千愛が5月3日、「BIRTHDAY LIVE 2024『音楽それは最も甘美な浮かれポンチ』」を渋谷Soptify O-EASTにて開催した。誕生日である6月6日前後の日程で、2019年より毎年開催されてきたワンマンライブ。後述するが、SNSで事前に演奏曲のリクエストを募っていたため、レア曲を聴くことができると期待感を抱いたオーディエンスがゴールデンウイーク真っ只中の渋谷に集結した。

 定刻から4分ほど遅れて暗転。バンドメンバーが奏でるミディアムテンポのビートにゆっくりと乗りながら下手から登場した藤川。故郷・岡山を連想させる童謡“桃太郎”をジャジーなアレンジとフリーキーなフレージングでエキゾチックに歌い上げる。2周目は《あげましょうあげましょう/みんなのバイブスあげましょう/PUT YOUR HANDS CLAP YOUR HANDS 踊りましょう》に変えて呼びかけると、待ちに待った開幕に大歓声で応えるオーディエンス。ライブというよりキネマ倶楽部あたりでショウを観てるような感覚に浸っていたのも束の間、“ぬか床”のイントロが鳴り始めるとバースデーライブを歓迎するハンドクラップやPPPHが巻き起こる。春の陽気にぴったりな花柄がデザインされたシャツをまとい、フロアを見渡しながらダンサブルな4つ打ちビートに揺られていく藤川。続く“ワレモノ注意”ではエメラルドグリーンの照明に照らされたステージで、太陽に向かって伸びるひまわりのように力強く歌い上げ、フロアの至るところから打ち上げ花火のごとく上がるハンズアップも相まって、ひと足早く夏のにおいを感じることができた。

(撮影:松本いづみ)

 ここで最初のMC。「今日は藤川千愛 BIRTHDAY LIVE 2024『音楽それは最も甘美な浮かれポンチ』にお越しいただき、ありがとうございます」と感謝を伝えると、「いやー、初っ端から童謡の“桃太郎”でみんなを動揺させちゃったかな?」としてやったりな表情をニヤリと浮かべる藤川。日頃のSNSなどでの発信で、岡山を心から愛するスタンスが滲み出ているのはファンであれば周知のとおり(筆者も岡山出身なので愛着持って応援してます)。童謡“桃太郎”は毎年春に岡山で開催される「桃太郎フェス」でオープニングに披露されているそうなので、気になる方はぜひチェックを。フェスでは様々なお客さんがいることもありいまひとつな反応で、ホームであるワンマンライブではどんな反応が見られるか気になって歌ってみたそうだけど、良し悪しどちらか判断しづらい反応にどこか不満げな様子。……といったアットホームなやりとりを見ながら、この居心地の良さに「藤川千愛のライブに帰ってきたなあ」とほっこりするもので。

 しまいには「“桃太郎”で盛り上がるのは鬼くらいかな。今日は鬼になってもらって、ギャーギャーに盛り上がってくれますか?」と前代未聞のあおりで“覚醒前夜”へ。長澤トモヒロ(Gt)、アベノブユキ(Ba)、吉村隆行(Key)、camacho(Dr)からなる「アベンジャー」なバックバンドの面々がハードロックなサウンドを構築し、サビに入ると髪を振り乱しながら熱のこもったプレイを見せると、ついさっきのMCのゆるさを鮮烈に塗り替えていく。《道なき道はどうだい》には藤川の体内に宿る反骨精神が感じられて、聴くたびに筆者も奮起させられるお気に入りの楽曲だ。アウトロでギターを構えると、続く“援助交際”では20年近く歌い継がれてきた青春パンクの名曲を自身の感性と重ね合わせながら、ステージを照らすピンク色を背に受けてフロアを染め上げていく。流れのままに「今日はゴミの日(=5月3日)じゃーーー!」と叫んで“ゴミの日”へなだれ込むと、サビの《なあなあなあなあなあなあなあなあ》《さあさあさあさあさあさあさあさあ》のターンでフロアにマイクを託し、会場が一体となった強靭な空間。ラストは赤一色のステージで藤川のみスポットライトを浴び《分別しろよ》で締め。爆音、焦燥感、ライブハウス、最高にロックでかっこいい。

(撮影:松本いづみ)

 「“覚醒前夜”“援助交際”“ゴミの日”聴いていただきました!あちー!」と一気に急上昇したO-EASTの熱気にさすがに堪えながらも満足げな表情。話はそれるが、このように演奏した楽曲タイトルを1つずつMCで話してくれるのは新規ファンにとってわかりやすく、生演奏の興奮を日常に戻ってからプレイリストでリピートする上で有効なアプローチと言える。あまりの熱さを「ひと足先に渋谷に夏が来ちゃったね。衛星からサーモグラフィーカメラで地球を見たら渋谷だけ真っ赤っか。そんぐらい今日の渋谷はアツいです。ありがとうございます!」とユーモアたっぷりに表現し、大歓声で沸き起こる。バースデーライブに来てくれる上に祝ってほしいと伝えることが、うれしさとずうずうしさでこそばゆいと語るも、せめてお返しができればという思いで、事前にSNSで聴きたい曲を募集した藤川。“ワレモノ注意”はリクエストによって数年ぶりに披露されたということで、日頃追いかけてくれているファンとのコミュニケーションを忘れない人間性が垣間見えた。

 「次はセルフカバーいきたいと思います」と告げて披露されたのは、自身もギターボーカルとしてメンバーに名を連ねた4人組ロックバンド・PhatSlimNevaehの楽曲“ついてない”。Ⅳ―Ⅰ―Ⅴ―Ⅵ進行のエモーショナルなサウンドを背に、ギターをかき鳴らしながら歌を届けるさまは、シンガーソングライターとバックバンドの構図ではなく、まさしく1つの「ロックバンド」のフロントマンたる風格が漂っている。続く“自律神経”ではより柔軟な身のこなしながら、楽曲に憑依していくにつれて目つきが鋭くなる藤川。ラスサビ前ではイヤモニの調整を修正するべく下手袖に何やら指示を飛ばすあたり、楽曲中の一瞬一秒も妥協するまいとこだわり抜く姿勢は実に彼女らしい。そのままの流れで“リゲル”に入ると、白く照らされたステージで《この東京の夜空の下の》を《この渋谷の夜空の下の》に変え特別な一夜を演出。ロックバンドが歌うバラードゆえのアツさとやさしさをまといながら、マイクを両手でぎゅっと握りしめて絶唱する姿がとても美しかった。

(撮影:松本いづみ)

 長めの静寂を挟み、「ありがとうございます!」と感謝を伝えると、ライブに先立ってYouTubeにて配信された「トーク&アコースティックライブ『今夜はゆるっと♪』」を振り返るターンに移り、藤川とともに配信に参加していた長澤が「あの伝説の番組ね」と笑いを誘う。楽屋かファミレスばりのゆるさを自画自賛?すると、この日のために用意された楽曲を出張版として生披露すると伝え、歓喜の拍手で迎えるフロア。ステージには椅子に腰を下ろした藤川と長澤のみを残し、改めて『出張!今夜はゆるっとー!』と会場中でタイトルコールを叫ぶと、「オープニングテーマとかあったらいいのになって」と例えばで挙げたニッポン放送系『オールナイトニッポン』のテーマ曲“Bitter Sweet Samba”を「弾けたりしますか?」という藤川のむちゃぶりに、長澤が即興で応える一幕も。瞬時に音を拾いコードを掴んで弾いて見せるあたりはさすがギタリスト。……とゆるゆるのオープニングを終えると、コバソロとのコラボレーションでYouTubeにアップされているback number“幸せ”のカバー、活動初期から大事に歌い続けてきた“昨日のあたしに負けたくないの”をアコースティックギターの音色に乗せてワンコーラス披露。アコースティック編成ゆえにボーカルが浮き彫りになるも、手振りを交えながら楽曲の持つ情感を丁寧に歌い上げた藤川。バースデーライブならではのスペシャルなひとときとなった。

 バンドメンバーが戻り「続いては新曲をやりたいと思います!」と宣言すると、「新曲のタイトル覚えてますか?」と未発表の新曲タイトルを思い出させようとしてきょとんとするフロアに、あわてて「違う違う、間違えた!今夜のライブのタイトルですね!」と笑いながら訂正する藤川。「今夜はみんな浮かれポンチになってもらおうと思います!」と呼びかけ、これまでのライブでどんなむちゃぶりにも応えてきた百戦錬磨のオーディエンスを「世界でいちばん優秀なオーディエンス」とたたえると、新曲のコールにつながる2つのミッションをレクチャー。1つは藤川の「ポポポ!」に対して「ポンチポンチ!」とコールするもの、もう1つは2番のAメロ終わりで「だだ大吉!」と叫ぶもの。レクチャーで見事に習得するその対応力の速さに感心するものの、「今日は収録が入ってるので、みなさん頼むよ」と突入した本番(=原曲)はさらにBPMが上がるというスパルタ仕様。新曲タイトルは“凡人開花”、様々なカラーのレーザーが飛び交う中でⅣ―Ⅲ―Ⅵ―Ⅰのコード進行がドライブしながら、サビではさらにスピードアップして4つ打ちビートに様変わりする、これまでの楽曲の中でもかなりの急展開。もちろんライブ映えすることは間違いなく、初披露とは思えない熱狂ぶりは2つのミッションも含めてさすがのオーディエンスだった。

(撮影:松本いづみ)

 「新曲“凡人開花”聴いていただきました。どうでした? さすが世界一のオーディエンス!」と喜びを見せるも、いきなり「話変わってもいいですか?」とツッコミを入れたくなるMCに笑いが起こるも、ライブの2日前に放送された日本テレビ系『県民スター栄誉賞』の話題に。その内容は、各都道府県民の地元民が自慢したくなる「顔」となる有名人のランキングトップ10を紹介するもの。地元愛ゆえに岡山好きを公言しており、出身である岡山県井原市の一日警察署長、井原市制施行70周年記念ソング“普通じゃない世界を知らなかった僕ら”制作、また「岡山県人の集い」にて岡山県知事の前でライブをした経験から「ひょっとしたら……」と期待してシャッターチャンスを逃すまいとスマートフォンを向けていたものの、結局ランクインしていなかったことへの悔しさをこぼす藤川。いつかランクインできるほどの活躍を見せていくことが新しい目標になったと伝え、“たしかなことって”へ。ストレートに突き抜ける歌とメロディの力が音となって振動で伝わると、「みんなタオル巻いてますか? 今日は腕がちぎれるくらいぶん回してください」と呼びかけて“スローモーション”へ移り、サビではフロアにマイクを向けつつ全力で踊らせにかかる。続いて、下手袖にマイクスタンドを要求するもすぐ後ろに置いてあることに気づくおっちょこちょいな一面を覗かせつつ、“面倒な女”をプレイ。「ロックな藤川千愛」も好きだけど、R&Bなサウンドを乗りこなす「ムーディーな藤川千愛」もまた彼女の魅力のひとつ。フェミニンに腰をくねらせながら楽曲で描かれた女性像を体現していく。会場中に響かせた中盤の足踏みとハンドクラップの一体感も見事だった。

 「ありがとうございます!」と感謝を伝えると、引き続きテレビの話で、日本テレビ系『月曜から夜ふかし』に不定期で出演する株主優待でおなじみの「桐谷さん」の話題に。時間に追われながらママチャリで爆走する姿に「わたしほぼ桐谷さんなんですよ。わたしの休日と似てるなと思って」と休日の自身の行動を回想する藤川。からの、せわしない動きつながりで「“アンダンテ?”のMUSIC VIDEOを公開したんですけど、観てくれました?」と問いかけると、盛大な拍手で応えるフロア。再生数のために拡散をお願いすると“アンダンテ?”へ。ハンドマイクを握った大胆なステージングとがなりを効かせたボーカル、《これが人生》と締めるエンディングは藤川のシンガーソングライター人生を堂々と誇示しているようだった。エレキギターを構えて再びPhatSlimNevaehのセルフカバーとして“Dive”を披露すると、本編ラストは“やっちもねぇ”。ハンドマイクでステージ端まで近づいていくなどフロアとの距離をより一層詰めながら、言葉数の多いリリックをまくし立てていくと、会場の熱気は臨界点に到達。盛大な拍手に送られる形で本編が終了した。

(撮影:松本いづみ)

 アンコールを求めるオーディエンスは、その場で二手に分かれて「ポポポ!」「ポンチポンチ!」と初披露されたばかりの新曲のコールを再現すると、新グッズのTシャツに着替えた藤川がステージに戻り《愛してるって何だろうね》と“愛の歌”を歌い始める。詰めかけたオーディエンスの愛情を一身に受け、その感触を確かめながら愛情で返していくように言葉を紡いでいく。「アンコールありがとうございます!ポポポ ポンチポンチ やってくれてた?めっちゃ良かったよ!」とあふれる喜びを表しつつ、「ここでお知らせをしてもいいですか?」と伝えると、6月23日に「藤川千愛 LIVE 2024『ANISONIGHT+』」を東京・神田スクエアホールにて開催することが発表された。そして、もうひとつのお知らせをしようとしたところをバンドメンバーが「その前に!」とさえぎり、ファンの有志から贈られたバースデーケーキとともに“Happy Birthday to You”の歌が届けられた。お祝いムードのままに写真撮影を終えると、もうひとつのお知らせとして、7月21日に自身初の海外公演「藤川千愛 2024 上海LIVE」をバンダイナムコ上海文化センター未来劇場にて開催することが発表され、会場中がこの日いちばんの大歓声に包まれた。昨年末から海外公演することが夢だと口に出していたことが叶ったと喜びを見せ、「どうせなら東南アジア、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニアってワールドツアーしたいなって。どこで誰が聞いとるかわからんけ、どんどん言うていきます。夢は大きく」と将来のワールドツアーに希望を託した。

 すると「さあ、ここからは体力残すなんてダサいやつはおらんよね?」とスイッチを入れて「次はこの曲です。柑橘系!」と叫んで“オレンジ”へ。オレンジ色の照明を浴びながら夢のまたその先へ――《きっと2人なら全部うまくいくってさ》と新たな夢を叶えるための一歩をファンとともに踏み出した。そのまま“嗚呼嗚呼嗚呼”のイントロが鳴らされると待ってましたと言わんばかりのハンドクラップで応え、サビの《「嗚呼嗚呼嗚呼」》はお決まりのシンガロング。「もう1曲いけますか?」と問いかけるとバンドメンバー紹介を挟んで“おままごと”へ。ローからハイまで歌声を使い分けながらスタンドマイクで魅せる藤川。この日限りのアツいワンマンライブを総括するようなロックナンバーに最高の盛り上がりを見せ、詰めかけたオーディエンスに惜しまれつつもステージをあとにした。

 新たなライブアンセム“凡人開花”の誕生と、29歳の誕生日をいち早く祝福されながら幕を閉じたバースデーライブ。数々のアニメ作品のタイアップで注目を集め、国内外から支持を集めてきた彼女にとって、自身の持ち味を発揮できるアニソンライブと待望の海外公演。新たな夢に向かう藤川千愛の活動を引き続き追いかけていきたい。


セットリスト

1. 桃太郎(童謡)
2. ぬか床
3. ワレモノ注意
4. 覚醒前夜
5. 援助交際
6. ゴミの日
7. ついてない(PhatSlimNevaehセルフカバー)
8. 自律神経
9. リゲル
10. 幸せ(back numberカバー) ※アコースティックver.
11. 昨日のあたしに負けたくないの ※アコースティックver.
12. 凡人開花(新曲)
13. たしかなことって
14. スローモーション
15. 面倒な女
16. アンダンテ?
17. Dive(PhatSlimNevaehセルフカバー)
18. やっちもねぇ
EN1. 愛の歌
EN2. オレンジ
EN3. 嗚呼嗚呼嗚呼
EN4. おままごと(PhatSlimNevaehセルフカバー)


■「藤川千愛 LIVE 2024『ANISONIGHT+』」
2024.6.23(日) 東京都 神田スクエアホール
https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=406930

■「藤川千愛 2024 上海LIVE」
2024.7.21(日) バンダイナムコ上海文化センター未来劇場

■藤川千愛 公式X




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