「レヴェナント: 蘇えりし者」感想

「レヴィナント」を昨晩レイトショーで観てきたのでその感想を書こうと思う。

感想といってもルベツキのファンなのでそこを中心に書こうと思う。

万人受けはしないだろうが、情景が非常に美しく脚本も優れいて個人的には非常に価値がある作品だと思う。劇場で観てこそ意味のある作品だと強く思うのでぜひ観てほしい。

撮影監督のエマニュエル・ルベツキのファンとしては、はなっからルベツキの撮り方を分析するつもりで観たわけで、そのこと以外のことにはあまり触れるつもりはないが、恐らく日本ではレオナルド・ディカプリオの体当たり過ぎる演技と坂本龍一ぐらいしか触れないと思うので背景としてメキシコ人監督がハリウッドで躍進しているこの時代で、メキシコ人監督とメキシコ人撮影監督とが西部開拓時代のネイティブアメリカンとスコットランド系移民の話を描くと政治的な側面から見ても非常に意欲的な作品だとは思う。本作の原作を未読の為、そこに触れることはしないが、痛々しさが非常に表現しており極限の情報が非常によく伝わってくる映画であった。

また、「ニュー・ワールド」(2005)(奇しくもこの作品もルベツキが撮影監督!)のようなイギリスからアメリカ北部に開拓に来た男とネイティブの女性との恋を描いた作品があったことを思うとその比較もきっと面白いが割愛させてもらう。

ルベツキが以前撮影した「ツリー・オブ・ライフ」(2011)のように風景を撮った描写が非常に多く、美しい風景が続くが「ツリー・オブ・ライフ」のような宗教色が強く意味の分かりにくい美しいだけの作品ではなかった。宗教色が全くないといえばそんなことはなく、魂を鳥として扱うのはまさに自然に還るネイティブアメリカンの死生観であり、火・風・水・土の四元素が非常に多く映り、グラスはその洗礼にあうこともユダヤ・キリスト教的な人間中心主義ではなく、その他の一般的な宗教の自然中心主義的であるともいえよう。

脚本はそう言った細かいところも含めよくできていると思う。

ルベツキは映画への没入をいかにさせるかを試みてきた、それは過去作品を見ても読み取ることができる。

アカデミー賞撮影賞を取った「ゼロ・グラビティ」(2013)、「バードマン」(2014)もも通ずる部分はそこだった。

驚異的な長回しをやってのけた「トゥモロー・ワールド」(2006)ではドキュメンタリーのように主人公セオを中心に見せることによって生まれる緊張感が上手く描かれていたわけで、長回しに見せるためにわざわざ「PlaneIt」というツールを開発し最大6分もの長回しやってのけた。

「ゼロ・グラビティ」では冒頭からCGで計算尽くされた長回し行い、宇宙空間に投げ出されたような映像を見せてくれた。

「バードマン」では、もういっそ1回の長回しで撮影されたように見せるため考え抜かれたカメラワークと高度な技術を用いて、それを実現して見せた。

いつも新しい映像体験をさせてくれるルベツキが今回はどういった体験をさせるのか非常に期待して行ったが、はるかに期待以上の作品だった。

今まで通り考え抜かれたカメラワーク、これに加えて、監督がイニャリトゥはキアロスクーロ画のようなものを作りたいとのことだがそれをやるのは容易ではなかっただろう。今回は自然光であるので広いラティチュードで撮影し逆光でも顔が黒く落ちていない撮りかたは人の目に近い感覚をに近づけたいという意図があったのだろう。

本作品はルベツキらしさを覗かせる一方、それだけじゃなく新たな試みのようなものも多数あった。

冒頭での戦闘シーンでは、人を殺すたびに殺した側の人にカメラが追っていくところは、言うなればサッカーの試合を撮影しているような映像であり、テンポが良かった。

戦闘シーンのレイヤー化と呼ばれるのは最近の映画だと良く使われている手法だとは思う。たとえば「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(2015)のような大人数が出るヒーロー映画ではよく使われる手法ではあるが、「アベンジャーズ」のようにほとんどの登場人物がCGじゃない本作品では非常に困難だと思うのと、寄ったり離れたりするのが非常に多く、構図の関係も完璧だったのもルベツキがよりうわてな部分を証明する結果となった。

今までのルベツキの撮影の長回しの特徴として、ショットの始まりを動で始め、静で終わらせて次のショットで動から始まることを多様していたが(この動→静、割って動から始まることは割りと昔からある手法で黒澤明の映画でも良く見られる)、本作品は動→動で終わり、動で始まるようなものが多く、ルベツキでは珍しいと思ったが結果テンポがよくなったと思う。もちろん編集によるものだとは多聞にあると思うが

カメラに血が飛び散るのは「トゥモロー・ワールド」でもやっており、お家芸を見たようなもので、それに加えて息がレンズに吹きかかるのはドキュメンタリーのそのものだった。

あくまで、一回軽く見たときの感想であるので、ネタバレを極力避けての感想なのでこの程度で収めておこう。

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